10.優しい空気を纏った女の子。
「全ては私の自信のなさや、未熟さが問題なのでサイラス様は何も悪くありません。そういえば、昨夜レイモンド様がエドワード王子がアツ国の姫を側室にと考えていると言っていましたが、そのようなことが可能なのでしょうか?」
「一国の姫を側室に迎えるのは、エドワード王子が立太子したとしても難しいでしょう。それを可能にするとしたら、エドワード王子が直接彼女の心を掴み、彼女の方から彼の側室になりたいと言わせるしかありません。彼ならば、可能かもしれませんね」
エドワード王子はレイラ王女やララアが恋した魅力のある方だ。
「サイラス様、我儘かもしれませんが私は6年もの間、一途に彼を想い支え続けたレイラ王女をエドワード王子には大切にして欲しいです」
きっと王族からすれば未熟で幼い考えで、レイラ王女自身ももっとドライに考えているかもしれない。
「イザベラはレイラに意地悪なことも言われていると思うのですが、彼女が本当に好きなのですね」
私はレイラ王女にはいつも親切にしてもらっている気がする。
でも、確かルブリス王子も彼女は私の反応をみて、私を弄んでいると言っていた。
「意地悪なことなんて言われたことなんてありましたっけ。私にとって彼女は憧れであり、愛する人に愛されて幸せになって欲しい女性です」
レイラ王女ががエドワード王子の側に利用されてでも一緒にいたいと思う気持ちは本物だと分かるから、彼女の片想いが報われて欲しいと私は思ってしまうのだ。
「イザベラ、あなたは優しすぎて私はいつあなたが傷つくのかとハラハラしています。今日から王妃の部屋に移動しますよ。昨日は、猛獣王太子の近くの部屋にアサインしてしまい申し訳ございませんでした。怖い思いをしましたよね」
「いえ、なんだかとても勉強になりました。」
レイモンド様の話によるとサイラス様の妻になれたとしても、ルイ国では情婦をとれるらしい。
今のままの私で彼を満たし続けることなどできるはずもない。
彼とお互いだけ見つめあう未来が欲しいけれど、それは欲張りと言うものだ。
「イザベラ、彼から学んだと思っていることは全て忘れてください。イザベラには悪影響の情報ばかりです」
サイラス様とレイモンド様は全く違う性格なのに仲が良さそうで、微笑ましくなった。
部屋を出たところで、灰色の髪に灰色の目をした可愛らしい女性と目があった。
私と目があった時パァッと顔が明るくなったが、隣にいるサイラス様を見て慌て出したのがわかった。
「サイラス国王陛下にビアンカ・アツがお目にかかります」
「サイラス様、実は彼女とお約束があったのです。新しいお部屋は人に聞いて案内してもらいます。では後ほど舞踏会でお会いましょう」
なんとなく、彼女は私に会いにきてくれた気がしたのだ。
アツ国の来賓はそもそも違う建物に部屋をとってあるので、彼女がここにいるのはおかしいからだ。
「分かりました。イザベラ、短い時間でしたが、一緒にいてとても癒されました」
サイラス様は私の頬に軽く口付けをして去っていった。
その姿をビアンカ様が顔を赤くして見ていて、私も恥ずかしくなってしまう。
「ビアンカ王女、よろしければお部屋で話しませんか? 美味しいお菓子と紅茶があるのですよ」
私の部屋にはたくさんお菓子が用意してあった。
おそらく、私がストレスで食事ができなくてもお菓子だけでも食べるようにとサイラス様が準備してくれたのだろう。
「ライト公爵令嬢、お心遣いありがとうございます」
控えめなでおとなしい印象のする彼女は、小さな声で微笑みながら言った。
「ライト公爵令嬢、あの先程の演説大変感動いたしました。恋をするあまり、ご実家のことも忘れたと言うことなのでイザベラ様とお呼びしても宜しいでしょうか?」
私は彼女の言葉に驚いてしまった。
今回話した内容は、私には珍しく何を言ったか覚えていた。
私は自分が側にいることで、サイラス様がライ国を贔屓することを期待されているようで嫌だった。
だからライ国の方々に何も期待しないで欲しいと言うことを伝えたかった。
「はい、そう呼んで頂けると嬉しいです。私もビアンカ様とお呼びしても宜しいですか?」
私の言葉に微笑みで返してくれる。
初対面なのに、私は彼女の持つ温かい空気感が大好きになってしまった。
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