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【連載版】絵本のような婚約破棄の果てに悪役令嬢は幸せを抱き寄せる  作者: りんご飴ツイン


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第五話 ゲテモノ専門店

 

「へいらっしゃい!!」


「よお、大将。相変わらず客いねえな。ゲテモノ専門店なんてやっぱり流行らねえと思うぞ」


「へっ、そうやって舐めていられるのも今のうちだぜ! いずれ、必ず、世界はゲテモノと忌み嫌ってきた食材たちの美味さに気づくんだからな!!」


 王都の路地裏でもまだ『浅い』一角にその店はあった。


 床やら天井に謎のシミが広がっていて、どこか埃っぽい店内で唾を撒き散らしながら怒鳴る筋肉髭ダルマとしか言いようのない店長。路地裏基準だとまだマシなほうではあるが、やはり公爵令嬢を連れてくるような場所ではないだろう。


 それでもこんなところしか知らないのが護衛の男という人間なのだから仕方がない。


 何ならこれで幻滅してくれれば、と思い、シルリアを見るが、なぜかわくわくした気持ちを隠そうともしていなかった。


「ごーさん、ここは?」


「さっきも言ったが、ゲテモノ専門店だな。普通は食おうとも思わねえ癖の強いもんとか毒を持ってるもんとか、廃棄処分されている食材ばっかり取り扱っているんだよ。物好きだよな」


「俺はあんなに美味しい食材たちをゲテモノ扱いしている世間が間違ってると思うがな!」


「……普通の人間は草が腐るほどの刺激臭を発する肉とか食ったら激痛に悶えるくらいに強い毒を持つ魚とかを食おうとは思わねえっての」


 そう護衛の男が呆れたように言った時だった。

 なぜか腕と同じ長さはある包丁をブンブンと振り回していた筋肉で髭でダルマのような店長はようやく護衛の男の隣に立つシルリアに気づいたようだ。


 いくら服装を平民に寄せてもなお損なわれない美しい少女を前に目を丸くする。


「なあ、おい。そちらは誰だ?」


「シル。俺の知り合いで──」


「ごーさんとデート中なんですよ!!」


 ぎゅう!! と、胸元がくっつくのも構わず絡めた腕に力を込めるシルリア。目を引く美少女が嬉しそうにデートだと口にする様子に店長は面食らっていた。


「デートって、お前、いつの間にそんな美少女捕まえやがったんだ!?」


「馬鹿か。どうやったら俺とシルがデートするような仲に見えるんだよ。単なるお出かけだっての」


「もうっ、デートと言ってますのに頑固な人ですねっ」


「へいへい、そうだなー」


「またそうやって軽く流して!!」


「それより大将。どうせメニューはお任せしかねえんだろ。適当に食えるもん出してくれ。もちろんシルでも食えるくらいの初心者向けで頼むな」


 そんなことよりシルとの関係性は、とでも聞きたそうな店長ではあったが、護衛の男はあえて無視して近くの椅子に腰掛けた。……隣にシルリアが座るのはともかく、まさか座っても腕を組んだままとは思っていなかったが。



 ーーー☆ーーー



 魔物。

 人々に害をなす生物にして多種多様な力を持つ存在である。


 例えば、炎を纏う巨人。

 例えば、触れたものを腐敗させる触手の塊。

 例えば、複数の生物の特徴を併せ持つ複合生命体。


 そのどれもが自然界では生まれるはずのない『異端』な生物なのだ。


 ()()()()()()()()()。それだけの理由であり得ないはずの生物が我が物顔で闊歩しているのにはもちろん根本となる理由がある。


『伝説の武器』と同じなのだ。

 暗闇や谷底、自殺の名所や不幸が多発する場所、果ては猟奇的な殺人などに対する恐怖が人々を伝っていく中で変異していった結果、魔物といういるはずのない存在を形作り、それが長年語り継がれていくことで自然界ではあり得ないはずの生物が現実のものとして生み出されているのだ。


『伝説の武器』が伝承や伝説を基に何かしらの力を待つように、魔物とは人々が長らく語り継いでいった恐怖が生物という形に固着した存在ということだ。



 そんな魔物の一角であるメデューサの頭から毟り取った蛇の丸焼きが皿に山のように積み上げられていた。



「へいお待ちっ。メデューサの髪の丸焼きだぜい!!」


「食欲失せる言い方するなよな。普通に蛇の丸焼きとでも言ってくれればまだマシだってのにさ」


「何を言う! そうやって食いもせずに忌避される食材に日の光を当てるのが俺の使命なんだ!! それが食材の出所を隠しては意味がないだろうが!!」


「それはそうなんだろうけどよ」


 比較的『浅い』とはいえこれである。

 どうにも生まれからしてこういうアウトローな空気を好む護衛の男と違い、公爵令嬢として穢れなく育てられたシルリアには少々刺激が強いことだろう。


 こんなことなら多少嫌がられてもミランダのような普通の感性を持つメイドにアドバイスを貰えば良かったと後悔する護衛の男。


 だから。

 しかし。


「あの、ごーさん。メデューサの頭の蛇って美味しいのですか?」


「まあな。前に食ったことはあるが、肉汁が凝縮されていて美味かったな」


「そうですか。ごーさんがそういうなら食べてみましょうか!」


「……いいのか? 連れてきた俺が言うのもなんだが、無理する必要はねえんだぞ」


「わたくしは言ったはずですよ。ごーさんが好んでいる場所を知りたいと。これがごーさんの『日常』であるのならば、わたくしもまたそれを体験し、好きになりたいのです」


 屈託のない笑顔で、飾ることなく言ってのけたシルリアは蛇を丸焼きを器用にフォークで切り分け、ぎゅっと目を瞑りながらも勢いよく口に運んだ。


 平気なわけないだろうに、それでもと思えたから。

 そう思えるくらいには護衛の男のことを知りたいと思っているから。


 どうしても直視できず、視線を逸らした護衛の男の耳に『んっ。美味しいですっ』というシルリアの驚いたような声が届いた。


「そうだろうそうだろうっ。嬢ちゃん良い舌してるな!! そうだ、最近仕入れたレヴィアタンの刺身なんかもあるが、食ってみないか!?」


「是非いただきますわ」


「そうかそうかっ! ようし待ってろよ、今捌いてやるからな!!」


 ゲテモノだからと忌避されてばかりで美味しいと褒められたことなんてほとんどない店長のはしゃぐ声を聞きながら、護衛の男は誰にも聞こえないようこう呟いていた。


「本当、お嬢様は変わってるよな」

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