第7話『敵の目的』
「俺らはただ、FRO内にある掲示板で割のいい仕事を見つけて……それで、その仕事をこなそうとしただけだ。あんたらに特に因縁はない」
FRO内の“掲示板”で見つけた仕事ですって……?
FRO内にある掲示板は、プレイヤーであれば誰でも自由に書き込めるところだ。
匿名でコメント出来るのはもちろん、わざとプレイヤーネームを晒すことだった出来る。
そこでは日々色々なスレが立てられており、ツキッター代わりに何気ないことを呟いたり、プレイヤーからの依頼を貼られたりする。
ただ掲示板に貼ってある依頼の大半は、冗談半分で書き込んだものばかり。
そのため、依頼を受けるプレイヤーは極端に少なかった。
「ふ〜ん?掲示板で依頼ねぇ……?怪しいとか思わなかったわけ〜?本当に料金支払ってくれるかどうかなんて、分かんないのに〜」
御尤もな指摘をする徳正さんに、びしょ濡れの敵は勢いよく反論した。
それはもう……食い気味な感じで。
「俺らだって、“あの人”が依頼主じゃなきゃ子供の悪戯か何かかと思ってたよ!!」
「あの人、ねぇ〜……その依頼主の名前と依頼内容は〜?」
クスリと相手を小馬鹿にしたような笑みを零す徳正さんに、敵は少し顔を顰めた。
不愉快そうに顔を顰めるものの、何か文句を言うつもりはないらしい。
自分達の方が劣勢である以上、犬のようにキャンキャン吠えたところで無意味。いや、むしろ危険だ。
敵もそれを理解しているからこそ、無駄な争いは避けたいのだろう。
「……依頼主は────『サムヒーロー』のカイン。依頼内容は“神癒の天使”から“叛逆の堕天使”に成り下がった回復師ラミエルの奪還及び保護だ」
カ、インが……依頼主……?私を奪還?保護?何それ……意味分かんな、い……。
怖さからなのか、また求めて貰えて嬉しかったからなのか……スッと体から力が抜けて落ちていく。
そんな私を、徳正さんが咄嗟に支えた。
「ラーちゃん!!」
至近距離で徳正さんが私の名を呼んでいるのに……何故だか、とても遠く感じる。
だんだん意識がぼんやりとしてきた。
そういえば、神癒の天使とか叛逆の堕天使とか……そうやって呼ばれるのは、久しぶりかもしれない。
最近、ずっと私を呼んでくれたのは徳正さんだけで……彼は決して私を“二つ名”では呼ばなかったから……。
そう、『神癒の天使』と『叛逆の堕天使』は私の二つ名だ。
『神癒の天使』が『サムヒーロー』時代のもので、『叛逆の堕天使』が『虐殺の紅月』に入ってからのもの。
ネット上では『神癒の天使、ついに堕天使に成り下がるwww』とか『PK集団に仲間入りってwwwサムヒーローに復讐でもすんのかな?www』とか色々言われてたけど、私はそんなつもりなかった。
ただリーダーが『俺のところに来い』と力強く誘ってくれたから、『虐殺の紅月』に加入しただけ……。
「何でっ……今更……!!」
「……理由は聞いてないけど、多分このデスゲームを乗り切るためじゃねぇーか?ほら、ゲーム内での死がリアルでの死に繋がるだろ?だから、回復師は需要が高いんだ。高レベルとなれば、尚更」
確かに彼の言う通り、レベルの高い回復師は需要が高い。
というのも、回復師は戦闘に参加しないため、貰える経験値が極端に少ないのだ。
だから、他の職業に比べてレベル上げが大変だし、時間も掛かる。
私はFROの初期プレイヤーだったから、ゲーム発売当初の限定クエストやクエストボーナスにより、ここまで登り詰められたが。
とりあえず、理屈は分かった……でも!こんな方法を取らなくても、連絡をくれれば……!
そう、連絡を……あっ!
「────私、フレンド以外からのメッセージ受け取り不可にしてる……!!」
ついでにフレンド申請も不可扱いにしていた。
確か……『サムヒーロー』を抜けて、『虐殺の紅月』に加入して以降知らないプレイヤーから嫌がらせメールとフレンド申請をたくさん受けて……それで全部不可にしていたんだった!!
『すっかり忘れていた』と目を剥き、私はなんだか墓穴を掘ったような気分になる。
『サムヒーロー』のメンバーからはブロックされてたし、もう関わることはないと思ってたからそこまで気が回らなかった……強硬手段に出た理由はソレか。
まあ、やむを得ない事情でもじゃなきゃ、プライドの高いカインが表立って私を取り返そうとはしないもんね。
でも、命が掛かってるとなれば話は別。
「はぁ……カイン自ら、私を捨てたくせに……本当、勝手過ぎる……」
事前通達もなしに、いきなり私をパーティーから追放したくせに……都合が悪くなったら、すぐこれだ。
昔からカインの横暴さは目に余るところがあったが、勇者だから見逃されてきた。
でも────今回は少しやり過ぎだ。
「本当カインくんって、身勝手だよね〜。ラーちゃんは都合の良い女じゃないのに〜。それに────ラーちゃんはもう『虐殺の紅月』の仲間だから。今更『サムヒーロー』に渡すつもりなんてさらさらないよ〜。ねっ?ラーちゃん」
私の体を優しく支える徳正さんは、セレディバイトの瞳をうんと優しく細める。
『一人じゃないよ』と言葉や態度で示す彼に、私は頬を緩めた。
「当然です。あんなクソパーティーなんかに、戻るつもりはありません」
「ハハッ!言うねぇ〜!辛辣なラーちゃんも可愛いよ〜」
「茶化さないでください!」
「え〜?本気なのにな〜」
どこまでも楽しそうに笑う徳正さんは、拍子抜けするほどいつも通りで……なんだか、安心してしまう。
『本当、いつも助けられてばかりだな』と思いつつ、私は自分の足だけできちんと地面に立った。
もうすっかり元気になった私を前に、徳正さんは満足そうな表情を浮かべる。
「────さてさて時間もないし、もう行こうか〜」
そう言ってクルリと身を翻し、徳正さんは私を闇夜へと誘った。