18.子供に恋はしません。
「殿下はライ国の国王になったら何がしたいのですか?」
私が尋ねた言葉にルブリス王子殿下は顔を顰めた。
「王位につくことに特に意味は感じていない、ただ私はイザベラが欲しいだけだ。最低でも国王にならなければ君は手に入れられないだろう」
ルブリス王子殿下はうっとりとして私の髪をいじってくる。
もしかして、今、良い雰囲気になっていると思っているんだろうか。
私は空気が読めないが、彼は周りの空気を読もうともしない。
「私がルブリス王子殿下を好きになることはありません。今、分かりました。私はあなたを無垢な子供のようだと思っています。子供に恋はしません」
私がそういうと私の髪から手を離し、彼は私のベットに座った。
「死んだ女の子扱いの次は子供扱いか、イザベラには私のことを男として扱って欲しいものだな」
私はルブリス王子の態度には振り回されてばかりだ。
絶望して私だけが頼りのように振る舞っていた時は彼を助けなければと思った。
私がサイラス様にしか恋ができないと告げた時は、泣きながら私に振られたことを受け入れているように見えた。
今は、そんなことなかったのように自信満々に振る舞ってくる。
このように気分で人を振り回す人に関わるのは正直怖い。
私は大事な式典でうとうとしてしまう自由な彼をみて子供みたいだと思っていた。
苦しい時に苦しい助けてと助けを求められる彼は本当に恵まれた子供だ。
苦しい時に助けてもらえない絶望を知っている優太が、彼をみて不快に思うのは当然だ。
「他人のベッドに座らないでください。それが王族の振る舞いですか?」
私の言葉に彼が顔を顰める。
「イザベラ、どうしたのだ? いつもの優しい君ではないみたいだ。悪魔にでも取り憑かれたのか?」
「ルブリス王子殿下、あなたが期待しているのは、いつも慰めてくれる優しい女性ですか? 私はそんな人間ではありません。今、あなたを注意したのは王族としてもありえない振る舞いをしていて、他人のベットに突然座るのは子供くらいだと思ったからです。私も人を見る目がないけれど、王子殿下も人を見る目がなさそうですね。人の本質を見抜く力は君主にとって必要不可欠な力です。王太子の地位を速やかにエドワード王子に譲っていただきませんか? 幸いここにはライ国王陛下もいらっしゃっております。国王になってもしたいことはないのでしょう? 欲しいものは私だけなのでしょう? 私は地位身分は関係なく自分が愛せて、愛を返してくれる方と一緒になりたいです」
「イザベラ、君は私に王位を捨てろと言っているか? そんなものを捨てて君が手に入るならば私は喜んで捨てるよ」
ルブリス王子殿下の言葉に彼は本当に王位に興味がないと悟った。
国王になって、ライ国の民を導いていきたいという感情さえないのだろう。
生まれてから次期国王になる未来が約束されていたのだから、てっきり国王になることに固執していると思っていた。
国政よりも女に夢中なのは、精神を強制されていてもそうでなくても同じではないか。
「私は手に入りません。私は子供を愛おしいと思いますが、子供に恋はしません。ルブリス王子はエドワード王子の仕事についてどう思いますか? 彼は幼い頃から驚くほど多くの政策を提案しています」
私はルブリス王子殿下の味方をしようと思った時に、対するエドワード王子の仕事ぶりを調べた。
すると彼が幼い時から常に国政を考え、政策を立案していることに気がついた。
天才なのかと思っていたが、彼が優太だと言うことを知った後では納得する。
優太は努力の天才なのだ。
理不尽な立場になっていても努力し、最善を尽くし続ける不屈の精神の持ち主だ。
「エドワードは、私のことを生まれてからずっと敵だったといった裏切り者だぞ!」
ルブリス王子殿下の言葉に私が肩を落とした。
エドワード王子に厳しい言葉を言われた時点で、殿下にとってもう彼は裏切り者扱いなのだ。
「将来に渡り、ライ国のことを第一に考えるのであれば、優秀なエドワード王子の力を借りなければならないことはわかりませんか?殿下が国王になるならば、彼は臣下になります。感情に流されて彼の努力がみられないならば、今すぐに王太子の座をエドワード王子にお譲りください」
優太は前世で16年、今世で14年の時をひたすら努力をして生きている。
理不尽な扱いを受けても、家族には苦しさを見せない。
今でも彼は苦しい姿を誰にも見せていないのだろう。
彼はイザベラである私に思わず不満をぶちまけてしまい追い込まれて、木に寄り添いにいったのだ。
どうして私が愛するサイラス様の木になりたいと願ったかがわかった。
私は誰にも言わず一人戦う優太が、木に寄り添い必死に耐える姿がいつも心にあった。
そこにあるだけで、大切な人を癒せる木になれたらどんなに幸せか。
「わかった。イザベラのいう通りにしよう。そんな事で、イザベラが手に入るならば、王太子の座などいくらでもエドワードにくれてやる」
私は気がつくとベッドに押し倒されて、ルブリス王子殿下に組み敷かれていた。
どれだけ私は人を見る目がないのだ。
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