25 「大きい」は無敵である
いちおう、更新ピッチは日曜の午前までと考えてます。
間に合った!!!
倭沢がくずれて膝をつく。切り倒すとることは叶わなかったが、これでもう、七光とKATUに手をそうとは考えないだろう。
KATUは者星を寝かせた。意識がもどったらしく、者星の目がゆっくりと開かれる。
「せんぱい!」
「巨大……ぼくは死んだんじゃなかったか」
「なに言ってんですか! センパイは死んだりしません。死んだって迎えにいきます! 三途の川が渡れないなら干上がらせて渡ってみせます。いつだって何度だって!」
「それは……怖いな」
「あたしは……」
「巨大……」
瞳が絡み合う二人。おがい顔がためらいがちに接近して
……いく状況を見ていられなくなったKATUが、邪魔にはいる。
「ごほんって、咳をすればいいのかな? 二人とも場所を移したほうがいいよ?」
「そ、そうだな」
「ごめんカツくん。センパイ立てる?」
半身を起こした者星に、巨大が肩を貸して立たせる。足元がよろけて、まだ危なっかしいが、どうにか立った。KATUは雁刃先にむきあう。
「もう終わりだ。あんたはどうする? 見てるだけなら帰らせてもらうけど」
「なーに言ってんの。終わってないわよ。あなたたちの戦いはこれからだー ってね」
「そっちこそ何いってる。あいつはもう」
「本当にそうぉ? よーくみてて」
倭沢の周囲に異変がおこっていた。ヤツのいる地面に細かなひび割れが走っているのだ。
KATUの攻撃熱で空気が乾いて地表に異変をもたらした――はずもなく、仮に起こるにしては展開が早い。変化はあまりにも急激すぎる。
「平蔵ちゃんをなめんじゃないわよ!」
しゅるりしゅるり。蛇が擦れあうような湿った異音。茎は鋼じみた硬質な根としてアスファルトを貫いて地の層へと刺しこまれていく。地のヒビは、堆積した土に分け入って密度による地割れだ。
中心の倭沢から発生するヒビは、地表をゆるませ、視るまに広がっていく。背後の道路はあっけなく陥没。勢いは範囲を増し、駐車場も飲み込に、ダム湖へと達した。根が水面に到達すると、より大きな変化がまきおこった。
「巨大。ぼくは夢をみてるんだよな?」
「せんぱい。世界の出来事っていうのは、いつも想像の斜め上をいくんですよ」
「ひかりのいう斜め上ってわかんないけど。こっちに逃げる!」
KATUがダム湖に沿って駆けだした。者星も続いた。だが、身体の機能は回復しておらず足がもつれよろける。巨大が、転びそうになった腕をとった。
「ひかり。そのひと抱いて走ったほうが速いよ」
「様式美に反するからやだ」
「ようしキビ? さとうきびの一種か。うまいのか?」
「いいから走って」
ふり返るまでもない。倭沢の落とした影が3人を覆いこんでいた。茎が蔓が葉が。構成する植物要素のいずれもが、太く長く成長。1本の木が100年かかって森へと成す時を、早回ししたかのようだ。森と異なるのは、本数は1本ということ、樹木の限界を越えた高さに伸び続けてることだけだ。
定山渓と朝里を繋ぐ道路は、アスファルトがえぐりとられ、路盤はぐだぐだ。20台以上もの車が、陥没した穴に落ち、折り重なってる。穴に気づいてブレーキをかけた車に、後続車が突っ込んだ。
3人は、かろうじて残ったダム湖の擁壁きわを走る。走りながら、すれ違う車両に合図で危険を報せるが、停まる車はない。運転手のひとりは、×の仕草を返しながら、前列車両へ突っ込んでいった。
「はぁはぁ、ヒッチハイクだと思われてる、な。見えてないのか」
「あんがい上って見ないもんですよ。センパイ。あれ!」
「ん? 雁刃先さん?」
ダム湖の水を吸い上げて、爆発的に成長をしながら、3人を追う倭沢。そのコアに雁刃先が吸い込まれていく。あれはもう倭沢でも雁刃先でもない。ただのバケモノいや、あれこそが、彼らの本来の形。元に還ったのだろう。
北海道で最も高い建物といえば、札幌市にある173mのJRタワー。主観では、それを越える高さまで達していた。枝の一本一本が成木の太さ。鞭のようにしなやかに舞う成木だ。
ぎりりりーと皮を擦れらせた数本が伸びて、3人の背後に迫る。
「しつこいな樹木星人」
背の高い動く森林。デカいとうのはそれだけで武器になる。大きいという表現では収まりきれない倭沢樹の一歩は人の30歩を越える。逃げるのも限界であった。
大きな怪物を相手取れたのは自衛隊の攻撃ヘリと百歩ゆずってフリート。そしてなによりも守護巨人。
「ひかり。やれる?」
「ちょっと自信ない。無理かな」
巨大化、失った腕の回復、死にかけた者星の治療。七光は無理を重ねてる。エネルギー元は無尽蔵な太陽光とはいえ、吸収した源をパワーに変換する時間と体力がいるはずだ。人は、空気入れではないのだ。
「オレが食い止める」
「カツ君!」
言うなりKATUは、一本へとび乗った。光を放って枝を一本、丸太切りに切断した。
「樹木星人。ツリークリーチャーか。樹の巨大異星人だからツリーネスってところか」
者星が、思いついた名前をつぶやく。
切断された部分がひるんだ。動きが遅くなったのを見てとったKATUは、先端樹をかわして幹にとりつくと、豆の木を昇るジャックのごとく、器用に木を駆け上がった。
樹木生物がうねるたび、強風がおこる。すでに、茂る葉の一枚ですら、自動ドアサイズとなってる。力にまかせ、邪魔な葉を抜きちぎりながら、KATUは上へ上へと昇っていった。
者星はふりかえると、逃走の足を止め、悔しそうに拳をつくった。
「これはフリートの仕事だ。ぼくも戦う」
「無茶っていうものですセンパイ、武器もないのに」
「ピックアップトラックがあればな。なにかは積んでる」
「ないものはないです」
「巨大異星人退治を一般人に任せるのか」
「アレを一般人って言っちゃいけないですね」
「……キミもだが。あの少年は何者なんだ」
「何者なんでしょう」
「知らないのか……冗談だよな?」
「そういえば知らないですね。いつも駆け付けてくれて助かってますけど。あれ、いつも? 彼くらいの年なら学校の時間ですね」
「のんきなヤツだなぁ。そこがいいんだが」
巨大と者星が掛け合いしてる間にも、KATUは素早く上がっていく。手ががり足掛かりがそこらじゅうにある樹木は昇りやすくはあるが、足場は安定の大樹ではなく、風になびくコスモスのように激しく揺れる。
おそってくる植手を避け、はだかる葉を斬りおとしつつ、ほぼ垂直を昇るなど、登山家やボルダリングアスリートをもってしても無理筋。落ちても死なないと確信できるKATUだからこそ可能な無茶なのだ。
伐採しながらの垂直昇りはどうにか、森生物の上部に到着。ローリングの揺れに落とされないよう、人間ならば首のあたりに、歯を食いしばってしがみつく。片目を開けた。
こんなときにおかしなことだが、眼下の景色に目を見張った。はるか遠くまでよく見えた。ダム湖から流れ出る豊平川。河幅の広がるにしたがい、定山渓からの森が左右に幅を広げて、だんだんに建物が増していくて。高いビルに囲まれるその上から、顔を出すテレビ塔。眺めは、素晴らしかった。お金があれば、払ってもいい。それくらい感動した。
「ひかりが守りたいものか……くる」
樹木星人は、KATUをふり落とそうと、狂わんばかりに、その身を揺する。もはや数百メートルにもなった腕を鞭のようにふりまわし、身にくっついたハエをはたき落としにくる。腕がうなりをあげるたび、周辺の森の木々は折られたり抜き取られていった。
KATUに注視するあまり、樹木星人の進行が止った。
腕が来るたびに、小ジャンプでかわすKATU。風に身をゆだねながら、樹木星人に着樹。そのたびに、衣服は破れ、かすり傷を増やしていった。
「イテて……こういうの。弱点とかあるもんだけど……あそこしかなよな」
ここからでは見えないが、倭沢が人でなくなったとき。深い緑色に光っていたコア。樹木星人に心臓みたいな中心があるとすれば、そこしかない。
「着地……じゃなく着樹。あそこにできるかな」
何度目かわからない腕攻めが来た。小ジャンプでかわして、身体をひるがえし、着樹する点を見据えた。深く光る緑色は大きくなっていた。最初は拳骨くらいだったのが樹々の成長のせいで体育館くらいになってる。風向きもいい。自然な落下にまかせ、手足をひろげる。10メートル、5メートル。あと少し。
背後から、ぎゅゆゆんと、太い風きり音がした。確かめたいがふり向くゆとりはない。
ありったけの腕を伸ばし、手首を伸ばし、指をのばして、目の前の樹のどこかに捉まろうとした……
しかし手はどこにもとどかない。いや届きすぎたというべきか。
樹木星人の、次の腕が、身体を樹身体に押し付けたのだ。工事の重機数台分に匹敵しそうな重量で、KATUの身体は押しつぶされた。
「カぁッツくんっ!!!」




