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うざとらまん・改 ~ ちっちゃな巨大ヒーローは怪物から地球を守りたい  作者: きたぼん


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24 植物生物


 空中で膝を抱えて回転したKATUは、よろけるように着地した。そこにすかさず、指の槍が迫る。一本、二本。のけぞってかわしたが、肩をかすめた3本目が服を斬り裂いた。たまらず、地べたに尻もちをつくと、狙い澄ました刃が接近。完全に寝そべってやり過ごした上を風音がうなった。


「平蔵ちゃん。あたし手を貸したほうがいい?」

「素人相手にナナの手を借りるのは私の恥だ。巨大を逃がさないよう注意してくれればいい」

「了解よ。それじゃがんばってね。カ・ツ・君」


 雁刃先が、わざとらしくウィンクを投げつける。


「ぐぁっ」


 女性顔した男の得も言えぬ仕草。別次元のダメージを受けた。KATUは目をきつく閉じて追い払うと、巨大を守る騎士だと、心の中で言いきかせる。相対する倭沢が蔑むようにわらった。


「しゃしゃりでたのが運の尽きだったな。順番が早まっただけともいえるが」


 KATUには戦闘経験がない。日夜、空いた腹を満たすだけの仕事に終われる生活で、誰かと闘う機会などない。格闘技をならう金が仮にあっても、月島が払うはずがない。

 また、KATUの知らないことだが、月島は粗っぽい仕事に連れて行ったことがない。身体能力こそ高いが、平均的な15歳の少年だった。


 闘いとは、テレビのアニメやアクション映画。それが体験のすべてだ。最近そこに、ガーディウス戦いが加わった。


「いっぱい戦ってきたっていうわりに下手くそか。オレまだ生きてるぞ。今度はこっちのターンだ!」


 いちど言ってみたかった台詞を叫ぶと、ご満悦にジャンプ。アイツはいつも、鞭みたくふりまわしての、中距離攻撃だ。攻めに強いぶん防御はからきし。そう睨んだKATUは、鞭の内側に上から飛びこんだ。


「ガーディウス戦(を見たの)は伊達じゃない!」


 驚き見上げた倭沢の胸部に、KATUの蹴りがジャストヒット!


 足のめり込んだ胸にくぼみができた。そこを中心として、ピキピキと、ヒビが放射状広がっていく。胴体、首、頭、手、足。深くなったヒビは破片となって割れ、パラパラとくずれていく。


 さすがわ別の星の生物。人間にはありえない終わり方をするもんだ。KATUは感心しながら、めり込んだ足を引き抜こうと……抜けない?


「オレの足が。抜け、抜けやがってくれ!」


 ケンケン片足。両手で懸命に引っ張るが抜けてこない。逆に刺さる深みが増していく。このとき頭に「押してもダメなら引いてみな」が浮かんだ。


「気持ち悪いオッサン。放せ、離れろ!」


 KATUは力任せに、倭沢を殴った。引いても抜けないなら、放したくなるように叩けばいい。だが、いくら叩いて暴れても足は抜けない。


 倭沢の変調がじわじわ増幅されていく。背広が破れ破れて裸となった。皮膚は反りあがって剥がれ落ちた。筋肉は堅く変色していってパーツをパージするようにパキンと外れた。むき出しとなった骨がぬるりと落ちる。


 胴体と言っていいのか、中心に暗い緑色のコア。そこから五方に大小が絡まりあった蔓が伸びている。遠くからぼんやり見れば人型となってはいるが、むしろ海にいるヒトデ。茎と蔦と葉の繊維で編み上げられた、ヒトデだ。


 ついに、倭沢――だった生物の姿が――露わとなった。


「ヒトじゃなさ過ぎ……!?」

「こぉんなエレガントな生命体(あたしたちに)になぁんて失礼な子かしら。あんたたち人型のようがよっぽど不気味よ。平蔵ちゃん食べちゃって! もう星のしきたりなんて、どうでもいいから」


 さわさわ、しゃりしゃり、風も吹いてないのに、倭沢生物の葉が震える。

 葉と茎がこすれる音が共振し、旋律を生み出し、音を発生させる。


「 そ う し よ う 」


 KATUの足は捉えられたまま。服と肉の奥に隠れていた足の状態がはっきり見える。隙間だらけの筋肉のように絡みあった蔦の奥。モヤシみたいな細い根が束となり、足を取り込んでいたのだ。

 隙間に手を突っ込む。モヤシを鷲づかみにして引きちぎる。輪ゴム程度の抵抗で、数本が千切れた。「よしいける」と、次々にちぎっていった。

 しかし、すぐに蔦から芽吹いて、足にからみつく。ちぎった物よりも太く、強度を増してた。ちぎればちぎるほど、太く、強くなっていく。


「これ思ったよりも、ずっとヤバそうかも」


 ヤバいやばいと、繰り返しながら、者星の上にうずくまってる女性をふりかえった。


「せんぱーい」


 泣きじゃくってる七光。ここから彼女が逃げおおせるまでは、頑張る。せめてそれくらいの時間は粘らないと、何しに来たのがわからない。”なな”と呼ばれた女(?)は、静観してる。手出しする気がなさそうに地べたの二人を見下ろす。すこしだけ。七光が離れるくらいは、どうにかなるかもしれない。それがわずか数秒だったとしても。


「あ き ら め て 養 分 と な れ」


 空気が震える。植物生物の倭沢には目口がない。だが、発せられる音には呪縛の機能があるようだ。皮膚から沁みる震動で、身体の動きがぎこちなくなる。叩く腕にチカラがはいらない。


 ずり。ずり。

 敵のコアに、足が引きずりこまれる。かかと、ふくらはぎ。膝までが飲み込まれた。感覚はない。あの凝縮された緑色の内部でおこってる事を、考えないようにした。


「肥料なんかに誰がなるか」


 KATUは集中した。体内に眠った衝動に。いつもは大人しく寝かしてる手に余るチカラに。

 ときどき、小出しに暴発させてる欲求。いまは、すべてをまとめて、発射してやる!


 もう一度七光をふり返える。早く逃げてくれと、合図するつもりで。だが彼女は目を閉ていた。七光は目をぎゅっと閉じて、一緒懸命、片手でマッサージを繰り返すばかり。


「なんで回復してるのに生き返らないんですかー!」

「いいからそのヒト抱えて……抱えて……?」


 おかしなことに気が付いた。

 マッサージの手は胸の上だ。でも一方の身体を支えてる手は――


「ひかり。その人の首、締めてんじゃない?」

「――え? ――――ああっ!」


 生き返るはずがない。身体を治すいっぽうで、呼吸と動脈を絞っていたのだから。

 七光が手をどけて、数秒。ごほっごほっと咳き込んで、男は息を吹き返した。あっけなかった。


「ぬ ? い き 還 っ た だ と」


 倭沢の意識が、わずかにKATUから離れた。

 いまだ!


 KATUは、腕を高く上げると、体内にくすぶっている光エネルギーを指先に集める。自分の身長よりも長い光の線を延ばすと、袈裟切りに、腕をふり下げた。コアが不気味に脈をうった。


「き、き、貴 様 だ っ た か」


 ヒトデ状の植物体に頭や肩があるかどうかわからないが、右上からはいった光は左下へ向う角度で斬りこんでいく。いわゆる袈裟切り。


「ぬ ご お お お お お お」

「斬ぃりぃぬけぇぇー!」


 叫ぶほど勢いある速さではないが、何倍もある腕力を駆い、ギリ……ギリ……、と斬り進んでいく。中心部(コア)を壊してしまえばいい。どんな生物でも、生命の中核というのがあるものだ。地球外生物でも。高度な生命ならなおさら。


「あ、と、ちょっと……あれ」


 だが光の切断はコア届く寸前で停まった。煌々とていた光が、とつぜん、ろうそくの炎のように弱まり、とうとう消えてしまったのだ。


 光減を吸い取ったのかもしれないが、与えたダメージは軽くない。倭沢は、焼かれて刻まれた、茎の断片をまき散らして、苦しみもがいた。KATUは、ふりまわされた反動に乗って、足を引き抜くことに成功する。

 皮がむけたが足は無事。ズボンは膝から先がなくなり、片足シューズが消失していた。


「くっそ! プロノの安全靴だぞ!」


 本日一番の怒りをあらわにバックステップ。二人がいるところまで後退する。


「平蔵ちゃん。かっこわるぅー」


 からかう雁刃先を一瞥ながら、者星を抱えあげ、すぐさまジャンプ。一足飛びに20メートルバックして、その場を離脱する。七光が、笑顔で涙をこすりこすり、ワンテンポ遅れてついてくる。敵から、かなりの距離を稼ぐことができた。


 倭沢は、左の腕に相当する部分がぶらりと、垂れ下げる。辺り一面に黒炭の破片。コアの繋がる断面から流れ散っる赤い液体が、黒い地面に色どりを添えてる。


「痛いよな? オレも痛かったよ。あんたたち何をしたいかしらないけど。もういいんじゃないか?」


 経っていられなった倭沢が膝をついた。切り倒すとることは叶わなかったが、これでもう、七光とKATU(オレたち)に手をそうとは考えないだろう。


 しかし直後、それがどれだけ甘い考えだということを、KATUは思い知らされる。



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