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うざとらまん・改 ~ ちっちゃな巨大ヒーローは怪物から地球を守りたい  作者: きたぼん


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34 市民コール


 破壊された橋から、かろうじて鉄筋でつながっていたコンクリートの塊が落下し、ざっぽんと湖面を震わせ、大きな水紋をつくった。その音を合図に、風が止んで、揺すられた葉音もしなくなる。札幌湖は、今度こそ、静寂につつまれた。


 急造の退避斜面で固唾を飲み、戦いの推移を伺っていた市民らは、誰も口を開けない。空を覆って光をさえぎった恐怖の象徴が、無くなったことが、信じられない。いきなり生まれた静けさに当惑してるのだ。


 宙に戦士の姿があった。太陽に祝福されたように白い戦士は、いつものように青みを帯びて輝いていた。


 戦士は、見慣れたサイズに戻りながら、すぅーっと舞い降りた。崩れずにのこったアスファルトの縁に足をつけ、ぐらりと前かがみに手をついた。気合の抜けたポーズに釣られて、市民たちのこわばった頬を緩む。


「ガーディウスが、勝った」

「勝ったぞ!」

「やったー」

「危ないヤツを倒したんだ!」


 喜び抱き合う市民たち。足もとのあやうい斜面ということも忘れて、全霊でハイタッチを繰り替えす。


 一昔前からの習わしで、何人ものスマホカメラが、一部始終が配信される。この場面だけでなく巨大(ネフィリム)と、ネペンテス(雁刃先)と抱いた樹木星人(ツリーネス)との戦いは、人をかえ角度を変えて断続的に、注目する世界へと発信され続けていた。


 いつもの巨大(ネフィリム)は光り、眩しさの中に姿をかき消す。だが、なぜか、額にかわいらしく手をあてがい、何かを探すそぶりをみせる。どうするのかと、見守るうちに、ぱっと飛んで行ってしまった。



 ☆☆☆☆☆



 定山渓を横切る国道230号は、南区の藤野あたりから、交通渋滞をおこしていた。車両の9割以上が、中山峠を越える混雑ぎみの道路なのだが、渋滞が発生するのは、連休のときくらい。下り線がまったく動かない。


 混雑の理由は、守護巨人(ガーディウス)VSデスドリアン(破壊外来種)。戦いを撮るメディアと野次馬が押しかけたのだ。ほかにも、現場から119番や110番で要請された救急車・パトカー。気を回して行動した土建屋のユンボ、家族を助けに向かう親や兄弟など関係者の車。善意と仕事と興味本位が、道を詰まらせている。


 動かなくなった車の列に、窓を開けた4トントラックもいた。エンジン音より騒がしいラジオからは、臨時ニュースが流れていた。

 

対処班(フリート)と札幌消防署からのお報せです。ただいま、戦闘は終わったもようです。市民の皆さんは軽はずみな行動はせず。安全な建物か自宅で隠れてください。くれぐれも危険な札幌湖に向うことはしないでください。新しい情報がはいりしだい……』


 トラックには、石膏ボードの山が2つと、ガーディウスの白い腕が積まれていた。埃っぽい助手席では月島が、タバコの煙を吐き出した。


「ふー。わりぃな運ちゃん。ヒッチハイクは始めてだけど、乗せてくれて助かったぜ」

「かまわんけど、小樽にいくんだべ? 朝里にいく道の橋が落ちてるってさ。降りて引き返したほうが早いんでね?」

「フツーはそうだがよ。オレのカンがいうのさ。進めってよ」

「アタマ大丈夫か。定山渓で、別のトラックを見つけたほうが……なんか飛んでるな」


 運転手は上を見上げた。この辺りで上空を飛ぶのはへりか、民間の観光機くらいだ。ただ、形がオカシイ。へりならずんぐりしてる、飛行機なら翼がある。月島もタバコをポイ捨て目を凝らす。悪かった目つきがもっと悪くなる。


「ガーディウスじゃねーか」

「へぇあれが? 実物ははじめて……こっち近づいてね?」

「だな」



 巨大(ネフィリム)が降下してきた。そこらじゅうの、動かない車のドアがバタバタあくと、人々は、あわてふためいて逃げだしていく。

 街を行き交う多くの買い物オバサンや、女子高校生たちも、ぎゃーっ叫んで、建物の陰へ避難した。


「ほら、運ちゃんも逃げろ」

「あんたは、なに落ち着いてんだ!」


 トラックの運転手は腰が抜けたようだ。逃たいのだが身体が動かない。急降下した巨大(ネフィリム)は、空中10メートルで速度をゆるめた。追い風が埃をぶぅんと吹き上がっていく中、ゆっくりと着地した。


「この俺を拉致るつもりかよ」


 月島がトラックから悪態をついた。目の前にするのは3度目。無為な暴力をふるうヤツじゃないことは、じゅうぶん分かっていた。


 屈んだ巨大(ネフィリム)はその白い手で、荷台にあるもげた腕を持ち上げた。サスペンションの負担が減へったぶんだけ車両が浮いた。異星の巨人は月島に、出てこいと手招き、火をつけようとしてたタバコを箱に戻すとドアを開けた。


「あんた。やめろっ」

「世話になったな。運ちゃん」


 月島は覚悟を決める。あがいてどうかなる相手ではない。腕を取り返すとともに、盗んだ自分を懲らしめにきたのだ。ドアをひらいた。トラックの高めのステップを降りた。


「まあ、悪りぃことばっかしてきたからな。死刑になるほどじゃねーが、悪い終わりかたじゃねえぜ。衆目を浴びて地獄に落ちるってのは、派手でいい。ガツンと一思いにやってくれ」


 街道の真ん中だ。さまに衆目のなか、目をつぶった月島は、最期の瞬間を待ったが。なにも起こらない。薄目をあけてみる。巨大(ネフィリム)は、首を傾けて見下ろしていた。あきれてものがいえないわ、と言ってるように。


 月島は、ある違和感を覚えた。ありそうもないが、あり得なくもない、漠然とした妄想を口にだしてみた。


「て、てめぇは、まさかカツか?」

『そうだけど、なんでわかった?』


 口を開かない巨大(ネフィリム)だが、身体全体から、ちくちく、空気をつついたような声が届く。まさかと思った返事がかえってきたのだ。月島は内心、バカみたいなことだと驚いでいた、表面に虚勢を張った。


「ど、どんなカッコになってもわかるぜ」


 びっくりぎょーてんといった風で、KATU声がちりちり響く。耳にではなく皮膚で聞いてるような感覚だ。


『だから、なんでだ』

「さあな。その感じだとガーディウスってなぁあの姉ちゃんか。安心したぜ。小樽の倉庫までやってくれ」

『そのつもりで来たけど。なんか腹立つなオヤジ』

「何度言ったらわかんだ。オヤジじゃねぇ」




 ☆☆☆☆☆




 ダム湖の斜面では、対人外生物異物(ホスクラド)対処班(フリート)の隊員たちが各自に、スマホ通話していた。


 漏れ聞いた言葉の端々から、国の機関、北海道および札幌市のトップに連絡入れているとわかる。空には、ホバリングするヘリが数機あった。自衛隊、警察、マスコミ。フリートのロゴの入った距離航行ドローンが、ぐるぐると周回する。


 数分後、5台の運搬ドローンがやってきて、水と食糧と、救急キッドを降ろして去った。隊員たちはテキパキと市民に配り歩いた。


「みなさん聞いてください」


 副隊長(サブチーフ)と呼ばれたた美しい女性が、全員に聞こえる声で告げた。救助の車が朝里峠からくること。緊急性の高い怪我人や病人は、ダム管理棟に係留された巡視船が運ぶということ。追加の水や食糧が来るということ。


 とりあえずの飲み食いで、市民らの腹と動揺が一段落した。やれやれと、そこらの切り株や斜面に腰をおろし、渡れなくなった道を見るともなく見下ろしていた。すると。


「みて、あれ! ガーディウス」


 子供がびっくりした声で空を指さす。どこかへ行ったガーディウスが戻ってきたのだ。


 市民と歓談しながら休んでいた対人外生物異物(ホスクラド)対処班(フリート)の隊員たちは、顔色をかえて立ち上がると、何も言わずに、丘を駆け下りた。目標はどうみても、空からゆっくり降りてくるガーディウス。


「なんだあいつら」


 あれは異星人である。正義の味方だといまは確定しているが、交流ができるかは未知数の存在だ。対人外生物異物(ホスクラド)対処班(フリート)は、その組織名のとおり、外からやってきた生物や異物に対処する組織。外交権を持たされており、有効的な交渉に望もううとしてるようにも、みえる。


「倒すつもりか、彼らは」


 だが市民たちはそう思わず、悪いパターンを考えた。


「あの樹を葬った英雄をか。ムリムリ。ヘリだって簡単に壊した。やられるだけだ」

「負けたからですまないわ。攻める姿勢をみせたら」

「そうか、そしたら……私たちも巻き添えに」

「や、やめろぉ!」


 不安と怒号があがる。陸自がやらかしたてつを、フリートも踏むつもりかと、危惧し訝う。行動する前にあいつら、取り押さえてしまえと誰かが叫ぶ。正義感の強い連中ほど、粗っぽい意見に乗って、フリートを追いかけるが。


 だいぶ様子がおかしい。フリートたちは斜面の、最期のステップを残して佇んでいる。まるで、もう一人誰かがやってくるみたいに、席をひとり分、確保したるようにみえた。


 降下してくるヒーローは、いつものように光ることなく、地上に降り立った。ガーディウスはたくさんの人々がいる中で、その身体のサイズを小さく縮めていった。


「なにを、するつもりだ。人の身長になって、殴り合いでもする気か」


 ―― 数分後。ダム湖の斜面に大きな歓声が湧きあがった。



 ☆☆☆☆☆



「この度の巨大生物どうしの複数回の戦いに関し政府は、フリートを通じで調査中との見解を繰り返すいっぽう、野党は政府は損害の責任をとって解散すべきだと……」


 テレビ、ラジオ、ネットの公式サービス。

 あらゆるメディアが繰り返し、政府の見解と今後の予想を流していた。


「資源という意味で軽量隕石(ライトテイア)は、各国が待ち望んでおるわけで……」

「あのような、災悪も、引き取りたいとは、どこの国も思わないでしょう……」

「東洋の島国の異変は最悪の宇宙災害。これをモデルケースとして今後に役立て……」

「あの、巨大とかいう女性を研究材料にしては……」

 

 この日を最期に、軽量隕石(ライトテイア)は、二度と落ちてこなかった。



次回が最終話です

タイトル


 35 巨大よ永遠に

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