第77話『謎が謎を呼び、混乱が混沌を呼び寄せる』
それから私達は爆発の原因を探るべく、爆破地点と思しき場所を訪れていた。
街の北方面に位置するここは爆発の影響で大地が抉れ、大量の瓦礫が灰となっている。
もはや、街の面影はなかった。
ただ、その分見晴らしはいい。背後でも取られない限り、隠れられる場所はなかった。
なので────今、目の前に居る奴らが爆発を引き起こした犯人だと思うんだが……
「これって、一体どういう状況〜?」
「何でぬいぐるみが、大量発生してるわけー!?」
「どなたから『ぬいぐるみVSファイアゴーレム』になっている理由を説明してください……」
身長約二メートルのクマのぬいぐるみがファイアゴーレムに立ち向かう姿を見て、私は頭を抱える。
『しかも、十体〜二十体ほど居るし!』と困惑し、目を白黒させた。
だって、その可愛らしい見た目からは想像も出来ないほど凶暴だから。
ゴーレムに殴る・蹴るの暴行を行っているのが、いい証拠だ。
なにこれ……?てか、何でぬいぐるみは燃えてないの?ファイアゴーレムは体を炎で覆われた魔物なのに……。
『あと、結局爆発の原因は何?』と混乱する中、クマのぬいぐるみ達は生きた人間のようにスイスイと動く。
そして、ファイアゴーレムに見事なアッパーを決めた。
かと思えば、すかさず膝カックンをお見舞いする。
いや、何故に膝カックン……もっと強烈な技があったでしょ。
ある意味強烈な戦闘現場を目の当たりにし、私は一つ息を吐いた。
「とりあえず、あのクマのぬいぐるみとファイアゴーレムは放っておくとして〜……ラルカ達の捜索に……」
「ねぇーねぇー!あっちから、何か近づいて来てなーい?」
そう言って、シムナさんはある方向を指さした。
促されるままそちらへ視線を向けると────何故か、顔見知りの二人に追われている白髪の美男子を目にする。
え?え?どういう状況?何でラルカさん達はファイアゴーレムには目もくれず、その男性を追っているの!?いや、その前にその人は誰!?
さっきの爆発と言い、ファイアゴーレムと戦闘を繰り広げるクマのぬいぐるみと言い……謎は増えていくばかり。
もはやキャパオーバーに差し掛かる中、白髪の美男子は私の目の前で急ブレーキを掛けた。
おかげでブワッと砂埃が舞い、私の目と喉を容赦なく攻撃する。
堪らずケホケホと咳き込んでいると────白髪の美男子が肩を掴んできた。
「君にお願いがある!あの猛獣共から、僕を守っておくれ!」
「……はい?」
いきなり、肩を掴んで何を言うのかと思えば……ラルカさん達を猛獣呼ばわりなんて。
いや、まあ強ち間違ってはいないけど……。
現状を全く理解出来ない私は混乱しつつも、白髪の美男子を見上げる。
シルクハットを被ったアシメヘアの美男子は狩人のような格好をしており、腰には鞭、背中には弓を携帯していた。
また、黒に近い灰色の瞳は切羽詰まっていて……焦りを露わにしていた。
そして、中性的な顔に不安を滲ませると、黒の革手袋を嵌めた手に力を込める。
あれ?この顔、どこかで見たような……?あっ、もしかして────
「────『紅蓮の夜叉』の幹部候補として名を馳せる、リアムさん……?」
「僕を知っているのかい?」
「はい。ある特定の獲物を捕らえる事に特化した、高レベルプレイヤーだとお聞きしました。『紅蓮の夜叉』の次世代幹部に一番近いのは、確実にリアムさんだと専らの噂です」
職業別ランキング上位常連の次世代エース リアム。彼の職業は格好からも分かる通り、狩人である。
最近FROを始めたにも拘わらず、ランキングに載った新人ランカーで注目度は高い。
ちなみに職業別ランキングの最高順位は二位。
実力だけで言えばもう幹部レベルだが、協調性皆無で自分勝手な行動ばかり取っているため、幹部候補止まりなんだそう。
もう少し周りを見て動けるようになれば、直ぐに幹部へ昇格出来るだろうと言われていた。
そんな凄い人が、何でここに?おまけにラルカさん達に追われてるみたいだし……って、あっ!
リアムさんの背後にズンッと現れたクマの着ぐるみと茶髪の男性を見つめ、私は苦笑いした。
「リ〜ア〜ム〜!」
『大人しく、お縄につけ!そして、ラミエルの肩から手を離せ!』
「い、いつの間に背後に……」
レオンさんの声に反応し、後ろを振り返ったリアムさんはサァーッと青ざめた。
同じギルドのメンバーであり上司でもあるレオンさんと、達筆で怒りを表現するラルカさんに詰め寄られ、弾かれたように私の肩から手を離す。
そして尋常ではない量の冷や汗を流すと、一歩後へ下がる────が、彼の後ろには私が居るため、逃げ場を失った。
その代わりと言ってはなんだが……リアムさんの肘が、ふにゅっと私の控えめな胸に当たる。
「ひゃっ!?」
突然の事で動揺してしまった私は、柄にもなく女の子らしい悲鳴を上げてしまった。
慌てて口元を押さえる私の傍で────三馬鹿はピクッと反応を示す。
「はっ?何勝手にラーちゃんの胸、触ってんの〜?」
「痴漢じゃーん!サイテー!」
『とりあえず、さっきの爆発のことも含め、じっくり話し合おう』
「あ、あれ……?もしかして、これヤバい感じかい?地雷を踏んでしまったパターンかな?」
「ラミエルは彼らの大切な想い人だ。俺も数時間前、ラミエルに危害を加えて殺されかけた。まあ、せいぜい頑張れ、リアム」
「えっ!?見捨てないでくれるかい!?レオンさんは僕の上司だろう!?上司は部下の身を守ることも、仕事のうち……って、うわっ!?」
ウチの三馬鹿に腕や肩をがっしり掴まれたリアムは、抵抗する暇もなくズルズルと引き摺られていった。
そんな部下の後ろ姿を、レオンさんは生暖かい目で見送る。
まあ、ラルカさんと徳正さんが居れば死ぬことはないと思うから、放っておくとして……今は状況把握を優先しなきゃ。
きっと、レオンさんは爆発の原因を知っているだろうから。
ラルカさんの発言にあった『爆発のことも含め』という文章を思い出し、私はレモンイエローの瞳を見つめた。
「レオンさん、この短時間の間に一体何があったのかお話し頂けませんか?」




