21 道を急ごう!
「ひかり! オレも行く!」
「なっ! カツてめぇ!」
「ごめん!」
KATUはちょこんと形だけの頭を月島に下げると、七光の背中を急いで追いかけた、が、彼女の行き先はすぐそこの仲間。KATUは拍子抜け、勢いあまって転んでしまった。
「おッ巨大、お前は離れたヤツを集めろ」
フリートの仕事へ戻るというなら出番はない。KATUとしては月島の小樽行きを手伝うだけだが。
「相崎チーフ。これ、ブリちゃんお願いするっス」
「するっスて、巨大。どこかに行く気か」
七光は仕事に戻らなかった。上司に人形を預けると、踵をかえして走り出す。相崎が引き止める声も耳に入ってない。卯川が慌ててどなった。
「そっちぁ河、よく見ろ河だぞ巨大! やめろ! おわ??」
風を切るように走り、踏み込んだ。差し渡し50メートルはある豊平川を大きくジャンプ。病院検査が必要と言われた洋服のスカートをはためかせ、向こう岸までひとっ飛びで越えていった。
「うっそだろーー」
KATUですらあきれた。これだけの人がいるのによくやる。新聞社やテレビ局は、いつもの地元会社どころではない。東京や関西など国内の有数の局、海外からも取材にきている。さらには、知事に自衛隊に警察。目撃者が多数すぎて、言い繕いは不可能だ。
「ガーディウス目当てのマスコミだらけなのにお構いなし。どうなってもしらないから」
KATUだって、ある程度の常識はもっている。人前で派手なことをするなと、月島やかおりが言ってたし、自分でも人とは違うとわかってからは、目立たないように気を付けてる。
不思議な機能の隕石が日常的に降ってるくらい現在。ファンタジーに疑問をもつハードルは年々低くなっていて、いつ、正体がバレてもおかしくない。KATUは自分が何かを知らないが。
ちょっとだけ迷ったが、ほっとくわけにもいかない。七光に続いて河を超えた。
停めるタイミングを逸した月島は、チッと舌打ち。
「そこの隊長さんよ! フリートってな、アクロバットのも訓練してんのか」
「あいつが特殊なだけだ。付いていけるあんたの息子も大概だと思うが? 何を食べたらああなる?」
白々しくもわざとらしい質問で気を逸らそうとしたが、質問で返されてしまった。
「食い物? 豪華な飯とお取り寄せ牛乳だ。自慢の息子だぜぇ」
堤防を駆け上がる背後に、KATUはピタっと接近した。七光は、堤防道路をひたすら北上する。このまま真っすぐなら、札幌新道にあたるが。高速道路というなら雁来になる。
七光は走る車を追い越しながら、ひとり言で考えをまとめてる。
「北郷IC、いや北ICかな。新川ICはないな。でも、道が混んだら時間のかかるルートだよね。それを思えばいっそ……まさか西IC?」
西ICは、札樽道では札幌市内のもっとも西にあるICだ、ここからの距離は遠いが、市街地の左を周るルートなら流れは良い。直線で市街地を抜けるよりも、何倍も早く到着できる。
巨大は、大通りへと向きかけた足を方向転換。行き先を西へと切り換えたのだが、後続は、突然の変化に対応できない。KATUは七光の肩にぶつかった。
「カツ君? どうして?」
「ずっといたのに気づいてなかったのか。センパイ、どんだけ大事な人なんだ」
「大切……かはどうかな、でも一番のイケメン。言ってないけど」
七光はうつむいてちょっだけ照れる。みなれない仕草は新鮮だ。そうしながらも、先へ先へと突き進んでいく。歩道と車道とをジグザグに疾走。空いた隙間に着地・ジャンプを繰り返し。交差点は、河を飛び越えるようにひと跨ぎだ。
「地面走るより、ビルを飛び移ってったほうが速いぞ」
「そうだね。わかった」
信号機から電柱の天辺へ、さらに窓のとっかかりを踏み台にして、ビルの屋上へ駆け上がっていった。やはり上のほうがよく見える。とくに、邪魔な信号機がないのがいい。大きく2回、息を吸ってはいて、隣りの建物へ跳び移る。
「でもなんでそんなあせってんだ? センパイって地球人――だろ。守護巨人じゃないのは、すぐわかる。なんにもされないって」
「そのはずだけど。でも、なんか、危ない予感がするんだ」
「予感?」
「予感というより推理かな。フリートにはね、隕石に関係しない人を逮捕できないの。権限がとっても狭いんだ。恩恵隕石を横取りした人は何人も捕まえてるけど、取り調べは警察まかせだね。隊員の数が足りてないから」
KATUはいくつもの、きわどい場面を思いだした。月島に連れられ落下地点に急いでみれば、先を越した商売仇が逮捕されていく場面だ。
隕石集中地帯の中は一発アウト、そもそも厳重な壁に囲まれて入れない。まったく予想圏外の軽量隕石は取りようがない。偶然居合わせた者のひとり勝ちだ。狙いは隕石集中地帯の外周。目が届かず、放置されていた。もっとも、似た者同士がシノギを削るため、別の意味で危険なエリアだ。
「おわっ」
電線に足をひっかけそうになる。が、一方の足でゴムひものように電線を踏み込み、態勢を立て直す。
「本当に異星人だと判断したんなら、バックヤードか北大研究チームにひき渡す」
「んーと。つまり、偉い人が話を聞くのも変ってこと?」
「うんそう。警察や検察を介さない取り調べは法治国家じゃありえない。人のいない場所を借りるってのも妙な話だし。1万歩ゆずっても、場所がないってのが言いわけくさい。コンテナでも隕石集中地帯の施設でも、いくらでもあるのに」
それにしてもよくしゃべる。KATUは彼女に驚いてる。ビル裏でしゅんと落ち込んだ姿は、もうどこにもない。元気が戻ったのなら喜ばしいことだが、ときおりみえる横顔に笑顔がない。こんなたくさん話をしてるというのに、ニコリともしない。おもてなしを忘れたコンビニ店員だ。
「わざわざ、小樽にあるアニキの倉庫を借りようとしてる。そりゃ怪しいかも。うん」
KATUは、うなづいて話を合わせる。
「もっと急ぐから!」
「え?」
速度を増した七光。風になびいた髪先から汗が飛び散った。遅れないよう追いかけるので精一杯になった。それから数分。電車通りを抜け、円山公園をかすめ、ホワイトな恋人パークを視界にとらえたが、道路では渋滞がおこっていた、車はまったく進んでおらず、ひどく長い列になってる。これほどの渋滞は真冬でも、めったにみかけない。
「さあすが、じぃ」
その先には高架橋。小樽に繋がる高速道路だ。西ICへの入口は手前。そこには数台の車が横倒し。4方向すべてを塞いで、渋滞の原因になっていた。偶然というには、都合がよすぎる。KATUはビルの上で青ざめていた。
「さっき電話した人がやったの? やばくね?」
「ビンゴ! いたよカツくん、黒のセダンだ!」
KATUの頭をピシャピシャたたいて、七光が小躍りする。たしかにあれは黒い車。車には詳しくないのでビンゴかどうかわからない。藻岩山で乗せてもらった車に似てはいる。七光が獲物へと跳び下りようとしたとき、彼女のスマホが鳴り響いた。
「……んもう! じぃからだ。あとにしたいけど、でないわけにいかないか」
いらだちながら、律儀に画面をタップし、耳にあてた。
「どうしたの。セダンを西ICごと潰すとこなんだけど……え? うそ?」
聞き耳をたてたわけじゃないが、横にいるKATUの耳にも、声が漏れ届いた。
“お嬢様、札樽道のゲートはすべて封鎖いたしておりますが、残念ながらターゲットはそこではありません。倭沢平蔵殿の乗っておられる送迎車をGNSS追跡したとこと、南方面へ向っていることがわかりました。朝里から小樽へ行くようです”
「うそ。だって車が」
七光は人と車で賑わう道路に降り立った。とつぜん降ってきた女子に、逃げ出したり、スマホカメラを向けられたりと、騒然となった。かまわずにセダンに近づくと、ウィンドウから乗車する顔を確かめる。4人とも知らない人だった。
「あ、さ、り……」
“聞こえてますかお嬢様。朝里です。このような結果となってしまし言いにだしにくいのですが、ご用命は果たしましたので報酬の”
「…………センパイ、まってて。いま行くから」
七光の手がスマホを握りつぶした。
「もどるよカツくん。さっきより、もっともっとずっとすごく大急ぎで!」




