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うざとらまん・改 ~ ちっちゃな巨大ヒーローは怪物から地球を守りたい  作者: きたぼん


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35 巨大よ永遠に


「ふぅ。すべて片付いたぜぇ」

「よし。射妻、牽引するトレーラーは何時の予定だ?」

「近くで待機してもらってます。いつでもいいですよ」

「そうか。15分後に来てもらえ」


 移動できる拠点であるコンテナが空になった。PCや機材は昨日までに運び出し、内部備品のデスクや応接セットは足を固定してある。最期の点検を終えた卯川と恵桐が、ステップを降りた。重たい鉄扉を閉じる。


 相崎善行が2重式の鍵を施錠。横に並んだ武器庫コンテナとともに運搬準備が整った。


「長かったような短かったような札幌だったな」


 相崎は、事務所からだたのコンテナに戻ったトレーラーハウスを見上げていった。昨日までの職務が、はるか昔のことのようだ。ボディに描かれたフリートのロゴが、いたるところ掠れている。ことしの風雨にさらされた雄姿だ。


 ここからでは見えにくいが、隕石集中地帯(テイアゾーン)は残っており、バリケードで囲んだ状態がそのままだ。撤去はまだ先。残留隕石を隈なく拾い上げたのちだと、聞きおよんでる。


「不思議な感覚だな。軽量隕石(ライトテイア)が落ちてこないのは」


 寝ても覚めても隕石隕石。直に拾う機会は少なかったが、エリア外に落下するたび、現場へ急行した。回収の多くは恩恵隕石(バフメテオ)。金に目が眩んだ市民やにわか回収業者との競争には辟易したが、隕石生物(メテオクリーチャー)に較べれば、余興にすぎなかった。


 事例の少ない巨大異星人(ユーテネス)が何度か現れた、類をみないデスドリアン(破壊外来種)も登場。果ては、樹木星人(ツリーネス)が世界を滅ぼしかけた。そんなこんな。何度も死にかけたが。静かな時を迎えたいまは、夢だとさえ思える。


「チーフでも淋しいか?」

「隕石での不幸を失くしたい願いが叶ったんだ。こんな幸せなことはない。ただ……」

「ただ……うん」


 相崎の隣りに、いるはずの男がいない。友として育ち、対人外生物異物(ホスクラド)対処班(フリート)のたちあげに奔走し、組織を作り上げた功労者。まさか、倭沢平蔵が軽量隕石(ライトテイア)の黒幕だとは誰が予想しただろう。守護巨人(ガーディウス)が退治によって、世界は救われたが。相崎は少なからず責任を感じていた。


「……俺たちがやった仕事の痕跡がなくなるってなぁ。わびしいもんだな。うん」

「それも人生の醍醐味だ。記念碑もできるしな」

「記念碑? 何の話だ?」

「言ってなかったか。隕石集中地帯(テイアゾーン)は、残されることになった」

「残されるぅ? 初耳だぞ」

「俺の案が通った。予算がつき次第、公園施設の計画が動き出す。宇宙災害版のジオパーク生まれ変わる。名称は隕石集中地帯(テイアゾーン)記念館ってところだろう」

「ったく。最初に言ってくれ」


 それでも拠点とはお別れだ。トレーラーの引き渡しが終えれば、一同は千歳空港へ。その1時間後には懐かしい東京だ。そんな、目先の予定は確定してるが、対人外生物異物(ホスクラド)対処班(フリート)の活動は未定。


「あら? いいえ。 あの子、来るかしらね。どたばた分かれたきりだわ」


 射妻エリカは、駐車場の外れに目をやった。たたたと巨大が走ってきたような気がしたのだ。


「者星しだいってところだ。ヒーローいやヒロインだからな。本人がその気でも、市民がどこにもいかせまいと守ってる。この地から離れるのは難しいな」


 巨大(きょだい)七光(ひかり)は、超のつく有名人になった。国内の研究施設やメディアはもとより、世界各国から引き手数多。ことに、大国からのアピールはすさまじい。同盟国・仮想敵国を問わず、日本政府に面会という名分の引き渡しを要請が絶えない。


 数日は、道内TV局のインタビューに応じていた巨大だったが、黒ずくめの男たちが未確認船舶で摘発されるという事件がおこってから、公の場に姿をみせなくなった。「巨大ちゃんは渡さない」宣言をとなえる保護団体が、いくつも名乗りをあげてる。


 保護団体などなくても、巨大グループという強力な組織がある。友好的な著名人も多い。知事を筆頭とした北海道民が巨大をかくまおうと知恵をしぼり、逃げ場を提供したりもしてる。試される大地は、安全で広大なゆりかごとなった。自由にふるまえるユートピアから飛び出るイブになる必要はない。


「それでも、来たとしてよ。どんな顔で迎えりゃいい?」

「普通の顔」


 卯川が言い、恵桐が応えた。


「ふつうが、わからねぇから言ってんだよ。こうか? これでいいか?」

「コミケで薄い本の品切れに怒りまくるオタクの顔だな」

「恵桐! 誹謗中傷で警察につきだす!」

「承っておこう。これでも元巡査部長だ」

「そうだった!」


「バカだなお前ら」

「ふふっ」


 相崎があきれ射妻がふきだすと、卯川と恵桐も笑った。いちど笑うと止まらなくなり、4人はしばらく、腹をよじらせて笑いあった。


「トレーラーにはあと少しだけ待ってもらう」

「そうね。もう15分だけ」


 おそらく来ないであろう二人を待ちながら、空から巨大(ネフィリム)が降りてきた時を思い返した。




 ☆☆☆☆☆




 不安と怒号があがる。陸自がやらかしたてつを、フリートも踏むつもりかと、危惧し訝う。行動する前にあいつら、取り押さえてしまえと誰かが叫ぶ。正義感の強い連中ほど、粗っぽい意見に乗って、フリートを追いかけるが。


 だいぶ様子がおかしい。フリートたちは斜面の、最期のステップを残して佇んでいる。まるで、もう一人誰かがやってくるみたいに、席をひとり分、確保したるようにみえた。


 降下してくるヒーローは輝いたが、いつものようには眩しくなかった。地上に降り立つと、疲れたように腕をつき四つん這いなると、たくさんの人々に見守られる中、身体のサイズが変化する。


「縮んでくぞ。堂々と人間と同じ身長で殴るってのか」


 10メートルあった体躯が、8メートル。5メートル。3メートルと小ぶり化する。

 あいまいだった髪や顔立ちは、小さくになるにつれて明瞭に整っていく。139センチ。KATUという衣服を着た、完全な人型となったとき人々は、どこかで視た人物だと気づいた。


「せんぱーい。みんな! がんばったっすよー」


 巨大七光(ひかり)が立ち上がった。泥に汚れた手をめいっぱい広げると、すたたっと走って、者星の胸のなかへ飛びこんだ。


「き、巨大さん?」


 者星は硬直した。女性に抱きつかれた体験がない。大釜をかかえた格好になった腕をどうしていいかわからない。


「いやーマジ死ぬかと思ったっス。イケメン巡りができなくなる悪夢をみて、死んでる場合じゃないって頑張ったっス」

「もっと感動できるコメントを言えないのか」

「センパイ、あたしを誰だと思ってんすか。そんなの無理のムリムリっス」


 巨大が大きな胸を押しつけて甘える。定番のバトル後にアリがちなシーン。その重要な場面に巨大は、手についた泥を背中になすりつけた。


「お前、きたない!」


 苦笑いする隊員たち。ドキドキ、もしくは感激のポイントが台無しである。


「かはは。ガーディウスの正体が巨大だってんだから、世も末だぜ」

「なーに言ってんスか卯川さん。末は始まりの序曲っすよ!」

「意味わかんねーし」


 武略オタクの恵桐万丈が、興味津々訊ねた。


「お前の切断技は、武器に応用できれば無敵だ。科学的に再現は可能か?」


 斜面を上がり下りするさなかに、恵桐は、何度も尻もちをついたズボンの後ろを真っ黒にしていた。汚れていてもロン毛はイケメンだった。


ライト(七光)フィールド? できなくないかもですが、感覚でやってるんで説明不可っス」

「だろうな。期待はしてなかった」


 今度は射妻エリカが、肩をきつくつかんだ。心配してたのがありありで、クールビューティもこんな顔をするんだと、巨大は嬉しくなった。


「あなたって子は」


 者星からいったん外した手を、背中に固くまわす。


「サブチーフ。センパイの身柄は渡しませんよ」

「俺は人質じゃないんだけど」

「おーい無事かぁ?」


 そこに相崎がやってきた。へりのパイロットらしき自衛官の肩につかまり、よれよれの風体だが、怪我はしてなかった。


「言いたいことは山ほどあるが、話はあとだ。市民を安全な場所に避難させろ」


「了解です!」

「了解だぜ」

「了解」

「了解よ」

「りょーかいっス!」



 やっと、遠巻きする市民も、事態が飲み込めた。


「あれって。あの人か?」

「そうだ、巨大グループの総裁の」

「うっそーだろ」

「ヒーローが七光(ひかり)?」

「かっわいい!」


 ―― 数分後。ダム湖の斜面に大きな歓声が湧きあがった。




 ☆☆☆☆☆




「15分たった。トレーラーに来てもらえ」

「……了解」


 射妻がスマホを取り出す。通話アプリの履歴上位にある、「トレーラー運転手」をタップしようと指をふれたとき。そこだけピンポイントに陰がさした。


「雲かしら」


 自分たち意外は明るい地面。不自然さに驚いて空を見上げた。高高度の筋雲の下に、白い物体が陰をつくっていた。空から何かが。いやこの場合は、ひとりしかいない。巨大が、ふってきたのだ。


「みんな! にげろ!」


 相崎の手がなかまを押し、自らも後ろに下がった真ん中に強風が、吹き降りた。巨大が、2階家屋の屋根ほどの高さで急停止、数千メートルから連れてきた風が、ぼふぉわーっと、吹いたのだ。


「おわっ」

「のわっ」

「ぐゃ」

「きゃっ」


 突風にあおられ見事にひっくりかえった4人の中央に、巨大はおりたつと、小さな背丈を精一杯のばした。


「なにを、古式豊かなギャグマンガみたく、ひっくりかえってるんすか」

「空からくるヤツがあるか!」

「あたしを置いてこうとしましたね。おかげで飛行機に飛び乗るところだったっす」


 真っ先に立ち上がったのは卯川だ。


「ほれ。帰ってきたろ? やっぱお前は仲間だ」


 あてずっぽうが当たったことを喜び、これ以上ないという顔の崩れた笑いをたたえた。


「ぷぷ、卯川さん。コミケで薄い本の品切れに怒りまくるオタクっすか」

「やかましいっ」

「ほらみろ」

「うるせー」


 射妻も立ち上がりスカートについた塵を、しなやかなに払い落した。巨大が抱えてる”モノ”をあえて視ないように、真っすぐみつめる。


「……北海道に残るんじゃなかったの?」


 後ろひじをついて地べたに座わる相崎がじっとみあげる。卯川、恵桐も騒ぐのをやめた。射妻が投げた質問への答えを待っている。


「それそれ。聞いてくださいよサブチー。年寄り連中にあいさつにいったんすが。あたしが、”母”の記憶を受け継いだとしってどうなったと思います?」

「さあ。懐かしがられたの?」

「幼児化したんっすよ。泣きだして、おねーちゃーんて。アタマ撫でてーて」

「うわっ。卯川君みたい」

「なんでだ!」

「いつも威厳まるだしのイカツイ年寄り連中が幼児退行って。気色悪いのワーストワンです。禿げた頭をなでて落ち着かせたけど、どこに行くにもついてこようとするんです。あたしは養老会のアイドルかって話ですよ。走って逃げたら追っ手を出されて、町中鬼ごっこでたいへんでしたよ」


 威厳ある年寄り連中はある程度想像がつく。経済団体のトップや経済界の大物、老舗の有名商店や、地元に深く根を張る議員たち。相崎はふっと息を漏らした。


「普通の人たちも、支援してくれたんじゃないのか」

「飛んで逃げて、保護団体というのにいってみたんスが」

「かくまってくれたんだろ?」

「スナイパーから逃げる要人の気分を味わえました。陽のあたらない部屋に押し込められ、48時間ごとに住処を転々とさせられて。スキをみて逃げたところにセンパイが来てなきゃ……一生、囚われの身でした」


 そう語った元気印からは、眼の光が消えていた。


「……なんというか。人気者もつらいわね」


 長い沈黙の末、陰のリーダー射妻がつぶやいて、ようやく次へと会話が動いた。


「事業はどうする。巨大グループ総帥の仕事があるんだろうが」

「優秀な執事に権利を半分譲渡して丸投げしたっス。対人外生物異物(ホスクラド)対処班(フリート)にお世話になるんでよろしくっ」

「スケールが違いすぎるぜ」

「2、300年ほど好きにします。今期の伴侶もできたことだし」

「俺はアニメクールか。いいかげんに降ろせ。いつまで抱いてるつもりだ」


 ここではじめて者星ハヤタが、口をはさむ。フリートたちは白々しくも、者星をみようとしなかったが、会話のさなか、ずっと、巨大の細い腕に抱かれていたのだ。脱出しようと無駄なあがきが不調に終わる。


「離したら、センパイ 逃げるじゃないすか」

「当たり前だ!」

「ヒドイっっすよ。伴侶のくせに」

「誰が伴侶だ。歳が釣り合わないヤツと結婚なんかできるか」

「失礼ですね。ピッチピチな19歳にむかって!」

「19プラス5億歳以上だ。遠大だから自分でも歳を把握でき……イテ!」


 巨大は者星を、アスファルトの地面にドスンと落とす。とっさに受け身でかばったが、当たり所によっては骨折もありえたが、少女にしかみえない巨大に、反省はみられない。死なない限り、速攻で治せる自信があるのだ。


「5億年以上の記憶を継いだけっス。母とは違う生物として生誕してるんスから。あ、ナイトテクに自信アリっす。24時間365日至福の時間をセンパイにお届けっ」

「な、ないとてく」


 少女の面影のなかに妖艶さをにじませ、巨大はすりすりにじり寄った。者星は女性そのものに縁が少ない。内心、おたおた窮してながら、逃げることもできず固まっていた。


「あきらめろ者星。たったの2、300年だ」

「チーフ!」

「チーフ♪」


 やきもちを焼いたKATUが、ぶるっと(コート)を震わせた。


『心配しなくていい。ひかりとの関係は、オレがいつもで妨害する』

「カツ君! キミは味方でしょ」


 あれ以来、KATUは衣服として、巨大の身にぴったり張り付いている。元々未確認生物(クリプチ)眷属(ファミリア))として、巨大母の防御(ガード)役を担っていた。七光(新世代)には光吸収をコントロールと、変身時におこる衣服破損のイベントをフォローしていた。


「カツ? 誰のことだ?」

「あ、いえ、こっちのことです」


 重低音のエンジン騒音がした。2台のトレーラー(牽引車)がやってきたのだ。のろのろと、狭い入口を器用に曲がって駐車場へはいってきた。


「来たな」

「誘導してやろう恵桐。おーいこっちにバックだ!」


 卯川と恵桐がコンテナに誘導する。後進したトレーラーは、金属音をガッツンと響かせ、下部のジョイントと連結。卯川が、サイドについたハンドルを回転させる。コンテナを支えていたアウトリガーがじわりと格納されていき、完全にトレーラーに重量を預けた。車両タイヤに荷重がかかると、責任が運転手に移った。


 トレーラーに牽引されてコンテナは動き出す。東京にある格納倉庫で、次の出番まで眠るために。対人外生物異物(ホスクラド)対処班(フリート)の6人は無言で見送った。




「俺たちも、いくか」

「あたしたち、明日からなにするんスか。隕石はもう落ちてこないのに」

「ん? 軽量隕石(ライトテイア)は落ちてるぞ」

「ええええ!? どどど、どうして?」

「エジプトで確認されたらしい。日本にも援助要請がきてる。政府は対人外生物異物(ホスクラド)対処班(フリート)を出動させるか検討中だ。守護巨人(ガーディウス)を当てにしてるのが丸わかりだが」

「よかったな。エジプトのイケメンに会えるぞ」

「せーんぱーい」

「いいじゃない暇してるより」

「サブチー」

「エジプト見物ってとこだな」

「新しい武器が欲しい」

「卯川さん恵桐さん」



「ま。いってみりゃわかることだ。行くぞ」

「はいっ」



                 おわり。


読んでいただきましてありがとうございます。本編「第6のネフィリム」からズレて、主に巨大に焦点をあてたストーリーしたつもりでしたが、いかがだったでしょうか。楽しんでいただけたのならなによりです。


カツ「 なんでオレだけ読み方が2つあるんだ? 」


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