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03 二体目は挙動がオカシイ

闘い前の、ちょっとした緊張感を作ってみました。

挿絵(By みてみん)


 相崎はいつでも攻撃できるよう構えた。にぎりしめるのは弾の尽きた銃。

 武器を持ってる俺は強いと言いきかせる。逃げそうになる自分がいた。


「あの光――なんだ――怪物がもう一体!?」


 敵が増えた。絶望がさらに絶望になったが、悲劇すぎて頭が冷える。

 あきらめ似た冷静さは、二体を比べる余裕をつくった。


「白いな、それに人と同じ形をしてる」


 異星の怪物であっても種類は違うらしい。

 黒いほうは毒々しい爬虫類ににているが、後の白いヤツは人の形だ。

 まぶしい光をまとってる。神々しいとさえ相崎は感じた。


「胸に模様があるな。なんだろう」

「知るかよ。模様がなんだっつーんだ。怪物には違げぇねぇだろ」


 となりでぼやいたのは卯川だ。眼鏡のくもりを晴らそうと口を曲げて息をふきかけてる。

 敵の模様など気にすることじゃないが、植物の柊に似ているアレは、破壊者にはふさわしくない気がする。


「卯川は口が悪いよな。少しは上司を敬えよ」

「敬えねぇからフリートにいるんだ。バカ言うな」

「そうだな。俺たちはバカの寄せ集めだ」


 体長10メートルオーバーの異星怪物が二体。にらみ合って動かない。

 そんな現実離れの状況が、相崎の脳に、これまでの軌跡を思い出させた。




 この2年間をふりかえる。

 やっかいな怪物をたおすため、2年前につくられた組織のことだ。

 当時、自衛官幹部だった相崎こそが、対人外生物異物(ホスクラド)対処班(フリート)の立役者だった。


 2年前、広島県は三次市の山里におこった惨劇。

 同郷の家族や仲間が死傷したあの惨劇を、二度とおこしたくなかった。


 相崎は、同郷の政治家とともかけずりまわった。

 後手にまわった政府を糾弾する世論をみかたにつけて国会を動かし、


 予算を分捕り、警察と自衛隊から余剰人材をださせて、創設がかなった。

 対人外生物異物(ホスクラド)対処班(フリート)は、編成された。


 おりもおり、日本で2度目となる隕石集中地帯(テイアゾーン)が発生する。

 札幌に、隕石が集中落下しはじめたのだ。


 ぎりぎり間に合った。相崎は胸をなでおろした。

 昨日だって1体、豊平区のティアゾーンで処分してる。


 成果は着実に積み上がってる。どんな怪物でも瞬殺できるつもりだった。

 認知度は低いが、やりがいがあった。国を守ってる実感は、自衛隊のときよりも強い。





「チーフよぉ。想定外ってことば知ってるよな?」


 現実にひきもどされる。走馬燈をみていたらしい。

 でっぷりした腹の卯川玄作が、真夏の汗をぬぐっていた。


「その言葉は知ってる」


 銃を持ち上げる。フリートの装備は最新の通信機器と、この軽銃。

 対人弾の7.62㎜も装填できるが、つかうのは対怪物の専用弾だ。


 弱点を研究して開発された弾は、3m級以下の怪物を一発でしとめる。

 それがヤツには効いてない。怪物の外被はでかいほど頑丈なのか。


 豆粒ていどの効果もなかった。一体さえ倒せない怪物。それが二体。

 ほかに使える武器はない。新兵器の開発を急がせれば……後悔はいつも先に立たない。


「撤退すべき状況だが――」


 それしかないと分かってるが。退りぞいたらどうなる。怪物は自由に暴れてしまう。

 これ以上街を壊されるわけにはいかない。とはいえ、やれることもない。

 にらみ合う2体を見上げることしか、できなかった。


 そのとき、ヘルメット内臓の通信機に連絡がはいった。

 ティアゾーン側に設置した仮本部にいるサブチーフからだ。

 彼女には、連絡と情報の統合をまかせている。


「射妻か。どうした?」

『チーフ。自衛隊からの連絡です。攻撃ヘリが出動したそうです』

「……そうか」


 方針が決めた相崎が、卯川に向き合う。


「サブチーフからだ。丘珠基地から攻撃ヘリがくる。それまでもちこたえる」


 時間を稼ぐんだ。この身を囮にしてでもだ。

 それしかない。


「かあー。石でも投げろってか。泣けてくるぜ」

「ヘリの装備でだめなら、戦車や火砲、それでだめならミサイル。それでも倒せなけば……いたくないが」

「アメリカに頼んで核兵器ってか。そうならないよう石を拾うわけだ」


 卯川はそう言うと、落ちてる石を拾いはじめる。

 相崎もならって拾いあつめる。石器時代に戻ったようだと、苦々しく笑った。


「それにしても妙だ」

「ああ。両者にらみあったままだ。土俵ではっけよいってか」

「まさか」


 あれほど暴れていた怪物が、うごきを止めてる。


 思うがままに破壊するのが、怪物ではないのか。

 それとも、人間にはわからない方法で、分担する話でもしてるのか。


「なぁ。こいつら、ホントは敵同士だったりしてな」

「それこそまさかだ」


 相崎は言葉を否定する。だが。たしかに卯川のいったような空気があった。

 死闘をはじめる前触れのような威圧感が。


 静止していた時間が動き出す。

 白いヤツが動いた。黒い怪物へと踊りかかっていく。



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