15 ある意味の邂逅
札幌の街をを一望できる藻岩山展望台にどよめきが走った。歓喜に沸いたと言うべきか。
車どころかビルでさえサイコロよりまだ小さい凝縮された静的な景色のなか、縮尺をものともしない、明瞭な動きの生物が飛び跳ねていた。
こんなチャンスはめったいにないと、動画を投降する人。2体を背景にしてスマホでの記念写真。胸の高さの欄干に乗りこえる勢いで、遠方でくり繰り広げられる戦いを記憶と記録に焼き付ける。
「マジか……マジだ。ほんとうに出てきやがった」
腰が抜けように欄干にぺたりとへばりつく月島に、KATUがあきれた。
「なんだよ、信じてなかったのか」
「信じてなかった。つか、テレビ番組じゃあるめーし、都合よく登場ってことねーだろ、だがよ……俺にもツキが回ってきたってことでいいよな」
くぅぅぅっと歯をかみしめた月島は、両の握りこぶしを天にささげてガッツポーズ。
「やったぜぃカツ! シノギほっぽってまで粘った甲斐があったってもんだ」
「そうだな……ひかり」
くすんだ街の壊れかけた橋の上。新鮮な白にきらめく守護巨人をKATUは見つめる。
「なにか言ったか?」
「なんも」
「ぼーっとしてんじゃねぇ! 来いや!!」
となりでは倭沢と雁刃先が、同じく守護巨人を見下ろす。
「出たな」
「狙いどおりにね」
二人が合わせる目は絶対零度のように冷たい。
光のない瞳の奥にあるのは言葉にならない脱力だけだ。
宇宙から突入させた巨大異星人。おもわく通りに、相手は、食らいついた。これから、現場におもむいてそいつを確定させる。終えたも同然だ。
相手は特定できてる。地球の確率でいうなら、99パーセント間違いない。
守護巨人の正体は、者星ハヤタだ。
あとは流れでどうとでもだ。
この星にくるまで、滅ぼしてきた幾多の種を思い返す。
100年以上かけてあぶり出した相手が、人違いだったこともある。
怒りにまかせて地殻を攻撃。惑星ごと葬ったことこともあった。
敵が築いた子供や孫を無残に切り刻んだことだって。
すべては復讐のため。倭沢と雁刃先――身体を乗っ取った二人――の母星を破滅させた一派と、その遺伝子を宇宙の塵とするために。
永年といっても大げさではない刻をかけ、無限ともいえる宇宙に散らばる星々を探した結果の敵発見。待ちに待った瞬間であったというのに高揚感が湧いてこない。むしろ、心の置き所を失ったように空疎であった。
引き連れた500万もの物質生命体。それもわずか。
敵をみつけても、見つからなくても、余力はゼロになる。最後の星と決めていた。
終わりにする星で出会えるとは。なんという巡り合わせ。
歓喜にふるえるところなのに、ダークマターを遊泳してる気分だった。
終幕があっけなさすぎて、戸惑いさえおぼえる。
一足飛びでぶちのめしたいをこらえ、倭沢は待たせた車に戻ろうした。
そのとき、横の月島に声をかけたのは、どんな気まぐれだっったろうか。
「ちょっとすみません」
雁刃先が「え?」っと驚いたほどだ。
「ん、なんだ?」
月島がふり向いた。メンチを切ってるのは、あいさつみたいなものだ。
「みたところあなたがたの目的は隕石生物のようですが」
「だから? 急いでっから邪魔すんな」
「私たちもでも。すぐあそこに急行します。車ですがよかったらご一緒しませんか」
「んだと!?」
月島は、貧弱な計算を開始した。目がより細くなり貧相の度合いを高めた。
この、なりの良い男の提案は、こっちにゃ渡りに船。
だが、乗り込むのには、あまりにタイミングよすぎる船だ。
怪しい。うまくて都合のいい話には、裏がつきもん。
初対面の人間を信じたとして、いいことが、ひとつくらいあったか?
ひとっつもなかった。
長いチンピラ生活の経験が黄色を灯す。出たのはわりとまっとうな回答だ。
「払えるタクシー代なんぞねぇ。それにバカなのか? 実もフタもねぇ言い方をすりゃあ俺たちぁ胡散臭い。関わろうなんてヤツは、負けねぇくれえ胡散臭せぇにきまってる」
「ぷ。はははは」
あまりの物言いにふきだした。
倭沢が、相崎の以外の人間に相好を崩すのは珍しい。
「んだあ? しばかれてぇのか?」
大げさに手をふりあげたが、ふりだけだ。
目の前の極道を装ってる風の男は、自身が言うとおり真面な生き方はしてないのだろう。
だが曲がってるのは見せかけで、根は真っ直ぐだとも感じた。
「胡散臭い人は自分でいわないものですよ。みたところ、お連れのお子さんをいたくかわいがっておられる。そういう方というのは根は正直なものです」
眉毛の間と口の端を、器用にひんまげた。「気持ち悪い」「なんだコイツ」「なんでわかんだ」「車かぁ」という心境が垂れ流す。交渉ごとに向かないタイプだ。こういう人間ばかりなら世界から探り合いは消える。
「親じゃねえがタダで乗せるっつんなら願ったりだ。しつこいようだが文無しだぜ」
貧相な顔だけ維持し、眼だけで笑ってみせる。
「交渉成立ですな。私は倭沢でこっちが雁刃先。対人外生物異物対処班の責任者をしております。ではこちらへ」
「ん? ホスクラド……フリート!? おめえフリートのボスか!」
驚く反応も予想どおり、恩恵隕石で一儲けしようという人間はどこにでもいる。軽量隕石の回収が主な任務でフリートは、目の上のタンコブらしい。まっとうじゃない人間ほど忌嫌っていた。
笑顔で案内した倭沢の車は、官公庁指定の防弾仕様車。
退屈した運転手が待つ高級車だった。
座り心地のより後部シートに腰をおろした倭沢がスマホをとった。
「自衛隊丘珠駐屯ですか? 第一対戦車ヘリコプター隊に知らせてください。あ、こちら善良な市民です。怪物が暴れてるので駆除してもらえると助かります。知ってましたか? さすがです。豊平橋で、ええ、白いヤツが凶悪です。白いほうです。よろしくお願いします」
☆☆☆☆
「きょだい……」
者星が驚愕する。無理もない。唐突にまばゆい光が発生。光に包まれて、人知を超えた異星からの怪物、ガーディウス現れた。味方のようにふるまってるが、敵対する相手には容赦がない。攻撃をヘリをためらいなく叩き落としたことが物語っている恐怖の生物。なのだが、いまばかりは親しみおぼえた。
なぜなら、自分の目を信じるならば、巨大ひかりが姿を換えたものだったから。
胸に柊の模様。見下ろした視線が、者星と交差した。その足もとを巨大がちょこちょこと。人形と犬を抱いて逃げ去っていった。
いったいなにが。説明が欲しくなり、内ポケットのスマホに無意識に視線を落とした。強い風が身体を押してきた。よろめきながら風圧に耐えてると、重厚な衝撃音が背後に落ちた。
ふり返って視えたのは、ガーディウスに蹴られたイソギンチャクが、落ちていく場面だった。なぜ、岸にいたはずの怪物が宙に。わからないが、ガーディウスが居なければ下敷きに潰されていたことだろう。
「助けてくれた、のか?」
答えはない。
守護巨人は追撃に移っていた。自らも跳んで、落水する敵へと踊りかかっていった。幹のように太イソギンチャクの触手が、すぐ横に落ちてきた。者星の意識はそこで途絶える。
ブクマ、評価 そろそろ欲しいなぁ




