魔法陣と転生
「はあ・・・」
俺は深いため息をつく。
親には望まれて生まれるが本人は望まず親の勝手で生まれた17歳。
日本に生まれた俺は全て少し他の人よりできるしょぼい能力を持っていたが、普通に少しやれば抜かせる程度のしょぼい感じで、まああてにならない。
例えば、中学校の頃。
勉強の面では俺はトップの成績を収めていた。
中一の頃はみんな遊びたい一心で騒ぎ、通信表で最低評価を付けられないよう程々に授業中にふざけていた。
もちろん俺もそのひとりで、宿題はやってこないが「関心・意欲・態度」のところがギリギリ着くように挙手をして積極的に発言し、そんな俺と気が合う友達も見つけ、楽しくサボっていた。
自分がトップの成績を取れているのは自分の才能。
自分は勉強しなくてもトップの進学校に入学できる。
そう信じて疑わなかった。
そんな俺も学年が上がるにつれ、また日がたちカレンダーを捲るにつれ成績が下がって行った。
そんな俺も焦らずに、「運が悪かった」などと自分を慰め騙し、また勉強を十分せずにテストに臨む。
突然成績は下がる。
他のみんなが勉強しているのに俺は十分にしない。
当たり前の結果だ。
それなのにまた自分を慰め騙し、時間を無駄にする。
成り下がり、成績がワースト7の常連になるのは2年生の二学期。
受験生になってからようやく自分の愚かさに気づいたが、もう遅かった。
平方根をやるにも累乗を理解できない。
二次方程式をやるにも方程式を理解できない。
これがどの教科にもある。
そんな俺でも本当に頑張ってワースト7は脱出。
だが総員の半分が限界だった。
成り果てて1年生の頃の可能圏より程遠い高校に入学した。
そんな俺がため息をついた理由。
それは化学のテストが赤点だったからだ。
俺の高校ではテストで5回赤点をとると留年、そのままやる気を無くし自堕落に学生生活を送ると退学処分。
俺が過去4回赤点を取った。
今回が記念すべき5回目。
そう、見事留年である。
俺は完全にやる気を失った。
「おいシオン!お前そのまま落ち続けたら退学だからな!来年だからな!」
さっきでたシオンというのは俺の名。
本名を「素麺 シオン」
ふざけている苗字には俺も生まれ、自我を持った時には疑問に思った。
「苗字が素麺ってどういうこと? ん"?」
と。
そして断ることがあるとすれば、俺は素麺が本当に嫌いだということだ。
その疑問故、幼い頃、俺は親に言ったことがある。
「ねえ、なんで俺の名前は素麺なの?ご先祖さま馬鹿でしょ? 素麺食うくらいならゴーヤ生で食べた方がマシだよ」
と。
そしてガチでゴーヤ1本食べさせられた。
味なし食材本来の味がわかる生なので、食べ切るのに丸一日かかったことはまだ覚えている。
次の時間。
教科は数学。
先生は何やら一生懸命解析している。
なんで俺が理系に入ったのか。
俺が知りたい所存である。
先生は言う。
「今日は原始関数について学習します。先生は回りくどく言うことがスマホの残量通知がきて音ゲーの邪魔になることの次に嫌いです。つまり2番目に嫌いということですので、まず原始関数とは何かについて説明します。原始関数とは・・・」
くっそどうでもいい先生の話が続く。
黒板に書いてある文字はわかりやすく、その先生はわかりやすいことでいい評価を得ていた。
オマケに面白い話を持ち、怒らない。
先生はかなり素晴らしい先生だ。
だからこそ俺はノートに魔法陣を書いた。
なぜかは知らない。
本能の呼びかけだと仮定する。
かなりクオリティが高い。
自分が言うのもなんだが、割と異世界にありそうだ。
魔法陣には黒、赤、青のボールペンを使った。
良く分からない文字の羅列を書き込み、それをまるで囲む。
さらにその塊を四角で囲み、4つの点をまるで囲み、「360」と中心に書いた。
それから色々書き込んでいくとそろそろ書くことがなくなってきた。
我ながら力作。
美しい・・・。
だが、そろそろ興ざめだ。
俺の頭にあった魔法陣は完全、いやそれ以上に書き終わった。
俺は魔法陣の上に頭を置き伏せて、そのまま眠りについた。
みんなが頑張る中俺は惰眠を貪る。
素晴らしい背徳感に俺はスリルを味わう。
そのスリルを味わったまま。
俺はいつもより暖かい陽気包まれて。
眠りについた。
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意識が覚醒した。
だが、視覚がない。
目が見えない。
そして、浮遊している。
水に包まれているような感覚だが、苦しくない。
《意識の覚醒を確認。それにより異世界転移時のガイドを開始します。》
とても人の愛情が欠陥している声が響いてきた。
《ここで異世界転移の際の身体の再生成を行います。主、ソウメンシオンの抵抗力をゼロにし、心身の分解を行います。》
え? 心身の分解?
やばい単語聞こえたけど?
《心身の分解、成功しました。次に、核を取り出し依代に埋め込みます。また、埋め込む先にの心身の種族は転移前の身体の希望により、第3類種族名、邪従種とします。変更はできません。》
ん? しゃどーま?
頭になんか入ってきた。
漢字だ。
ふむふむ、邪悪に従うと書いて、邪従種。
えやばくね!?
絶対悪者ポジションじゃん!
勇者的な存在に敵対してそう・・・
《続いて第4類の取得・・・失敗しました。転移前の身体の希望が不明瞭です。故に、この場では生成せず、後に生成します。》
不明瞭?
てか俺転生前悪魔になりたいとか思ってたっけ?
厨二かよ・・・
はずかC!
《次に、転移加護を確定します。転移前の身体は素麺に強い思い入れがあると見られますので、能力は「素麺操作」を提案します。》
いや、笑うでしょ・・・
素麺操作?
ふざけてるな、このガイド。
質問できるかな、これ。
《質問を受け付けます。ただし、内容はこれまでにここで起きた出来事についてのみとさせていただきます。》
すげえな、思っただけでできた。
案外伝わるもんだな・・・
じゃあ質問、その「素麺操作」ってどんな加護?なんですか?
《質問を受け付けます。加護、「素麺操作」は素麺を自身の魔力を使い供給し、その素麺に様々な能力を付与することができるようになる加護です。また、上位加護は現在発見されておらず、「素麺操作」自体初の加護なので、第5類加護として扱われます。》
長いな・・・
てかそれ却下!もっと別のにして欲しい!
《了承しました。加護「素麺操作」の定着を中止、依代の本能から消し去りました。代わりの加護の提案を要求します。》
そうだな・・・
ていうか加護ってなんで・・・
いや、敬語はいいか。
加護ってなに?
《加護はその個体がもともと持っている能力で、第1類から第5類までで分類されます。また、有利な効果をもたらすスキルも加護といいます。また、呪いとは違い、消失しません。》
ふむふむなるほど・・・
俺はその素晴らしいものを「素麺操作」なんてものにさせられかけたのか・・・
《主の要望に応じた次第です。》
確かに素麺に強い思い入れはあった。
ただ、なんか違うし、シャキッとしない。
そうだな・・・
ガイドさん、自分を絶えず成長させ強くする加護は無いか?
《それは第4類加護、「超発芽」が挙げられます。》
ほうほう、チョウハツガ・・・
《相手を養分と捉え魔力を吸収し、それによって力を得ます。》
おお! 強い! それ採用!
《了承しました。依代に「超発芽」を定着させました。》
その声が鳴った瞬間、やけに高い音が響く。
大きな7色の光も連れて。
《ソウメンシオン情報を全て依代に定着させました。これにより、依代は転移第2段階へと移行します。その際、魂を共に依代に憑依させますので、元の身体であるソウメンシオンの身体はこの空間の固有加護、「完全崩壊」によりこの空間でなくなり、世界の中枢へ還元します。その際、痛みは発生しません。》
いやサラッと怖いこと言うねこの子・・・
まあいいか、ここにいても仕方ないしな。
《では、第2段階へと移行します。また、元の身体はまだ生命がある段階で第2段階へ移行しますので、非常に不安定になります。ご了承ください。》
いやまじか!
でも俺のやることなんてないし・・・
そして、俺は再び意識を失った。
身体が無くなる。
その感覚がこの身体で覚えた最後の感覚だった。