11.人間の形を保ち想いを告げてきます。
「イザベラ様がサイラス国王陛下が見つめる木になりたいとおっしゃっていた言葉がどうしても忘れられなくて、どうしてもそれを伝えたくて会いに来てしまいました。私もいつも愛する方の側にいつもある木になりたいと思っていたのです。」
「ビアンカ様にも愛する方がおられるのですね。」
「はい、身分の差があるので打ち明けられませんが、私の護衛騎士です。いつも彼の訓練を、こっそり王宮の窓から覗き見ることが私の楽しみでした。」
初対面の私に自分の隠していただろう想いを打ち明けてくれた彼女に私は親近感を感じた。
「身分の差がなんなのですか?木ではなく人間の姿を保っているのです。想いを打ち明けるだけでも打ち明けてみてはどうでしょうか?」
「しかし、王女である私からそのようなことを言っては彼が困ってしまいます。」
「ここはご自分のことだけを考えてください。私はビアンカ様には幸せになって欲しいです。ビアンカ様の想い人には盛大に困って悩んで頂きましょう。彼の思考に一粒の染みでも作れれば十分ではないですか?」
ビアンカ様は白川愛のように私に友達になろうとは言ってきていない。
それなのに、私は彼女を友達のように見做していた。
「はい、その通りです。長年の想いを彼に明かしてみようと思います。私のように醜い女から言い寄られることは不幸なことと思いますが、私はやはり伝えたいのです。」
私は彼女がなぜ自分を醜いと言っているかが、全くわからなかった。
レイモンド様も彼女のことを不細工と言っていたが、彼女は普通に可愛らしい女の子に見える。
「私は今どうして自分がサイラス様を愛しているかが分かりました。彼は一度も私の容姿の美醜を口にしたことがありません。私はこの入れ物でしかない体を評価してくる人間を愛することはないと思います。」
思えば今までサイラス様は一度も私の容姿を褒めたり貶したりしたことはなかった。
そのことが元ブスの綾である私にとっては自分自身の中身を好きになって貰えたようで嬉しかったのだ。
私には人に誇れる中身はない、でも彼が好いてくれる部分があればそれで十分だ。
「入れ物、そのように考えられてればいかに今まで楽に生きられてたかと思います。ご存知かと思いますが、私は生まれながらに額に消えないアザがあります。このアザを他の方に見せて不快にさせないようにするのが、私がこの世に生まれ堕ちてから抱える至上命題です。」
彼女が目までかかる長い前髪をかきあげて見せてくれた額には小さなアザがあった。
確かにこの世界の王族、貴族の女性は顔や体の傷一つ許されない。
私がつまずいてしまった時、いつも体に傷を作ってないか従者が慌てたように確認してきた。
「くだらないですね。このようなものに惑わされて、ビアンカ様の魅力に気がつけない人間は相手にする必要がないと思います。私が髪型を手直してもよろしいでしょうか?前髪をストレートに下ろさず、髪を横で流して止めましょう。髪の毛もアップスタイルにした方がスッキリして可愛いです。」
前髪をストレートでおろしているから、風によって額が見えるのではないかと彼女は不安になるのだろう。
しっかりとピンで止めて仕舞えば、彼女の心の不安も軽減できると思った。
「イザベラ様にそのようなメイドの仕事をさせる訳には行けません。」
「メイドの仕事ではありません。私はこのような仕事をするのが夢だったのです。」
美容師の仕事よりも同年代の女の子の髪をいじって仲良くするのは、私にとっては夢を見ることも許されないほどの夢だった。
「これが私ですか?」
彼女は鏡を見て目を丸くして驚いていた。
傷が見えない程度にしっかりピンを止めて、髪をアップした彼女は驚くほど可愛く垢抜けていた。
「ビアンカ様ですよ。可愛すぎて女の私もときめく女の子です。ビアンカ様、是非愛する方に告白してください。私自身、サイラス様へ想いを伝えるまで4年を要しました。想いを伝えることが容易でないことがわかっています。でも、私は想いを伝えたことを後悔していません。私とビアンカ様は木になりたい女ですよ。上手くいかなければ木になることを目指せば良いのです。」
「ふふ、イザベラ様、本当にそうですね。木になりたい女として人間の形を保ち彼に想いを伝えてきます。」
「そろそろ、舞踏会の時間ですね。会場に向かいましょうか。」
私とビアンカ様が部屋に外に出ると、今から舞踏会の会場に向かうであろうレイモンド様に出会した。
「イザベラ様、相変わらずお美しいですね。ビアンカ王女、額のアザは消えたのですか?あなたはこんなにも可愛らしい方だったのですね。」
誘惑するように近づいてくるレイモンド様に、私とビアンカ様は顔を見合わした。
「レイモンド様はもし私に鼻毛が出ていたら、その鼻毛はどうしたのですかと聞くのですか?あなたが将来ハゲでも周りの方は髪はどうしたのかと聞かないと思います。見た目に拘った発言ばかりしていると、人の入れ物ばかりを見て中身を見られない人間だと思われそうですから。昨日は大変失礼な言葉をかけてしまい申し訳ございませんでした。私たちは急いでいるのでこれで失礼します。」
私とビアンカ様はお互い笑いを堪えながら舞踏会の会場に向かった。
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