05 攻撃! 陸自アパッチ
言葉足らずなので、あとから手を入れるかもしれません。
――手を入れました(誤字報告ありがとうございます)。
「卯川。俺の顔をツネってくないか」
「男のほほに触れる趣味はねぇが言いたいことは分かる。夢じゃねぇよな」
「まあアレが証言してくれる」
「プレスか」
上空には、テレビの取材ヘリがホバリングしていた。派手な実況つきで、中継されているんだろう。俺たちフリートも全国認知された。無能ぶりをさらして。
そう自分を笑ってから、よこたわる現実に目を向けた。
死に絶えた黒いトカゲと。手を腰にあてて見下ろす白い巨人。
たおした彼は満足してるのか。
一方的な楽な戦いではなかった。いくどか息詰まる場面もあった。
凶悪な牙でかみ殺される。ヤスリの効いた極太しっぽですりつぶされる。
生死をかけた勝負で、辛くも、勝ちをもぎとった。勝利してくれたのだ。
彼は、なんのために闘ってくれたのだろうか。
とつぜん現れて、命をかけて。メリットがあるのだろうか。
絶体絶命。小説でも見かけなくなった言葉だ。
俺たちは、いましがた、まぎれなく存亡のふちに立たされていた。
4人の命の話しではなく、街ひとつで済めば上出来といったレベルで。
黒いヤツを止められなければ、最終兵器が発射される危険があった。
ミサイルが一基とは限らないし、発射国も一国に限定されない。
友好国の潜水艦から、北と西の隣国から、ずっと西の大国から。
70億人を救う大義のまえでは、少数の命など、天秤にかける価値もない。
200万人の政令指定都市。いや、1億3000万の国家でも安い。
それを彼は、救ってくれた。
通信がはいる。
『テレビ出演中の専門家が名づけました。黒い敵が破壊外来種で《デスドリアン》。白い味方は守護巨人だそうです』
「伊妻、なんだって?」
「ガーディウスだってさ。あの白いヤツ」
「へへ。なんか似合ってんな」
バラバラバラ。
テレビ局のヘリが、現場映像をとるためか、大きく旋回し、離れていく。
かわって別のヘリが見えてきた。遠くでもあの黒さはわかる。
「攻撃ヘリアパッチか」
「やっと、お出ましか。火消しは終わったってのによ」
2機編隊のヘリが、空気を切って飛んでくる。
頼りになる陸自の兵器は、地上攻撃の花形だ。
今回は活躍の出番がくるまえに、たたく敵がいなくなったが。
「パイロットのヤツ、残念がってるかもな」
卯川の軽口だが、かんぜんには否定ができない。
相崎にも少なからず、そういう部分がある。
不謹慎だが、戦闘職にある人間の性なのだ。
「英雄になるチャンスを逃したと? 怪物相手に出動することなど二度とないか」
あのヘリ部隊をねぎらうか。あとでビールの差し入れを……
ヘリの武器が、いきなり、火を噴いた!
死んでるデスドリアンではない。
あいつらが攻撃したのは白いヤツ。味方のガーディウスだ!
「う……撃った……撃ちやがったぜ! あいつらぁ!」
サブチーフ! 射妻エリカ! 聞こえるか? 自衛隊に告げろ! ヘリの攻撃をやめさせろ。味方が敵になってしまうぞ!!
『すぐに……!』
射妻がそう応えるより早く、ガーディウスは空中へとジャンプ。
反撃の圏外と気を緩めていたのか、高度30メートルのヘリは回避に遅れる。
二機とも、白い手で鷲づかみされてしまう。
ドン。
地に降りたったガーディウスは、乗員をふり落として、回転する羽根を地面に擦りつけた。
負荷のかかったローダーは、火花とオイルを散らして停止、完全に破壊された。
ガーディウスはパイロットたちを見下ろした。
尻もちで動けない彼らの前に、その、巨きな拳を降りおとした。
殺される!
声もだせない相崎は、目を見ひらき、彼らの運命を見守った……だが。
パイロットは無事。そのかわり、そこには、大きな穴ができていた。
ガーディウスは穴にヘリを埋めると、まばゆい光を放って飛び去っていった。
「お前ら、無事か!」
「……あ……ああ……」
駆けよった相崎と卯川。パイロットたちはがくがく震えて歯の根が合わない。
涙やよだれを流す者もいた。
「警告か。二度目はないぞと」
頷いた卯川が、二度とごめんだと、言った。