自己紹介
異世界初の魔物。
それは大きい猪。
とりあえず、大きい猪の英訳で「ビッグボアー」と呼ぶことにしよう。
そのビッグボアーはかなり興奮したように見える。
その仮称ビッグボアーは俺たちの前で威嚇する。
「ブアアアアアアア!」
猪というか、想像した通りの強い豚というような鳴き声。
やはりここは異世界だ。
そうして考えていると、リナリアが俺に警鐘を鳴らす。
〖あ、あのエルフ、魔法を使うよ〜。気をつけて〜〗
そしてその直後、リナリアの警鐘通りエルフは魔法を唱える。
「『シュメッサフト・アイス』!」
そう唱えた刹那、エルフの横から氷の塊が出現し、仮称ビッグボアーに襲いかかる。
だがしかし。
「ブルアアアアアアアア!」
と仮称ビッグボアーは叫び、ダメージ受けていないように見えるどころか、もっと怒らせてしまったようだ。
「う、嘘・・・でもこの子は守らないと・・・」
とエルフは焦る。
あの決意は不安に変わる。
俺も魔法は使えるのだろうか?
使えるのであればあの仮称ビッグボアーを倒してやりたいところだが。
〖ああ、君魔法使えるよ〗
まじっすか!
俺はリナリアにやり方を聞く。
するとリナリアは、
〖えっとね、君は「魔力統括」を持っているから、「んっ!」ってイメージすると出てくるよ!〗
ほう、「んっ!」か。
やってみよう。
「出てこい俺の魔法!」
そう唱えた刹那、仮称ビッグボアーの足元の地盤は歪み。
「ブアアアアアアアァァァァァァ・・・」
地面からいくつかの蔦が出てきて、仮称ビッグボアー貫いた。
仮称ビッグボアーは痛みにもがき苦しみ。
それはすぐ終わり、やがて仮称ビッグボアーは活動を止めた。
「えっと・・・大丈夫? 」
俺は仮称ビッグボアーにおわれていたエルフに声をかける。
エルフは驚いて座り込んでいた。
エルフは俺の呼びかけに気づくと。
「ああ! 大丈夫・・・。良かった・・・助かって・・・」
と生きている事に実感を持ち感嘆の声を漏らしている。
そしてそのエルフは耳を輝かせ。
「ところで君凄いね! こんなに小さい子に助けられたなんて・・・」
「え? 」
俺に興奮気味に話しかけてくる。
しかし、さっきのエルフの言葉。
その中に、気になる言葉があった。
俺はそのことをエルフに聞く。
「なあ、さっき小さい子って・・・」
と。
エルフは俺のその言葉により目を輝かせ。
「うん! 君だよ! すごいね、君! そんなに小さいのにもう会話ができるなんて! 君見たところ初等学院生でしょ?」
「え? 」
物語は加速していく。
「えっと、俺って君からどんな感じに見えてる?」
俺はそのエルフに問いかける。
「ん? 11歳くらいの女の子!」
「ぅぇえ?」
そのエルフの回答に、俺は思わず声を引く。
しかし、あれだ。
人生初の異世界転生。
人間ではない上に幼女だという。
リナリアの件で今後のことへの不安が杞憂であることを祈っていたが、もう杞憂ではなくなった。
もう大惨事だ・・・。
「そういえば私は君に自己紹介をしていなかったね! 私は天妖種のポインセチア・ヴォディセ・パーツァ・クァウェンフ!みんなはポインセチアって呼ぶわね!」
「えっと・・・え? 」
「ポインセチア・ヴォディセ・パーツァ・クァウェンフ」
「ポインセチア・ヴぉで・・・え? 」
そのいくら聞いても名前がほぼ覚えられない俺の様子を見て天妖種は、
「ポインセチアでいいよ〜。君の名前は? 」
「ええと、ソウメンシオン・・・」
ソウメンシオン。
そのあまりにふざけている苗字はこの世界で通用するのだろか。
この世界に素麺という名の食べ物があれば、俺は日本と同じ様にからかわれてしまう可能性が高い。
今言ったことを後悔してる。
「で、伝統的な・・・」
そう言ってポインセチアは肩を震わせる。
興奮を抑えられていない様子だ。
何か禁忌に触れてしまったのだろうか・・・?
「伝統的な地妖種の名前だね!」
「え? 」
ポインセチアの興奮は悪い意味ではなかったようだ。
しかし、伝統的な地妖種の名前とはどういうことだろうか?
ポインセチアに聞いてみることにしよう。
「なあ、さっき地妖種の伝統的な名前って言ってたが・・・」
「ああ、地妖種はまず名性じゃなくて姓名で名前が書いてあるんだ! 面白いよね! あと、姓のところに食べ物の名前が来るんだよ〜」
ドワーフといえばあの背が低くてガタイがいい種族。
技術力が高いことでも有名だ。
そのドワーフと一緒だなんて・・・。
嬉しくもなんともないな・・・。
「それでね! その食べ物の名前が独特で、『二フォン』って異界の国が発祥のものらしいよ! 君の『ソウメン』も『二フォン』の食べ物でしょ? 」
なるほど、二フォンか・・・。
日本か・・・?
素麺は日本では夏よく食べるし、まあそうなのか・・・?
「ああ、素麺は日本の食べ物だよ」
「でしょ? あとシオンは二フォンをニホンなんてちょっと変わった発音するんだね! 」
これが正しい発音だと言わなかった俺は偉いのだろう。
あと、俺は地妖種ではなく、死華種。
だが俺のあとひとつの種族は邪従種というヤバいやつだ。
言うべきか・・・?
「なあ、俺・・・実は地妖種じゃないんだ」
「そうなの? じゃあこの国にいるってことは天妖種? 」
あら。
素晴らしく好都合。
そういう事にしておこう。
「あ、あはは・・・」
肯定せず、否定せず。
これが俺のやり方だ。
卑怯者と蔑むことなかれ。
これが、生き方だ。
「じゃあ結構名前少ないね・・・あと苗字も前にある・・・まあいっか!」
ああいいさ。
面倒なことになりかねない。
沈黙を貫け。
そうして初めての出逢いは終わったのであった。