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うざとらまん・改 ~ ちっちゃな巨大ヒーローは怪物から地球を守りたい  作者: きたぼん


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22 ダムの湖畔にて


 混乱する者星ハヤタは、置かれた状況を考え続けた。


 公用車で連行されているということ。

 連行は、対人外生物異物(ホスクラド)対処班(フリート)局長の倭沢と、事務次官の雁刃先によるもの、ということ。

 罪状または名目は、者星が守護巨人(ガーディウス)である、ということ。

 それは”疑い”などという弱い理由ではなく、確信をもっているということ。


 誰だって、あの10m級の異星人が巨大化した人間だとは、想像しないだろう。生物は成長で大きくなる。未熟なパンダの子供が900倍の大人になるには5から6年かかるのだ。150センチの人間が光を浴びただけで66倍の10mになって、数分で元に戻るなんてこと。生物常識を逸しすぎで、目にしていても信じられない。


 だが者星は知ってる。守護巨人(ガーディウス)の正体が、イケメンバカの巨乳チビだということを。なぜ倭沢と雁刃先が知ってる。なぜそれが自分になるんだ。者星は興味をもった。


 車は温泉街手前の道を折れてしばらく走った。定山渓と朝里とを繋ぐ道路。山を挟んだ両方にダムがある。四季のうち、雪で通行止めになる冬以外は人気のドライブコースだ。数こそ少ないが車が絶えることはない。


 平蔵は命じた。定山渓ダムの湖が左にあった。


「ここでいい。止めてくれ」


 車は第1展望台の駐車場に止った。


「運転手さんは帰っていいわよ。明日の予定もキャンセルね。ごくろうさま」

「ごくろうさまって雁刃先次官。こんなとこで? バスもなんも来ない道ですよ」

「いいのよ。歩いて帰るから。じゃあね」

「じ、次官? じゃあねって……」


 倭沢と雁刃先が降りた。しなたなく者星も降りる。山の中だ。電話は通じない。運転手のためらいがみえたものの、上役の言うことには逆らえない。ドアが閉る。車は走り去る。閑かな湖畔に3人。サスペンスドラマのラストが浮かんだ。


「ずっと君を探していたよ。者星ハヤタ」


 妙な言葉である。何年もかけてやっと巡り合った恋人への告白。そんな台詞だが、甘いものじゃない。倭沢の目が告げている。白い眼球に血管の浮いた目が。人の顔はここまで恐ろしくなれるとは。


「僕を? ……人違いではありませんか」

「この宇宙に、四肢をもった巨大人など、貴様ら以外にいるものか」


 いつもの、感情を表さない局長の変貌ぶりに威圧されながら、者星は驚いた巨大は異星人で、人型は珍しいタイプ。

 しかし誤解なんて解ける。自分はガーディウスではないのだから。すくみそうな気持ちを抑えて、者星は踏みこんだ。


「仮にぼくが守護巨人(ガーディウス)だとしても罪になるんでしょうか。逮捕状がでた話など聞いたことがない。むしろ攻撃ヘリが糾弾される程度に市民権を得てます」


 本当に捜査が行われていたのならフリート情報通(射妻エリカ)にひっかからないはずがない。彼女は必ずチーフに報せるだろうし、チーフは隠し事をしない人だ。つまりこれは倭沢の独断。


「法など。塵ほどの価値もない。煮えたぎる復讐心の前にはな」


 法を守るつもりはないと、連行の違法を認めた。者星の拘束は、倭沢の勘違いによる職権乱用ときまった。だが、復心讐とは穏やかでない。知り合いでも踏み殺されたか。


「復讐ですか。守護巨人(ガーディウス)にいつ、なにをされました?」

「何をされました? ぬけぬけと言うものだ。母星を滅ぼしたこと忘れたとは言わせん」

「滅ぼした? 母星?」


 かみ合わない。何かを見落としてる。倭沢は、はじめ何と言った。”この宇宙”と言わなかったか。壮言と聞き流したが、本当なら、別の星へも行ったということ。別の、知的生命がいる可能性のある惑星は遠い。別の銀河だ。知られてる限り近い星でも数光年は離れてる。現在の科学レベルでは決して到達できない。


 ”この宇宙”が真実なら移動手段は宇宙船。バカバカしいが自力飛行? 流星のほうが現実的だ、もしくは改造した隕石とか。


「……いんせき?」


 ハっとした。もしかして軽量隕石(ライトテイア)というのは。


「あの隕石、軽量隕石(ライトテイア)。落としてるのはあなた方か!」

「ほかに誰がいる」


 者星の心に怒りが膨れ上がった。あれほどの物量の落下。どうやって成し遂げたか想像もできない。物理や宇宙に詳しい学者も答えは見いだせてないのだ。だが、こいつらだ。こいつらが、この星をめちゃめちゃにした。こいつらが。


「どれだけの人間を殺した! 2年前はチーフやあなたの故郷にも落として! 酷いことだと思わないのか!?」

「いささかの憂いもない。私の故郷は地球(ここ)ではないし身体も借物。相崎には、すまないと思ったかもしれないが、繁殖するカビを減らしたくらいの感想だ」

「後悔の欠片も、ないんだな……」

「そんなこともない。あぶりだしには苦労させられたよ。文明をもつ惑星をみつけては落として、違うとわかれば別の星へ渡る。もっとうまくできたのではないかと、いつも反省している」

「殺したことは後悔していないと」

「言ったろう。カビを減らしたくらいの感想だ。……あまりにも永かった。滅ぼした星の数は100から先は数えてないくらいだ。仲間は死んだか散り散り。それもこれもキミのせいだよ」


 ようやく者星は腑に落ちた。こいつらは母星を壊した敵が”巨大”と信じてる。彼女を追って宇宙を彷徨うが、どこにいるかわからない。そこで罠を仕掛けた。文明のある星に隕石を落とし、抗ってくるところを捕まえようと。だが巨大は現れない。星だけが滅んでいった。


 なんという身勝手。星を収める生物に、引き渡すように話しをつける手段もあったろうに。それもせず、復讐を遂げるために無差別に攻撃したと。そんな種族など滅ぼされて当然。こんな奴らに巨大を渡すなんて、絶対できない。


「あんたのせいだろ!」


 者星は殴りかかった。正しくは殴ろうとして腕をひいた。その初動を看破される。瞬発的な重さが、者星の頬を叩き壊した。倭沢の拳が鋼鉄のような衝撃で頭蓋ごと叩き壊した。


「……あ……がッ」


 あごが砕けた。首が直角に折れ曲がった。片方の目玉がとびだした。意識も刈り取られた。者星の身体は、操作者を失った吊り人形のように、小石の散らばるアスファルトに崩れ落ちた。





「ちょっとちょっと平蔵ちゃん。加減しなさいよ。あなたの拳から骨がでちゃってるわよ。人型の身体はもろいんだから」


 雁刃先は倭沢の手をとってあきれた。肉が剥がれ白い骨がむき出しになっていた。


「ナナ……こいつはなぜ倒れた?」


 倭沢は、血だまりに倒れる者星とを見下ろす。このありえない現象の解答を唯一の仲間に求めた。


「あらららー死んじゃったの。人違いだったってこと、かしら?」

「ニンゲン違いだと? ヤツが出現してるあいだ、誰もこの男を確認してなかった。相崎の書類にあったし、2度目はこの目で見ている。状況証拠はそろっていた」

「でもねぇこんなあっさり死ぬって、ありえなくない? 星を滅ぼした敵なのよ。ヤツがフリート隊員中って思い込んだのが根本的な間違いだったってことかもね」

「そうか」


 ぴくぴく、手足を痙攣させる者星の身体をつま先で蹴った。


「あたしたち、四肢型ってことしかヤツの姿を知らないから」

「一から調べなおすしかないのか。骨の折れることだ」

「あと少しよ。地域も確定してて、たかが200万人のひとりを見つけるだけ。銀河を渡りまくってたことを思えば、コンビニで新スイーツを選ぶのと同じよ」

「虫唾が走るのだ。同じ星上で、二つ名(ガーディウス)で浮かれるたわけが、呼吸してると考えるだけでな」


 湖に目を落とす。山の樹木が美しく映される水面。これほど生物の豊かな星はそうはない。狭い島国の、ひとつの島にすぎないというのに、飽きない景色と生物にあふれている。人工湖は水源として200万人を支えてる。


「……この下流、豊平河に繋がってたな」


 倭沢は、おとがいに手を当て、ゆったりたたずんだダム湖をみつめた。


「そのはずだけど。どうかした?」

「あの子供……チンピラが連れてた男児」

「あのかわいい子。カツくんっていってたわね」

「走行中の車から飛び出し、怪我もせずに、河川堤防を駆け降りた。あの動き、人間ばなれしてなかったか」

「まさかあの子がヤツ?」

「候補として濃厚だ。いくぞ」

「者星くんは? 山奥深くに埋める?」

「そうしよう。バレルのはまだ避けた……む?」


 高速で何かがやってきた。

 それはアスファルトを削り壊し、ほこりを捲きあげながら、ズザザザーーーーと、急停止する。倭沢と雁刃先を素通りし、横たわる体を優しく触れた。


「せんぱいっ! いま治しますからね! まってて。ぜったい絶対、助けてあげるから! 死んだりしたら承知しませんよ!」


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