第81話『成長と無自覚』
デーリアさん達と別れ、先行メンバーと合流した私達は先頭へ躍り出る。
すると、他のメンバーは直ぐに顔を上げた。
「ラミエル、おかえりー!ついでに徳正もー!」
「『ついで』は余計だよ〜?シムナ〜」
「あははっ!そうかなー?」
「……シムナ、絶対に分かっててやっているでしょ〜?」
「ははっ!それはどうか……」
「────全身黒ずくめの君はトクマサで、この幼子の方がシムナか。なかなか、チャーミングな名前だね。気に入ったよ」
そう言って、会話に乱入してきたのはリアムさんだった。
俵担ぎのごとくシムナさんの肩に担がれた彼は、向かい風を顔面で受け止めながらニコニコと笑っている。
そんな彼に対し、徳正さんとシムナさんはポカーンと口を開けていた。
パチパチと瞬きを繰り返す彼らを前に、レオンさんは頭を抱えている。
ラルカさんにお姫様抱っこされた状態で。
レオンさん、そこまで落ち込まなくても……今のところ、ウチのメンバーは誰も怒ってないから。
まあ、シムナさんの言葉を遮った時はさすがにヒヤッとしたけど。
幸い、怒りより困惑が勝っているみたい。
戸惑いを隠し切れない様子のシムナさんを一瞥し、私はリアムさんへ視線を向けた。
「そういえば、まだちゃんと自己紹介してませんでしたね。改めまして、私は回復師のラミエルです。こう見えて、職業別ランキング一位のプレイヤーなので負傷した際は遠慮なく申し出てください。よろしくお願いします」
印象に残りやすいようそれっぽい肩書きを述べると、リアムさんは目を見開く。
「職業別ランキング一位の回復師って、確か元『サムヒーロー』のメンバーだったよね?二つ名は確か……“神癒の天使”だったかな?パーティーを追い出されてからは二つ名が“叛逆の堕天使”に変わっ……」
「ははっ!ねぇ────それ以上言ったら、殺すよ?」
悪気0で私の過去を口にしたリアムさんに対し、シムナさんは過剰反応を示す。
パパラチアサファイアの瞳に、殺気を滲ませながら。
これはちょっとやばいかも……かなりキレている。
さすがにいきなり飛び掛るような真似はしないけど、余計なことを言えば確実にプッツンするだろう。
参ったな……『紅蓮の夜叉』の幹部候補を殺されるのは、非常に困る。
何より、これ以上のタイムロスは避けたかった。
私のために怒ってくれるのは凄く嬉しいし、有り難いけど……過去のことはもうあまり気にしていないから、怒りを収めてほしい。
シムナさんのピリピリとした空気を肌で感じ取りながら、私はどうやって説得しようか悩む。
『このままだと、リアムさんを振り落としかねないな』と思案する中、やらかした張本人はコテリと首を傾げていた。
どうやら、全く状況を理解していないらしい。
「何をそんなに怒っているんだい?僕はただ事実を述べただけだろう?怒る要素なんて、何一つないと思うんだが……」
自殺願望でもあるのか?と疑うくらい、リアムさんはシムナさんの神経を逆撫でた。
『KYもここまで来ると、一種の才能だな』と額を押さえる私の前で、彼は心底不思議そうな表情を浮かべる。
────と、ここでシムナさんがある行動に出た。
「ラルカ、これあげるー!多分このまま持ってたら、殺しちゃうからー」
そう言うが早いか、シムナさんは最後尾を走るラルカさんにリアムさんを投げ付けた。
それもかなり勢いよく……。
「えっ?ちょっ……ぶへぇっ!」
「レオンさん、ナイスキャッチだよ」
レオンさんの顔面にクリーンヒットしたリアムさんに、私は思わず頬を引き攣らせた。
『うわぁ……あれは痛そう』と。
だって、私達は音速に近いスピードで移動しているから。
通常より衝撃は大きいだろう。
『お気の毒さまです……』と手を合わせる中、ラルカさんはレオンさんとリアムさんを小脇に抱えた。
さすがにあの体勢では、危ないと判断したんだと思う。
「それにしても、シムナよく我慢出来たね〜?絶対あいつのことぶん殴ると思ったのに〜。偉いじゃん〜」
「徳正、うるさーい!今、話し掛けないでくれるー?めっちゃイライラしているからー。ラミエル以外は会話禁止ー」
「はいはい〜。ま、あそこで我慢したのは偉かったよ。それだけは言っとく〜」
「……あっそー」
兄貴気分で褒め称える徳正さんに対し、シムナさんは照れ臭そうに視線を逸らした。
口ではあれこれ文句を言っているものの、満更でもない様子。
その証拠に、親指の爪を噛むのをやめていた。
そうだね。まずはシムナさんの成長を褒めないと。
『人を投げるな』云々に関しては、後でいい。
「シムナさん、あそこでよく我慢出来ましたね。怒りに打ち勝ち、理性で自分の行動を制御出来たこと……本当に凄いと思います。誰にでも出来ることじゃありません。咄嗟の判断で、リアムさんをラルカさんに渡したのも良かったです」
「っ〜……!!」
徳正さんと同様手放しで褒めちぎると、シムナさんはカァッと頬を赤くした。
その可愛らしい反応に、私は思わず笑みを零す。
こうして見ると、シムナさんも普通の男の子なんだなぁって思う。
いつも、やること成すこと予想外……というか、規格外だから忘れそうになるけど。
などと思いつつ、私はシムナさんの後ろに目を向けた。
白髪アシメの美男子をしっかり視界に捉え、少し眉を顰める。
リアムさんをチームに加えたのは、痛恨のミスだったかもしれない。
この人は無自覚に問題を引き起こす、正真正銘のトラブルメーカーだから。
今回はまだ私のことだったから良かったものの、他のメンバーの触れられたくない部分に触れていたら、かなり危なかった。
このまま野放しにするのは、危険だろう。後々対策を考えないといけない。
また一つ増えてしまった課題に頭を悩ませながら、私は大きく息を吐いた。




