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第8話『核』

 敵を放置……じゃなくて見逃してきた私達は、目的地に向かって黙々と足を動かしていた。

かれこれ三十分は、夜の森をさまよっているだろうか。


 なんか……さっきから、ずっと会話が……。

いつもなら、くだらない会話が飛び交うのに今はとても静かだ。

無言を気まずいと思ったことはないけど、お喋り好きな徳正さんが黙るのは凄く違和感があった。

やっぱり、『サムヒーロー』のことを気にしているんだろうか?

誰かに狙われている奴と行動を共にするのは、危険だもんね……嫌がられても、しょうがない。


 ズキリと痛む胸を押さえ、私はそっと眉尻を下げる。

正直、『厄介者』と思われているのは悲しいが……事実なので、どうしようもなかった。

『今の私に出来ることは……』と考え、おもむろに顔を上げる。


「あの、徳正さん!私、リーダーに相談してパーティーを抜けるので『サムヒーロー』の件は気にしないでください。面倒事に巻き込んでしまい、申し訳ありま……」


「えっ!?ちょ、ダメダメ!!ラーちゃんが『虐殺の紅月』を抜けるとか、無理!俺っち、泣くよ!?ていうか、『サムヒーロー』なんてクソ雑魚パーティーのこと全然気にしてないから!!俺っち的には、『サムヒーロー』と全面戦争でも全然OKだし!」


 盛大な勘違いと早とちりを引き起こす私に、徳正さんは両手をブンブン振って必死に否定した。

目が若干血走っているように見えるのは、気の所為だろうか……?


「てか、ラーちゃんが抜けるなんて言ったら主君がブチ切れるから!主君って、気に入った人は手元に置いておきたい人だからさ〜、なんていうか……仲間に対する束縛が激しいんだよ〜。パーティーの掛け持ちやギルドに所属するのも許さないし〜。パーティーから抜けるなんて言った日には……脱退理由を徹底的に潰すか、外堀埋めにかかるだろうね〜」


「……リーダーって、クールに見えてメンバー愛が結構重いんですね……」


「まあね〜。それより、抜けるなんてやめてよ〜?俺っち個人としても、ラーちゃんには『虐殺の紅月』に居てほしいしさ〜。あと……主君がブチ切れて『サムヒーロー潰すぞ!!』って言いかねないから……」


 どこか遠い目をする徳正さんの表情からは、嘘っぽさなど微塵も感じられない。

恐らく、本気で言っているのだろう。


 まあ、何はともあれ徳正さんが『サムヒーロー』の件で頭を悩ませている訳じゃなくて良かった。


「じゃあ、あの……何でずっと黙ってたんですか?いつもはその……何もなくても、喋ってるのに……」


 若干しどろもどろになりながらも質問を投げ掛けると、徳正さんは自身の顎をそっと撫でる。


「あー……ん〜……それはねぇ〜……悩んでいたっていうか、言っていいのか迷っていたっていうか〜……要約すると考え事だね〜。ま、それは良いや〜。ラーちゃん、隣おいで?」


 歩きながらこちらを振り返り、徳正さんは『おいでおいで』と手招いた。


 彼がこうして、私を隣に呼ぶときは大抵────何か大切な話があるときだ。

そうじゃなきゃ、護衛対象である私を前になんか出さない。


 危険だなんだと言って後ろに居るよう矯正してきた徳正さんを思い出し、私は苦笑する。

そして誘われるまま彼の隣に並ぶと、布でほとんど隠れた横顔を見上げた。


「ラーちゃんはまだ『サムヒーロー』の件を引き摺っているみたいだから、今まで話さなかったんだけど……カインくんがラーちゃんを取り返そうとしたのは、これが初めてじゃないんだよね〜」


「えっ……?それって、どういう……?」


「ん〜?まあ、簡単に言うとね〜……『サムヒーロー』はラーちゃんが抜けてから、四天王にすら勝てずに神殿送りになってるんだよ〜」


 いつもの緩〜い口調で、驚愕の事実をサラッと述べた徳正さんは苦笑を漏らす。

その横顔には、呆れが滲んでいた。


 『虐殺の紅月』ほどではないにしろ、高レベルプレイヤーの揃った『サムヒーロー』が四天王にすら手間取るなんて……!信じられない!


「まあ、簡単に言うと……あのパーティーはラーちゃんが居ないと、成り立たないパーティーだったんだよ〜」


「えっと……?具体的な説明を求めても良いですか?」


「具体的な説明か〜。ん〜……そうだなぁ……ラーちゃんってさ、かなり治癒魔法の扱いに慣れているでしょ〜?強化系の魔法もちょっと使えるし〜。それにラーちゃんは視野が広い」


 身振り手振りで説明し、徳正さんはセレディバイトの瞳をスッと細める。


「いつも冷静に戦況を見通し、メンバー1人1人のサポートとフォローに着手している。前者はさておき後者は当たり前のことなんだけど、ラーちゃんは常人よりもそれがよく出来ているんだ。まあ、言うならば……ラーちゃんは『サムヒーロー』というパーティーの核だったんだよ〜。核を失った組織は、当然機能しない。いつもサポートやフォローをくれる場面で、何もない訳だからね〜」


「い、いや、そんな……私の代わりなんて、いくらでも居ると思いますが……」


 『過大評価しすぎでは?』と狼狽える私に、徳正さんはいきなり吹き出す。


「ハハッ!ラーちゃんの代わり、ねぇ……フフッ!残念ながら────ラーちゃんの代わりは居なかったんだよ〜!一人も、ね……?」


「えっ……?そんな筈……」


「ラーちゃんは自分のことを過小評価し過ぎなんだよ〜。俺の目から見ても、最上位の回復師(ヒーラー)なのにさ〜。大体────代わりが利くなら、カインくんがラーちゃんを求める筈ないでしょ〜?」


 『それが何よりの証拠』と言い、徳正さんは私の前へ出た。

『これでお話はおしまい』とでも言うように。

闇夜に溶けてしまいそうな黒い背中を前に、私は暫し悶々とする。


 徳正さんの言い分は、恐らく正しいと思う。

納得出来ない部分もあるけど、カインの性格を考えると信じざるを得ない……でも────カイン達に必要とされて、別に嬉しいとは思わなかった。

だって、私はもう昔の私じゃないもの。

今の私は『虐殺の紅月』の回復師(ヒーラー) ラミエルこと“叛逆の堕天使”。

だから、『サムヒーロー』に……カインの元に戻るつもりは、なかった。

リーダーの手を取った時点で、私はもう『虐殺の紅月』から逃れられないのだから。


 ギュッと胸元を強く握り締め、私は改めて覚悟を固めた。


「フッ……いい顔するようになったね」


「えっ?何か言いましたか?」


「ううん、何も〜。それより、時間も押してきたし────これ、使っちゃおっか〜」


 話を上手くはぐらかした徳正さんは、アイテムボックスから木材で作られたホイッスルを取り出した。

通常のものより遥かに大きいソレは、ずっしりとした重圧感を放ちながら徳正さんの手の内に収まっている。


 何だろう?この笛……変な鳥みたいな模様が……って、これ────


「────去年開催されたイベントの限定アイテムじゃないですか!」

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