14 |守護巨人《ガーディウス》楽勝?
道路は混雑で進めない。ピックアップ車が止まって場所は、現場からはやや離れていた。 卯川玄作、恵桐万丈、者星ハヤト、それに|巨大七光。武器を携えて4人は走る。
新銃のレクチャーを、ゆっくり受けてる時間はない。
銃器に詳しい恵桐が、走りながらかんたんに説明する。
DVL-10というロシア製狙撃銃がある。ボルトアクション式の狙撃銃の設計思想は、とことんまで無駄を省くことにあったという。無音性で軽い。出来上がった銃は、都市部の部隊や特殊部隊、警察向けのライフルとして重宝された。
フリートの後方部隊は、F01式薬莢式光線銃として、より軽量な薬莢式光線銃に生まれ変わらせた。略称はF01。軽いといっても”ライフルにしては”軽いという程度。全長70センチ重さは2.5キロは、いつものハンドガンよりずっしり重かった。恵桐がほほえむ。
「弾倉はあっても連射機構はない。通好みの一発撃ちだ」
なんの”通”だか聞くまでもない。威力が高いほど安心するのは、武器に依存してしまってるのかな。危険だな、と者星は息を吐いた。
「警戒しろ」
敵の姿は、目的地である豊平川に到着する前から、見えはじめた。デスドリアンというくらいだ。あの隕石生物も身の丈10メートルはある。近づくにしたがい、奇妙な全貌がはっきりしてくる。
上から下まで等サイズな円筒形。吸いつきそうな外被と頭部に20本ほどの触手。腕らしき肢が2本。地球の海にもよく似た生物が住んでる。
「腕を持ったイソギンチャクだな。どうやって動きまわってんだぁ?」
「ジャンプっスかね。船橋市の非公認キャラみたいに。跳びました!」
ぐにょっと身を縮ませてから伸ばす。伸縮する勢いで歩を進めるタイプだ。
あまりにグロテスク。者星の背中に鳥肌が立つ。
「イソギンチャク底は海流に流されないよう岩など吸いつきます。”足版”って言うそうです」
「博学だな者星。で、あいつはなんで、吸いつく足でジャンプできるんだ?」
「それはわかりません……似ていても宇宙生物ですから」
どっしん……どっしん……一度の跳ね幅は5メートルほど。残った跡は、直径4~5メートルほど窪んでる。堤防道路を進行して、フリートメンバーのいる最接近――すると思ったが、一気に数倍のジャンプ。橋の上へ着地した。
「橋にあがりやがった!」
怪物が載った豊平橋は、千歳空港と市街とつなぐ大動脈――別名を弾丸道路――国道36号線が通る橋だ。災害によって幾度となく流されるが、そのたび、強固ものに架け替えられてきた不死鳥のような橋である。開拓時代の仮橋から数え、現在23代目。
あたりの道には、乗り捨てられた車が列をなしてる。橋上には、それに倍する車がひしめいていた。庭園の飛び石から飛び石に飛び移るように、車から車へとジャンプし再起不能にしていく特大イソギンチャク。被害は車だけに留まらない。
「橋に亀裂! ヤバいっス! ススキノに行けなくなる」
「いまそんなこと……マズイな。巨大! ヤツを橋から落とすぞ」
「橋の端から落とすっス!」
6車線ある道路。4人は二手に分かれた。卯川・恵桐は横転した運搬車の鉄道貨物を遮蔽物にする。者星・巨大は、避難誘導にきて動けなくなったパトカーの影まで走った。
4人は、新装兵器のボルトを引いて、初めての操作だが滞りなく弾は装填。引鉄をおとす。銃が火を噴いた。発射弾は光線である。4条の光すべてが命中。デスドリアンのぶ厚い外被を破った。
「どうだっ新兵器の威力は!」
「苦しんでるっスね」
陸に上がったイソギンチャク。ぬめっとしたゼリーふう体躯をくねらせ、黄色い体液をまき散らす。光弾によって焦げた部分には孔が開いていた。2本の肢が孔を抑える。巨大の指摘どおり、もがき苦しんでるような動きであった。
「効果ありってところだな」
「次弾装填。狙いは孔! 傷を広げてやる」
貨車から身を半分だけさらした恵桐が指図。戦闘の現場では、この茶髪ロン毛が指揮をとることになってる。空をゆく鳥が地を見下ろすかのように、不利な状況にあっても、客観的な判断をくだす。
各員が次弾をかちゃりと装填。金属音が小気味いい。
「射撃ッ」
2撃目の光が撃たれた。
おのおのの銃から射出された薬莢が、キンっと、アスファルトを鳴らす。
着弾。
イソギンチャクの身が二つに折れた。金的を蹴られたように跳ねまわるが、地に足がつく震動で、傍の車数台がとびあがった。鉄筋コンクリートを数メートル重ねた橋には、わずかだが、間違えようのない亀裂が入った。跳ねる震動を受け、亀裂はどんどん大きく広がる。湖上の氷が割れるように、範囲が拡大していった。
「ヤバいかも。退がれ!」
衝撃は橋に蓄積されていき、やがてピークを越えた。
橋脚のない橋げた部分が、半弧状にえぐられくずれ落ちる。イソギンチャクも、落とし穴にハマったように、豊平川の流れの中へと着水した。
「守れなかったか」
橋の車線の半分が崩壊していく。鉄筋とコンクリートがむき出しとなり、橋下に敷設された電源ケーブルが火花を散らす。数十台もの車両が河へと落ちる。車は、身を起こそうともがく敵イソギンチャクの頭上へ降ったが、たいしたダメージは与えてない様子だった。
「ヒト発見! 反対側の車。女の子が取り残されてる」
巨大が指をさしたのは、壊れ落ちた円弧の向こう。打ち捨てられた車だ。
「子供を残し、大人だけ逃げたというのか……」
「いつもこれだよって言いたげっスね。そーゆー星の元なんですセンパイは」
悪かったな、とにらんで者星が駆けだす。えへへと、巨大が続いた。
卯川が止めようとしたのだが、もう遅かった。
「救助なら警察にまかせりゃいいのに」
「橋の下へ行こう。怪物をひきつける」
恵桐はそう言って土手を降りた。卯川が追いかける。
豊平橋の下は河川敷公園。刈りこまれた芝の斜面を下りれば散歩やジョギングで人の絶えない。かつては自動車学校の練習コースさえあった。
人の消えた岸辺。イソギンチャクがはいあがってくる。
引きずった後に水たまりができる
「弱ってやがる。バックヤードの新武器も伊達じゃねえぜ」
「頭部がガラ空きだ!」
恵桐の3射目。狙いどおり、頭部へ命中した。
ミミズと言うには太すぎるが、うにゅると動く触手の何本かが千切れた。
「恵桐やるなァ! この調子で片づけてしまおうぜ」
「そうでもない。見ろ」
「千切れた触手が、生えてきてやがる」
目指した車に者星がとりついた。ウィンドウは濃いスモーク仕上げのせいで、真昼にもかかわらず車内がはっきり確認できない。たしかに後部座席に人がいる。子供のようだが、座ったきりでまったく動かない。いかに涼しい北海道でも夏は30℃の日がある。脳裏に脱水症状の文字が浮かんだ。
「待っていろ。いまドアを……ロックされてる! 中のキミ! レバーを引いてくれ」
「センパイ離れて」
「なにを……!」
巨大がなにかを持ってきた。
「これの破片で割るっス」
振り上げたそれはドア。ただし、トラックのドアだ。
イソギンチャクが踏み壊した残骸だろうが、破片というには大きすぎた。
「バカ待てこの怪力女! 破壊を助長するな! 壊せば責任問題になるぞ」
「人命救助は正義っス。あらゆる例外を正当化できる万能語っスよ! せーのッ!」
小さな身体のどこに余剰筋肉がついているのか。降り下ろされた重力物が、助手席のウィンドウを狙う。窓は景気よくバラバラに壊れると、巨大は、ヒットした打者がバットを放るようにドアをポイっと投げて、車内に入り込んだ。
「だいじょうぶっスかー」
「巨大!」
「保護しました!」
「脈はあるか!」
「ないっス」
「な……い……」
脈がない。間に合わなかった。やはり、閉じ込められせいでの脱水症状、それともショックによる心臓麻痺。どちらにしても車内に放置したヤツがいる。非常事態といって絶対に見過ごすわけにはいかない。探し出して責任を追及すべきだ。
犠牲者の仇討を誓っている者星に、引っ張り出した子供をみせた。
「てか、連れて帰ります!」
「連れて……は? お前なに言って……!!??」
連れてかえるという脈のない子供。
それは3歳児くらいのリアルな人形だった。
「いい趣味してるっすよ。顔は人間そっくり。不気味なほど正確に仕上がってるっス。身体はフェルトのモフモフというアンバランスぶりがまた良い。夜みたらおしっこチビる自信が、いたっ!」
やるせない腹立ち。者星は、巨大のおデコをビンっとたたいた。
「怪物はどうなってる」
橋の壊れ目から河をのぞくと、岸にあがった怪物が、銃を撃つ卯川恵桐へ向うところだった。橋から引き離してくれていたのだと、気づいた。
「引き上げるぞ。合流して底足イソギンの始末をつける」
「センパイ!」
人形を抱える巨大は、また、逆の方向を指さした。
「今度はなんだ!」
「ワンチャンっス」
「ワンチャンス? なに言って……犬?」
犬種に詳しくないがそこそこ大きな中型犬。首輪をつなぐリードがタイヤに踏まれ、逃げようにも逃げられない。その状況にあっても哀しそうにクーンと鼻を鳴らすだけで、吠えない。よく躾けられている犬だ。
「巨大いけ。人形だって救ったんだ、見捨てるわけにはいかない」
「やっぱ優しいっスね」
「いいから行けッ」
「はい――」
背を向け、犬のところへダッシュしようとした巨大の足元に、影が差した。
空をふり返るとそこに、高く飛び上がったイソギンチャクの姿があった。
「――センパイっ!」
者星は気づいてない。
巨大は早口で、呪文を唱えた。
「偉大なる母にして芳醇な力の源である太陽よ矮小なあたしに光の力を分け与えたまえ」
ホルダーにいるシミターを解放しながら、最後のキーワードを叫ぶ。
「巨大化!」
ブクマ。いいね。☆☆☆☆
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