夜の風
夢を見ていたのか、夢を見ていないのか分からない、真っ白な世界から突如として目を覚まし、真っ黒な世界へとやって来た。
枕元の携帯電話から、まるで母親が眠りにつく我が子に歌ってあげているような優しいBGMが流れていた。
その携帯電話を手に取り時間を確認する。
眩い光が私の目に突き刺さる。
時刻は午前2時を廻っていた。
私はベットから起き上がり、確かな意志を持ち暗がりの中ベランダへと向かって歩いた。
街の明かりが幾千もの星のように光り輝いている。
私は1度部屋へ戻り、口の開いた烏龍茶とタバコと共に再びベランダへと向かった。
子供の頃、非日常である夜中に私は興奮した。
家中に響き渡る母親の声で起きる朝や、一向に進む気のない時計と先生の話を聞いている昼間、1日の疲れを忘れさせてくれる風呂上がりの夜とは全く違う
外気の匂い、温度、そして静けさに
いつしかそれは、非日常から遠くかけ離れた存在となった。
もう2度とあの頃のような胸のざわめきを取り戻すことはできないのだろう。
ああ、だから私は夜中など嫌いなのだ。
タバコの煙が夏の夜風と交わる頃、私はベットに入り、もう1度真っ白な世界へと戻って行く。