表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/315

第81話『成長と無自覚』

 デーリアさん達と別れ、先行メンバーと合流した私達は先頭へ躍り出る。

すると、他のメンバーは直ぐに顔を上げた。


「ラミエル、おかえりー!ついでに徳正もー!」


「『ついで』は余計だよ〜?シムナ〜」


「あははっ!そうかなー?」


「……シムナ、絶対に分かっててやっているでしょ〜?」


「ははっ!それはどうか……」


「────全身黒ずくめの君はトクマサで、この幼子(おさなご)の方がシムナか。なかなか、チャーミングな名前だね。気に入ったよ」


 そう言って、会話に乱入してきたのはリアムさんだった。

俵担ぎのごとくシムナさんの肩に担がれた彼は、向かい風を顔面で受け止めながらニコニコと笑っている。

そんな彼に対し、徳正さんとシムナさんはポカーンと口を開けていた。

パチパチと瞬きを繰り返す彼らを前に、レオンさんは頭を抱えている。

ラルカさんにお姫様抱っこされた状態で。


 レオンさん、そこまで落ち込まなくても……今のところ、ウチのメンバーは誰も怒ってないから。

まあ、シムナさんの言葉を遮った時はさすがにヒヤッとしたけど。

幸い、怒りより困惑が(まさ)っているみたい。


 戸惑いを隠し切れない様子のシムナさんを一瞥し、私はリアムさんへ視線を向けた。


「そういえば、まだちゃんと自己紹介してませんでしたね。改めまして、私は回復師(ヒーラー)のラミエルです。こう見えて、職業別ランキング一位のプレイヤーなので負傷した際は遠慮なく申し出てください。よろしくお願いします」


 印象に残りやすいようそれっぽい肩書きを述べると、リアムさんは目を見開く。


「職業別ランキング一位の回復師(ヒーラー)って、確か元『サムヒーロー』のメンバーだったよね?二つ名は確か……“神癒の天使”だったかな?パーティーを追い出されてからは二つ名が“叛逆の堕天使”に変わっ……」


「ははっ!ねぇ────それ以上言ったら、殺すよ?」


 悪気0で私の過去を口にしたリアムさんに対し、シムナさんは過剰反応を示す。

パパラチアサファイアの瞳に、殺気を滲ませながら。


 これはちょっとやばいかも……かなりキレている。

さすがにいきなり飛び掛るような真似はしないけど、余計なことを言えば確実にプッツンするだろう。

参ったな……『紅蓮の夜叉』の幹部候補を殺されるのは、非常に困る。

何より、これ以上のタイムロスは避けたかった。

私のために怒ってくれるのは凄く嬉しいし、有り難いけど……過去のことはもうあまり気にしていないから、怒りを収めてほしい。


 シムナさんのピリピリとした空気を肌で感じ取りながら、私はどうやって説得しようか悩む。

『このままだと、リアムさんを振り落としかねないな』と思案する中、やらかした張本人はコテリと首を傾げていた。

どうやら、全く状況を理解していないらしい。


「何をそんなに怒っているんだい?僕はただ事実を述べただけだろう?怒る要素なんて、何一つないと思うんだが……」


 自殺願望でもあるのか?と疑うくらい、リアムさんはシムナさんの神経を逆撫でた。

『KYもここまで来ると、一種の才能だな』と額を押さえる私の前で、彼は心底不思議そうな表情を浮かべる。

────と、ここでシムナさんがある行動に出た。


「ラルカ、これあげるー!多分このまま持ってたら、殺しちゃうからー」


 そう言うが早いか、シムナさんは最後尾を走るラルカさんにリアムさんを投げ付けた。

それもかなり勢いよく……。


「えっ?ちょっ……ぶへぇっ!」


「レオンさん、ナイスキャッチだよ」


 レオンさんの顔面にクリーンヒットしたリアムさんに、私は思わず頬を引き攣らせた。

『うわぁ……あれは痛そう』と。

だって、私達は音速に近いスピードで移動しているから。

通常より衝撃は大きいだろう。

『お気の毒さまです……』と手を合わせる中、ラルカさんはレオンさんとリアムさんを小脇に抱えた。

さすがにあの体勢では、危ないと判断したんだと思う。


「それにしても、シムナよく我慢出来たね〜?絶対あいつのことぶん殴ると思ったのに〜。偉いじゃん〜」


「徳正、うるさーい!今、話し掛けないでくれるー?めっちゃイライラしているからー。ラミエル以外は会話禁止ー」


「はいはい〜。ま、あそこで我慢したのは偉かったよ。それだけは言っとく〜」


「……あっそー」


 兄貴気分で褒め称える徳正さんに対し、シムナさんは照れ臭そうに視線を逸らした。

口ではあれこれ文句を言っているものの、満更でもない様子。

その証拠に、親指の爪を噛むのをやめていた。


 そうだね。まずはシムナさんの成長を褒めないと。

『人を投げるな』云々に関しては、後でいい。


「シムナさん、あそこでよく我慢出来ましたね。怒りに打ち勝ち、理性で自分の行動を制御出来たこと……本当に凄いと思います。誰にでも出来ることじゃありません。咄嗟の判断で、リアムさんをラルカさんに渡したのも良かったです」


「っ〜……!!」


 徳正さんと同様手放しで褒めちぎると、シムナさんはカァッと頬を赤くした。

その可愛らしい反応に、私は思わず笑みを零す。


 こうして見ると、シムナさんも普通の男の子なんだなぁって思う。

いつも、やること成すこと予想外……というか、規格外だから忘れそうになるけど。



 などと思いつつ、私はシムナさんの後ろに目を向けた。

白髪アシメの美男子をしっかり視界に捉え、少し眉を顰める。


 リアムさんをチームに加えたのは、痛恨のミスだったかもしれない。

この人は無自覚に問題を引き起こす、正真正銘のトラブルメーカーだから。

今回はまだ私のことだったから良かったものの、他のメンバーの触れられたくない部分に触れていたら、かなり危なかった。

このまま野放しにするのは、危険だろう。後々対策を考えないといけない。


 また一つ増えてしまった課題に頭を悩ませながら、私は大きく息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ