第78話『状況把握と意外な真実』
「レオンさん、この短時間の間に一体何があったのかお話し頂けませんか?」
お願いする形でありながらもどこか強制力を持った声色で頼むと、レオンさんは神妙な面持ちで頷いた。
が、急に口篭る。
「えっと……どこから、話せば良いんだ?ラミエルはどこまで知っている?」
こういった説明は苦手なのか、レオンさんはポリポリと頬を掻いた。
『どうやって、話そう?』と悩んでいる彼を前に、私は口を開く。
「では、これから私が質問することに出来るだけ正確に答えてください」
「わ、分かった」
『出来るだけ正確に』という言葉にピクッと反応示したレオンさんは、緊張した様子で首を縦に振った。
何もそこまで気負う必要はないのだが……人には得手不得手があるため、何も言わなかった。
一生懸命答えようとしてくれている彼の気力を削ぐのは、申し訳なくて。
「では、まず先程起きた爆発の原因を教えてください」
「あー……それは結論から言うと、リアムのせいだな。あいつが意図的に爆発を引き起こしたんだ。もちろん、俺達を攻撃するためじゃなくてゴーレムを討伐するためにな」
「……ファイアゴーレムに火薬で対抗しようとしたんですね」
「ああ。あいつが言うには『常に燃えているゴーレムなら起爆装置をわざわざ取り付けなくて済むから、楽だろう?火薬を用意した場所に上手く誘導すれば、いい話なんだからさ』とのこと。その爆発がゴーレムに効くかどうかは、特に考えてなかったみたいだ」
「……アホですね」
「いや、あいつはアホどころの話じゃないぞ?だって、周囲の安全確認を一切しなかったんだからな。おかげで、俺とラルカまで巻き添えを食らっちまった。耐熱性に優れた着ぐるみを着たラルカが、咄嗟に庇ってくれなかったら今頃死んでいたかもしれない」
どこか遠い目をして、部下に殺されかけた事実を語るレオンさん。
そのレモンイエローの瞳には光がなく、本気で命の危険を感じていたようだ。
なるほど……それで、あんなに怒り狂っていたのか。
悪気なしとはいえ、やったことは殺人未遂と同じだもんね。
血祭りに上げられても、文句は言えないだろう。
『ウチの三馬鹿でも、こんなことしないぞ』と呆れつつ、私は少し離れた場所に居るリアムさんを見つめる。
困ったように笑ってラルカさん達の文句を受け止めている彼に、私は自業自得という言葉を送った。
さすがにこれは庇いきれないと思って。
「では、次の質問に移りますね。これは単純な疑問なんですが……あのクマのぬいぐるみは何ですか?どうして、ファイアゴーレムに格闘勝負を挑んでいるんです?しかも、あのクマたち素手でファイアゴーレムと戦っているのに全く燃えていませんし……」
この場をカオスに変えた大きな原因の一つである謎のぬいぐるみ集団を見つめ、私は頭を捻る。
すると、レオンさんもクマのぬいぐるみの方へ視線を向けた。
「あぁ、あれは────ラルカのぬいぐるみだ。なんでも、ラルカの職業は人形使いでぬいぐるみを自在に操ることが出来るらしい。ファイアゴーレムに触れても燃えないのは、耐熱性に優れた素材を使ったぬいぐるみのみ使用しているからだ」
「……へっ?」
ラルカさんの職業が人形使い?大鎌使いじゃなくて?あの人、そんなマイナーの職業だったの?
ていうか、あの数のぬいぐるみを見ないで操るとか優秀過ぎない?
しかも、めちゃくちゃ強いし。
まさかの事実に動揺を隠せない私は、華麗に右ストレートを決めるクマのぬいぐるみを凝視した。
────と、ここでファイアゴーレムは光の粒子と化す。
今までずっとクマのぬいぐるみ集団により暴行を受けていたため、蓄積ダメージが大きかったのだろう。
『本当にぬいぐるみだけで倒しちゃったよ……』と呆気に取られる中、クマ達は身動きを止めた。
『役目は終えた』と言わんばかりに。




