08 にぎわう仮本部1
下部に隊員の人物を紹介してます
対人外生物異物対処班の本部は東京にある。
というより、東京本部がゆいいつの拠点である。
隊員6人+後衛50名の弱小――希少組織に、複数のハコモノを作る予算はない。
ここ札幌の仮本部も最低だ。
隕石集中地帯の側の学校――の職員駐車場。
そこに置いた2台のコンテナハウスが仮本部であった。
雨漏りしないだけマシな廃棄寸前の中古コンテナ。宇宙の怪物から地域をまもる指揮所だ。
危険地帯に近いため学校は閉鎖。職員も生徒もいない。いつもは閑散としているのだが、今日ばかりは賑わっていた。マスコミが詰めかけてるのがその理由だ。居並ぶカメラが向けられてるのは、人の出入りが少ないコンテナ。訪ねる人あらば、たくさんのインタビュアーがとりかこむ。
マスコミ意外にも大学のヒーロー同好会、宇宙研究者といった、その手の集団が詰めかけ、バズりねらいの一般人やネットチューバ―やら野次馬が輪を囲む。群衆を当て込んだ屋台が並べば、それを目当てに一般人もやってくる。人込みが沿道にまで溢れたせいで、交通整理の警官が配備された。よさこいソーラン祭りかよという騒ぎに発展いしていた。
「入場料をとってやるか」
窓からお祭り騒ぎをながめる隊長の相崎は、本気で考えた。予算の足しになれば、備品がアレコレ買える。
コンテナの金属の重いドアが開いて、男が入室してきた。ロン毛茶髪のフリート隊員、恵桐万丈だ。背後には追いすがる報道陣。マイクとカメラの攻勢をふりきれなかったようだ。
「フリートの存続が危ぶまれてる件について一言!」
記者のひとりが閉まる直前のドアに片足をツッコんだ。
古典的で効果的なセールスの技法だが、ここにためらう人間はいない。鉄心入りブーツで恵桐が踏みつける。
記者はたまらず足をひいた。ドアが閉じると喧騒が大人しくなった。
恵桐は相崎に目礼してから、射抜くような目つきの射妻エリカに言いわけする。
「……手は出さなかったぞ」
「足は出したけどね。チーフ。遅刻の恵桐が到着です。」
なおもにらむ射妻をすり抜けて、恵桐万丈が自分の席に着く。6人の隊員が全員そろった。相崎は、部下ひとりずつ見る。誰もが疲れていた。
「昨日はご苦労だった」
当然だ。巨大な怪物と死闘を繰り広げたのだから。
恐竜時代に、人類に近いヒト族がいたかどうかは、はっきりしてない。
ティラノサウルスを倒した英雄がいたとしても、文献がないため想像の域をでない。
確認できる歴史では、今回のあれが巨大生物と初対峙となる。
闘わなかったメンバーもいるが、彼女は彼女で後方処理に忙殺された。疲れてないはずがない。実際に死にかけた者星などは、いまも死にそうな目をしてる。卯川玄作が眼鏡をふきながらぼやく。
「昨日は怪物で最低だったが、今日はマスコミが最悪にひでぇ。どうにかならんのか」
相手かまわず文句をいう男は本日も快調だ。
眼鏡の小太り。戦闘の場よりコミケ会場が似合うと思ってしまうのは偏見だろうか。
制服よりもまわしが似合いそうな体型の男は、元海上自衛隊幹部だ。
「プレスは、怪物ほどじゃないだろう」
「質問がひでぇんだぜ。武器を市民にむけたことはあるか? 怪物のおかげで給料をもらう気分はどうだ? 海自をでた理由は? オレの元上司のコメントをつきつけて、フリートがゴミ溜めというのは本当ですかときたもんだ。ガラスのハートをえぐる攻撃なら、怪物のほうが温厚だッ」
座る椅子に疲れきって寝そべる卯川。
相崎も肩をすくめるしかない。
「あきらめろ。こんな体験できる人は少ないと前向きにとらえろ。まあ、実のところ俺にも対処がわからない。マスコミ対策は上に丸投げするつもりだ」
相崎ですら記者の質問攻めを受けてる。早朝に出勤したのにだ。自席ディスプレイをガン見みする巨大に、飽きれながら感心する。彼女は、コンテナに泊ったのだ。
「暑いのに窓も開けられねぇ。蒸し風呂だぜ」
「エアコンは手配してある。ミーティングを始め――」
ガンっと、重い音がコンテナ内部に響いた。なんだ? と言ってると重い音。
石か何かを投げつけているらしい。恵桐が窓を小さく開けて外をみた。
「市民だ。花壇の積み石をぶん投げてやがる暴動になってんぞ」
「暴動だって?」
相崎も窓にくいつく。報道陣を差し置いて、普通の人々がコンテナを取り囲んでいた。
石を投げてるのは2・3人だが、コンテナは住民に包囲されてる。100人はいる。
「フリートは出てけー」
「出てけ―!」
「お前らがいるから怪物がきたんだー」
「来たんだー!」
「家を返して!」
「返してー!!」
「パチでスッた金返せー」
「金返せー! ん?」
最後のはともかく。ひとりの男がリーダーとなってシュプレヒコールを先導。
集団の怒りを増長させていく。
数人いる警官が説得するが、人数がちがう。怒りに燃える集団は聞く耳をもたない。
「ヤバいなこれ」
石が窓ガラスに当たった。強化ガラスでなければ破損して、隊員たちも傷をおったろう。市民の次に多いマスコミは、事態をカメラに収めているだけ。じつに職務に忠実だ。
「局長の訪問予定は1時間後です。ちょうど空港についたころかと」
「危険だから来るなと連絡しろ。耳にはいってるだろうがな」
コンテナが揺れた。おしかけた市民がゆらしてるのだ。
このままだと横転する。
「この近くに移動販売車がくるんス」
巨大が立ち上がった。画面をみながらニタニタ笑う。
「なにいってる?」
「店長がイケメンな販売車らしいっスよ。このサイトにありました!」
巨大はディスプレイを持ち上げ、サイトを誇示してまわった。
「”北のイケメンFlah”? こんなときによくも」
「あと10分しかないっス。チーフ! なんとかしてほしいっス」
「なんとかっていってもな」
泣きそうな巨大がかわいそうだ。
……いや、イケメンがどうとか言ってる状況ではないだろうが。
「もう……いいっス」
巨大が、石のあたる窓に手をかけた。
なにをするんだ、と制止の間も与えずコンテナから飛び出した。
・卯川玄作
船酔いがなおらずに陸上勤務専属になった海の男。
海自時代、訓示をたれる隊長にむかって、話しが面しろくねぇと怒鳴る男。
ここでは気の良い兄貴分。巨大に手を焼くところをいちども見たことないという理由で相崎は一目おいている。