17 事実上の敗退
ブックマーク、ありがとうごさいます!
イソギンチャクが伸ばす半透明の触手は、ゾウの鼻のように自在だ。
頭部から8本、胴体からは2本。ガーディウスの胴や首を締めあげていく。
ガーディウスのエネルギーは陽光。体中についた泥がスクリーンのように働き、吸収できるエネルギーが低下。触手を振りほどくパワーが不足していた。意識が遠くなる。目に映る景色も、だんだんぼけてきた。
巨大七光はこのとき、何を感じていただろう。
答えは単純。触手が締めあげる不道徳な位置に怒っていたのだ。
―― どこを触っている ――
これでも女性。人間の形態からかけ離れていても♀性別に変わらない。
まとわりつき、まさぐるようにうごめく触手には、気色悪いヤらしさがあった。
ふふぉぉぉぃぉ~
イソギンチャクが唸りを発した。勝ちを確信した雄叫びなのか。空気の抜けた反響音が、市中全域にとどろく。首と太ももあたりに食い込んだ触手が激しく動いた。
首だけでもほどかないと。きつく縛られた腕をわずかづつ動かし、一本の触手どうにか握ることができた。ちぎりとってやる! 引っ張った……が、力がはいらない。
ぶふぉおぉおぉおぉ~
―― ぬめぬめ、ぬめぬめ……って、ヤらしい事、この上ない ――
怒りと悔しさが湧き上がってくるが、身体が言うことをきかない。
光をさえぎられてる現状。このままでは、エネルギーが底をついてしまう。
もってあと数分。このままやられてしまうのか。
固定された表情のない貌に、不安が浮かんだときだった。
ピシャッ―ンン―ンー
すこし拘束がゆるんだ。
軽い衝撃とともに、光の束が触手を貫いたのだ。触手が数本焼かれ、切断にはいたらないが、片腕が自由になった。攻撃はフリートしかいない!
―― いまだ! 出し惜しみはしない! ライトフィールド ――
巨大七光の柊が輝いた。
右の、手から肘が、まばゆい光につつまれた。
貯えた太陽からの恩恵をカラダの部分に集中させる。
攻撃と防御の必殺技。光エネルギーの集束。
ライトフィールドだ。
エネルギーを大きく消耗するうえ、持続時間はほんの数秒。光の束なのに飛ばすことはできない。制約が多い必殺技は使いどころが難しかった。その代償なのか、非常識なまでに強力であった。
一本、二本……巨大七光の輝光が、縛りつける触手を切断していく。時間わずか1秒。イソギンチャクは残った触手で攻撃するが、自由を取り戻した彼女は素早い。翻って身を低くかわしながら、斬り込こむ。
右から一閃、返す腕で左から一閃。形成の不利を悟った敵がたまらず跳躍で逃げる。だが巨大七光は逃がさない。ぐっと膝をため込んで先を塞ぐように跳びあがった。宙から落ちるチカラで裟切り。腕は抜かずに、肘からひねりあげ、V字に斬り上げる。
ライトフィールドの光は陽の光にまぎれて消えた。タイムアップ。
ふぅ……ふぃ~ぉぉ……ぉふ~ぉ
触手を失い身を斬られた怪物イソギンチャク。なおも反撃を試みる。
恐ろしい生命力とみあげた執着心だが、数分前と較べて勢いはない。
容赦なく蹴って転倒させる。
起き上がろうを身体ねじるが、千切れた半身のダメージを増やすことになった。
そこに再びフリートの光弾。とうとう敵は動きを止めた。
卯川玄作と恵桐万丈が、ライフルを頭上に掲げてる。勝利のポーズだろうか。叫んでる言葉は聞き取れないが勝利宣言に違いなかった。そういうことにしておこう。
辛い闘いだった。だが逆転できた。援護のおかげで敵を倒すことができた。
巨大七光が親指を立てると、あたりから歓声があがった。
腹に響くような風きり音が接近。みるまでもなく自衛隊の攻撃ヘリだ。数は、前より1機多い3機。ガーディウスから距離をとって、その周囲をゆっくり旋回していく。
到着は遅かったが、敵を葬ったことへの礼。受け取っておこう。
上空のヘリへ腕をあげた。たいしたことはしていない。謙遜ではなく事実だ。
異敵を葬った感動を分かち合ったポーズは、回転する12ミリ機関砲に打ち砕かれた。
近距離の砲弾が直撃。手のひらが吹き飛ばされた。
―― 攻撃だ。まただ。またしてもだ ――
腹だたしいのではない。だた、哀しくて心が沈んでいくのだ。
繋がった気でいるのは自分だけで。市民から受け入れらていなかった。
3機のヘリは執拗に周回。攻撃のペースを緩めない。高度は前回より高い。等距離を保つ。素人でもわかる。かなりの訓練を積み重ねてきてる。大きな生物を想定した、反撃予測を組み込んだフォーメーションであった。
だがまだ甘い。砲撃につきあってやる趣味はない。
巨大七光は10メートルの巨体に似合わない速さで、ヘリの射線から逃れる。
卯川がライフルを構えたのがみえた。アイツもかと訝ったが狙っているのは自分でなくヘリ。冗談だろう。人間のそれも同胞同士で。
光弾が撃たれた。狙いは正確。ヘリは巨大に夢中で回避しない。
間違いなくあたるが、人が人を殺すのは視たくない。
巨大七光が跳ぶ。ライトフィールドは連続できない。裸の腕で光弾を止めた。10発以上もの弾でダメージを積もらせた腕に、光弾が命中。トドメとなって、肘より下が切断された。
―― あうぅぅ ――
四股の重さが変わったこと、なによりも傷みで、空中でのバランスを崩す。着地失敗で、背をしたたか打ちつけた。めまいがした。意識がふきととびそうになるのを、頭をふってこらえた。
―― いまは逃げる。だが覚えてろ ――
力をふりしぼってのジャンプ。目くらましの光放射。そのさ中、車の影で無事なセンパイを確認。ずっと遠くに止った黒い車が目の端にとらえた。
身体を急速に縮ませる。巨大七光へと戻ると、忌々しい橋から高速で走り去る。
ガーディウスが敗れた。
敗北の相手は人間。
食物連鎖の頂点にたつ生物。
この星でもっとも守りたい生物だ。




