33 樹木よさらば
「あたしたちが正しいのよ、宇宙の生物はすべて、あたしたちの食い物。それを邪魔したあんたには復讐しかありえないってわけ。じゃない?」
樹木星人のコアからひょいと、蓋をのぞかせたネペンテスの言いぶん。負けたほうが悪いといいながら、実際に負ければ、仲間の復讐と、ほざく。KATUがあきれた。巨大の肌になったが、人格は同化してない。
『なぁひかり。バカバカしいって思うのは、オレに学がないからか』
んなことない。
この木材が身勝手なだけ。
一貫しない暴論だよ。
『だよなあ。ていうか死にかけてても調子が変わんないよな』
因果応報を逆恨みなんて、
侵略者の風上にもおけない!
『その理屈もわからない』
樹木盾を中央突破した巨大は勢いを駆って、退歩する樹木星人へと迫る。
「うわわっ。平蔵ぉっ、もっと早くっ!」
山より高い樹木生物の後退が緩慢にみえるのは事実と異なる。大河すらまたげる歩巾の裾野はそこらの小山より広く、みじろぎのさえ高速。遅く映るのは、巨躯はノロいという誤解にすぎない。そのスピード回避も、いまの巨大には役不足。
―― やってる。間に合わない! ぐっ ――
一直線に心臓部であるコアを狙ったが、思いのほか、敵の回避が素早い。首と肩にあたる極太の幹を千切るのが精一杯だった。
みねうちだったか。
しゃーない、もう一度……
あれ、止らないよ!
有り余るエネルギーで加速したのはいいが、空中での、ランディング方法がわからない。減速、減速、減速、減速。手足をばたばた広げた原始的な空気の抵抗を借りても、完全に止ったのは、小樽の海のずっと沖合の、派手なオーバーランだ。
『ひかり、もっともっと光を集めるからな』
十二分すぎるパワーがあるのにまだ、KATUは肌の光点をリレーさせて太陽光を集めて続ける。太陽の直径は地球の109倍。1億4960万Kmの距離のせいでエネルギー価が下落していても、そのエナジーは抱えきれないほどだ。
むりむり、もういいよ
『回復できなくて泣いてたのを忘れたか。足りないくらいだ』
こんなこだったのか。
昔のあたしって、
よく、やれてたなあ
だいたい、なんで空とべてるの
「飛んでるんじゃなく、蹴ってるんだ。光の粒は小さいから風さえも蹴れる」
なに言ってるか分かんない
光にはサイズがなかったんじゃ?
「だから、どんなものでも乗れるし蹴れる」
さっぱりわかんない、
けど……
蹴ってる感はあるかも
体中に展開するKATUの光点。足の裏へと意識を集中すれば空気――酸素、二酸化炭素、窒素、水素、水などの分子――の感触をはっきり感じとれた。膝を曲げて思いっきり蹴った。ありあまるエネルギーが背中を押し、爆発的な推進力を産む。
巨大が樹木星人へ特攻する、が、大きすぎる力と速さが制御できずに避けられしまう。再度、再再度、反転、何度となく突進。避けられても、果てしなく繰り返す。
カツ君。
コツがわかってきたよ
反転する距離が少しずつ短縮していった。小樽の外海と千歳を行き来していた距離が、支笏湖と札幌中央区までに減った。
山地に突如あらわれた動く樹海を、札幌上空を、行き来戻りつしながら襲撃するガーディウスの姿は、多くの市民が目撃、膨大な数のカメラがに記録された。
反転域は、ダムと定山渓周辺に収まるようになった。コントロールはまだ難ありだが、本来の”母”熟達レベルに迫る勢いで成長していく。
―― 生身で絶えられる速さではない! バケモノか ――
樹木星人は回避困難に陥った。速い敵の攻撃の被害を最小限にとどめられたのは、遠くからくる軌道を読んだからだ。タイムラグなく転換されては、軌道を追うのは無理ゲーだ。ひるがえしたが間に合わない。白に近いブルーの残像が巨樹木を貫いた。
―― 左の脇を! こいつ正確になってきてる ――
紅い燃えさしを残した黒焦げの孔が、ぽっかり開いた。
貫通を極めた巨大は、水泳アスリートと見まごうターンで、次の突進にかかっている。頼りになる回復機能は正常で、孔は直ちに元通りになった。しかしダメージが連続すれば、追いつかなくなるかもしれず、それはすぐに現実となった。
盾として切り離した2つの腕。付け根から生成途中だった次の2本が、たちまち切断されると、足、首、頭部、コア、止むことない突進が繰り返される。さいわい、狙いは正確ではないが、樹木の修復が遅延していく。人間形態ではない身体に、冷や汗があふれだした。
「平蔵ちゃんあれをやって。まだ巨大が混乱してる今なら!」
―― あれか……それしかないな ――
樹木星人の動きが止った。時を巻き戻したような超早い修復も止った。エネルギーが尽きたのなら朗報だがそれは楽観にすぎる。足を入れたダム湖からは、止むことなく、水が吸い上げてられてる。
『ひかり。あいつ、なんかしてくるんじゃないか』
だいじょうぶ。
なんかは知らないけど、
初見には強いほう
『どこからくる自信だよ、制御も完全じゃないのに。なんか不安だな』
だいじょうぶ。
街のすべてのイケメンと、
センパイがみていてくれる
―― ぬあああぁぁああああ! ――
「むうううううぅぅぅううううう」
樹木本体と核が咆哮をあげた。闘気をまとわすような構えをとると生い茂っていた葉が緑から黄色、黄色から茶色となって朽枯れて落ちる。細い枝はより細くなってこれも枯れてしなり落ちる。
咆哮が止んで構えが解かれた樹木星人は、幹と太い枝だけの、寒々しい姿だ。
『なんか、気色わるい。ん? あれは』
そして異変は新たに続く。人の倍ほどしかなかった緑コアが、そのサイズを増したのだ。2ばい、3倍、さらに倍。樹木を覆うように広がっていき、樹木星人のボディ全部が緑に輝くコアとなった。
「どぉお? 触れたら最期。どんだけ強いあなたでも、私のペコペコお腹の餌食」
樹木星人全域が活動範囲になったネペンテスが、頭頂部から顔をだす。上蓋を、はずれそうなくらいにがばりと開き、勝利が確約されたかのように、高らかに笑った。
「私たちは星という星の、生きとし生けるものを喰らいつくすのよ。これまでもこれからもね」
人を喰っていいのは、
喰われる覚悟のあるやつだけっスよ
「なにをいうのかしら。弱いから喰われるのよ。私たちはいつだって喰うほう。なぜだかわかるわよね? 私たちが強いからよ。地球でいうところの百獣の王ライオンね」
ライオンがいつでも強い?
それは、表面をかじたっだけの
勉強不足っスよ
「負け惜しみねぇ。ほわーっっはっはっはっ」
樹木星人は、抱え込みにかかる。縦にも横にも果てしない巨躯に捨て身でかかられてでは、いかに速い巨大でも逃げるのは困難。
『ひかりあれはヤバい。退がれ』
誰か退くか!
いざ、吸い込み勝負!
『ええ?』
「私の養分になるのよ。死ねえぇぇい!」
エネルギーをもらうっス
ライトフィールド MAX!!!
巨大はいきなり十倍も巨大すると、7色に輝いた。攻撃と防御のフィールドは、無色に近い眩しい白だが、それは7つの色の集合体である。融解の赤、氷結の青、切断の紫、鉄壁の黄など。扱いがもっとも難しいのは、吸収の桃だ。正を負に、負を正に換えてしまう色。たぶらかしの色だ。
「そんな見掛け倒し。私たちには通用しないわよ」
空を蹴って、樹木星人に体当たり。較べた大きさは圧倒的に小さいが、速さも倍増。緑光のコアは、敵を喰らうどころか、おもねるように樹木星人の力を分け与えた。通過した胴体は養分を失、ちょうど巨大の形に大洞ができていた。
「なぁによぉ! うそでしょお!!!」
背中をつき抜けて反転した巨大は、正面に回り込む。
―― ぬぉぉぉおお!!!! ――
慌てて後退する樹木星人だが、光に迫る速さを得た彼女にとって、本当に、のろまな相手になり下がっていた。
「まずい…… 止めて! やめないと、フリートを踏み殺すわよ! 」
やってみていいっっスよ
あたしの攻撃より速いなら
巨大は、桃色に輝く腕を高々と掲げる。
「やめてごめん、謝るから。なんでもするから。消さないで」
5億年のしがらみに、さらばっす。
ライトフィールドの腕をコアの本体に挿し入れると胸の柊が輝いた。樹木星人の養分がストローで吸い上げるように、巨大の中に流れ込んでこようとするが、巨大は受け取ることをしない。あふれる養分をあふれるままに放棄した。
―― おのれ。おのれ、おのれ、またしても。きさまが、きさまさえいなければ、俺たちは宇宙を、いつまでも……おの れ ――
逃げようと身をよじろうとする樹木星人だが、身体がまるで、いうことをきかない。中枢である倭沢に反目し、喜んで養分を垂れ流していく。水から取った、放棄されたチカラの元は、霧となって、湖水へと帰っていった。樹木星人の身体はもう、水を吸収すようとしなかった。
「あがががががががああああががが、きょだい ちゃん…………わたし、なにもしなければ、よかった 」
そうして樹木星人は総てのエネルギーを失くした。生存の意志のない並外れて大きな樹木だけが残った。樹木はたちまち灰となった。崩れていく灰のひとつひとつを、秋を告げる風が運んでいく。
柊が静かになる。
戦いは終わったのだ。
会話が、カッコ個別となってしまってすみません。
巨大は、心の中のつぶやいて
カツは、巨大だけと話していて
ツリーネスは、葉を震わる震動
雁刃先は普通にしゃべってますが、カパカパ葉フタを開け閉めしてます。
伝達手段の違いを区別したかったのです。
戦いがおわりました。次回は後日談です。




