12.初めて友達と呼べるような方ができました。
「イザベラ、あなたに会えないだけでとても時間が長く感じました。ビアンカ王女と仲良くなったようですね」
私とサイラス様は舞踏会の開始を知らせるダンスをした。
今、たくさんの人に注目されているのに、私は緊張せず穏やかな気持ちでいられている。
「はい、初めて友達と呼べるような方ができました」
ルイ国ではララアやレイラ王女に姉妹のように親切にしてもらった。
エリス様という頼りがいのある尊敬できるお姉様のような存在もできた。
しかし、自然に笑い合ったりできるような友人ができたのは前世からみてもはじめてだ。
私は前世で初めてできた友達だと思ってた白川愛を思い出し、一瞬心か沈んだ。
「ビアンカ王女は控えめで優しい方です。イザベラとは気が合うのではないかと思ってました」
サイサス様が言ってくれた言葉にパッと心が明るくなる。
私とビアンカ様は住んでいる国も違うけれども、地上に私の友達が存在するという事実が嬉しくてたまらない。
「嬉しそうで、何よりです。イザベラ、今日は外は猛吹雪です。危ないので、外には決してでないでくださいね。疲れているでしょうから、早めに会場から出て部屋で休むのですよ」
サイラス様とのダンスが終わり、私は彼にお辞儀をした。
私は自分の感情が彼にバレバレだということに少し恥ずかしくなった。
「イザベラ・ライト公爵令嬢、あなたと踊れる幸運を私に頂けませんか?」
ルブリス王子が1曲目のダンスが終わると同時に、私をダンスに誘ってくる。
ダンスというのは誘われたら断っては行けないのだろうか。
私には2曲連続で踊れるような体力がない。
気が付くと曲がはじまってしまい、私は慌ててルブリス王子の手に自分の手を重ねた。
「疲れているなら、私に体を預けも良いいぞ。イザベラ。」
殿下に耳元で囁かれているが、あまり私が彼と密着すると周りがどう思うかということばかり考えてしまう。
「昼間の式典で、うとうとしていたから元気なのですか?」
「イザベラは私が気になってよく見てくれていたのだな。正直、ルイ国が寒すぎて眠くなるのだ」
「寒いと眠くなるとは、殿下は冬眠する熊のようですね」
「熊じゃない、私はイザベラだけを愛する男だ。昼間の演説でイザベラが私に、自分が好きなのはサイラス国王陛下だけだと言いたいのはわかった」
ルブリス王子殿下の言葉に私は驚いてしまった。
殿下はやはり根っこの部分が私とは全く違う。
一時、彼は自分を小説の脇役だと自分を評したが、彼は生まれながら主人公扱いされてきた人なのだ。
確かに人のストレス解消のように虐められた綾と、明らかに王位から引き摺り下ろす目的を持って非難された殿下が同じわけもない。
殿下はそのメンタルも立場も永遠に脇役にならない人間だ。
「私は私のサイラス様を愛する想いを誰にも汚されたくなかっただけで、ルブリス王子にメッセージを送った訳ではありませんよ」
「それは、私に諦めないで自分を想っていて欲しいということか?」
ルブリス王子殿下の翡翠色の瞳がキラキラと嬉しそうに輝いている。
あまりの輝きに彼の言葉を否定しずらい雰囲気になる。
私は彼がネガティブな人間だと思っていたが、彼はスーパーポジティブ人間だ。
今思えば彼がネガティブ思考に陥っていたのなんて1ヶ月くらいだ。
そのあとは、思いの他ライ国の平民に好かれていた事で自信をすぐに取り戻していった。
「ルブリス王子殿下のように、ポジティブに物事を捉えられれば幸せでしょうね⋯⋯」
私は新しい人生を歩んでいるのに、いつまでも前世の記憶を引き摺っているのが苦しい。
どうして神様は前世の記憶を消去してから、私をイザベラに憑依させてくれなかったのだろう。
「イザベラは今、私に気持ちが傾いていたりするのか? 王妃にならなければ一緒にいられないサイラス国王陛下より、私と一緒の方が幸せだと気がついたのか?」
相変わらず、イマイチ話が噛み合わないと思っていたら曲が終わった。
「良い時間でした。ルブリス王子殿下」
10歳で婚約したのに、殿下と踊るのはこれが初めてだった。
やはり王子様だけあって殿下はダンスが上手なのだなと思っていると、私をダンスに誘う聞き慣れた声がした。
「イザベラ・ライト公爵令嬢、今日はあなたと踊れるのを楽しみにしていたのですよ」
キラキラの金髪に翡翠色の瞳をしたエドワード王子の声は、優しいようで怒っている感じがした。
曲がはじまりエドワード王子のリードと共に私は踊り出した。
「もしかして、イザベラ様は僕のことが嫌いですか?」
急に耳元で囁かれた言葉にハッとして私は顔を上げる。
「そのようなことは考えたことがございません」
どうしてそう思われてしまったのだろうか。
ルブリス王子殿下を支援してしまったことで、エドワード王子は私に腹が立っているのだろうか。
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