26 巨大死地へ
とうとう、樹木星人長い腕が、KATUに当たった。水平にふりまわした工事重機並みの荷重が、少年の身体を押しつぶした。
「カぁッツくんっ!!!」
悲鳴をあげた巨大だが、あまり見えてなかった。高層ビルの最上階の出来事が、そうそう地上から見えるはずもない。わかってるのは、ツリーを駆け上る人影を執拗に払い落そうと、腕をふりまわしては空振りしていたこと。それが樹の中心にあたって止ったこと。あれほど動きまわっていた人影がみえなくなったこと、だ。
考えたくもないが、よくないことがあったのは状況が示してる。
「あの少年、危険なんじゃないか」
「ううん普通の子じゃないから大丈夫……だと思う」
「普通の子じゃないというのは巨大と同じ、という意味か?」
「それは、ちょっと」
ちがう、といいかけて止めた。KATUのことは、巨大にもわかってないのだ。
彼はふつうじゃないけど、自分とはちがう。高いビルでもひとっ跳びできるくらいビルすばしっこくて、電車だって持ち上げれそうな力持ち。でも違う。
怪我をしても自分で治せないし巨大化もしない。なにより、自分が何者だか、彼自身が忘れている。倭沢が探している相手という可能性もある。彼はふつうじゃないけど、異質の方向が巨大とは違ってた。だからといって放っておいていいわけない。
「助けられるのは、あたしだけ。だけど」
巨大はためらう。力を使いすぎていた。限界を超えたときを試したことはなかった。試そうと思ったこともなかった。相手はいつもの自分より大きい。すでに10倍、いや20倍以上になってるのに、まだ伸びていた。成長のおわりがみえない。
「巨大。どこかに逃げようか」
「え?」
「すべてお前が抱えることもない。忘れてるようだがアレは局長。対人外生物異物対処班のトップだぞ。政府には任命責任をとってもらう」
「はぁ?」
理論のすり替え。いや、大筋では間違っていないが、樹木星人を倒してからのことだ。者星のむちゃな言い草に巨大は、標準より太めの眉をぴくぴくさせた。生真面目を絵に描いたような顔でみつめてくる。
つい噴き出しまった。
「ぷ。そーゆー問題じゃないっスよね?」
「やっと笑ったな。スっと言って。それでこそ巨大だ」
「ひっどーいあたし、そんなアホ女スかね」
「イケメーンを連発するやつが何をいう。頭のいい女性はあからさまな態度にださない」
「……ふふ」
「はははは」
巨大が空を見上る。敵樹木はその歩みを止めていた。巨大と者星を気にする風はなく、胸のコアあたりに執着し、二本の腕を押し付けていた。やはりあそこにKATUがいる。動けないのか。それとも動くことができないのか。時間はあまりない。
「センパイ。援護して」
頬に両手を置く巨大。者星が手を重ねた。
「……戦うつもりなのか。しかし援護といって武器がない」
「後ろ向いて。みんな来てくれてる」
ピックアップトラックが2台。遅れて軽トラが1台。混雑する車を無理やり押しのけてやってきた。ずっと向こうの上空に自衛隊の攻撃ヘリも。あれは要注意だ。
「気をつけろ怪我だけはするな。見知らぬ少年よりキミのほうが大事だ」
「それ、フリートがいっちゃダメな台詞っスね」
二人の手が離れた。
「じゃ行ってきます」
資材運搬の軽トラや大型ダンプカー、ゆっくり景色を楽しみにきた観光のファミリーカーに、峠カーブを攻めにきたスポーツ車。怪物に気がづいて反対車線で戻ろうとする車に、何をやってんだと怒鳴る車と。進退極まった道路は終始がつかなくっていた。
踵をかえフリートところへ走る者星の背後で、巨大が何かをつぶやいた。 直後、まばゆい光があたりを包み、守護巨人が出現した。
「者星、無事だったか! 倭沢はどうした」
「卯川さん。ヘリを撤収させてください。巨大を攻撃されます」
「アパッチのことなら大丈夫だぜ。乗り込んだチーフが穏やかに接収してっから」
「穏やかに接収ですか」
“穏やか”な“接収”とは、そんなことが可能なのだろうか。パイロットのこめかみに銃をつきつけた相崎を思い浮かべた。
「者星。んなことよりなんて言った?」
「はい。ヘリを撤収と」
「その次」
「巨大を攻撃される……と。あ、ガーディウスは巨大です」
卯川の頭に”?”マークが点る。
「いやガーディウスはたしかに巨大だが?」
「ちがいます。巨大七光が守護巨人なんです」
「は?」
「ちなみにあの樹は、局長と副官です」
恵桐の頭にも”?”マーク。二人並んで目が点。写真に収めたいところだ。
これじゃ身内の仲間割れだ。言ってる自分も変だと思う。
卯川が、武器をとりながら言った。
「……年末の出し物の話か。気ィ早ぇえな」
者星は弾倉に弾をこめた。そのうちわかる。




