表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/315

第74話『治療の前に問題発生!?』

「とりあえず、皆さんの怪我を治療しましょうか。前衛メンバーの捕獲には、まだ少し時間が掛かりそうなので」


 珍しく慎重に動いているシムナさんを一瞥し、私は後衛メンバーに声を掛けた。

彼らも前衛メンバーほどではないにしろ、深手を負っているから。


 前衛メンバーがここに運び込まれたら、そっちの治療を優先しなければならない。

だから、今のうちに後衛メンバーの治療をしておきたかった。


「あの……お気持ちは嬉しいんですが、私達の治療は結構です。前衛メンバーの治療をして頂けるだけで、充分ですから……」


「この程度の傷、日常茶飯事ですし、放っておけば直ぐに治ります!ですので、私達の治療は……」


「────強がらなくても、大丈夫ですよ。本当はもうほとんどHPが残っていないのでしょう?確かにどの傷も大したことありませんが、数が数ですから。嫌でも、HPは減ります。あなた方の様子を見る限り、残りHPは最大HPの1/4以下と言ったところでしょうか?」


「っ……!!」


「そ、それは……」


「我慢はいけませんよ。ほら、早く傷を見せてください」


 ぐうの音も出ない様子の彼らに、私は『ほら、傷を見せてください』と促す。

ここで痩せ我慢しても、いいことは一つもないから。

でも、彼らはまだ迷いを捨て切れないのか……視線を右往左往させていた。


「遠慮なんて、必要ないよ〜。なんてったって、ウチの回復師(ヒーラー)は職業別ランキング一位の子だからね〜。君らの怪我を治した程度で、バテる訳ないじゃん〜。負担なんて大して掛かんないよ〜」


 徳正さんは敢えて私の肩書きを明かし、『頼っても全然大丈夫』と太鼓判を押す。

『なるほど、その手があったか』と感心する私に、彼はウィンクしてきた。

────と、ここで思わぬ問題が発生する。


「ねぇ、職業別ランキング一位の回復師(ヒーラー)って確か……」


「勇者パーティー────『サムヒーロー』に所属していた凄い人だよね!?」


「今は『虐殺の紅月』って言うPK集団に加入しているって聞いたけど……まさか、ラミエルさんがあの“叛逆の堕天使”!?」


「ちょっ!声が大きいって!その二つ名は皮肉の込められたものだから、本人の前で言っちゃダメ!」


「あっ、ごめん……」


「でも、ラミエルさんが本当に職業別ランキング一位の回復師(ヒーラー)だとしたら、その隣に居る忍者って────“影の疾走者”……?」


 芋づる式に私達の正体がバレ、後衛メンバーは顔を見合わせる。

戸惑いを隠し切れない彼らを前に、私は頭を抱えた。


 警戒心剥き出しだった彼らを変に刺激しないよう、敢えて所属パーティーのことは黙っていたんだけど……その努力は見事泡となって消えた。

まあ、徳正さんも悪気があった訳じゃないと思うから別にいいんだけど。


 『ごめんね』ポーズを取る徳正さんに一つ頷き、私は小さく息を吐いた。


 さて、どうしようか……きっと、彼らは私達のことを警戒するよね。

最悪の場合、『今すぐここから出て行け』と言われるかもしれない。

肉体的にも精神的にも追い込まれている彼らに、『PKをする気は無い』と伝えても馬に念仏だろうし……。


 『いっそ、ポーションだけ渡して立ち去るか?』と思い悩んでいると、金髪碧眼の美女と目が合った。


「あの、二つお聞きしたいことがあります。よろしいですか?」


「は、はい……」


「ラミエルさんとその男性は、『虐殺の紅月』に所属する“叛逆の堕天使”と“影の疾走者”で間違いありませんか?」


「……はい、間違いありません。私と徳正さんは『虐殺の紅月』に所属するプレイヤーキラーです」


 一瞬嘘で誤魔化してしまおうかと思ったが、彼女の真っ直ぐな瞳を見て罪悪感に駆られてしまい……私は正直に認めた。

でも、彼女の反応を見るのが怖くて……下を向く。


 別に後ろめたいことがある訳じゃない。

私達『虐殺の紅月』はFROがデスゲームと化してから、一度もPKを行っていないし、必要以上に戦闘もしていない。

それどころか、人助けのために動いている始末。

だから、ただ真っ直ぐ前を見て堂々としていれば良いのに……私にはそれが出来なかった。

別に『虐殺の紅月』の一員であることを恥じている訳ではない。

私にとって、『虐殺の紅月』は最高のパーティーで、家族みたいな存在だから。

ただ……あんなにも真っ直ぐで、強い優しさと信念を持った人に拒絶されるのが怖かった。


 ギュッと胸元を握り締め不安を誤魔化していると、徳正さんが何も言わずに腰を抱き寄せる。

布越しに伝わってくる温もりは、よく知っているものだった。


「では、もう一つだけ聞かせてください。ラミエルさんは……いえ、『虐殺の紅月』の皆さんは私達を殺す(・・)ためにここに来たんですか?それとも────助ける(・・・)ために、ここへ来てくれたんですか?」


「!?」


 まさかの質問にハッとする私は、『色眼鏡を通して見ていたのはこっちだ』と気づく。

と同時に、沈んでいた気持ちが一気に軽くなり、不安も溶けた。

ゆっくりと顔を上げ、私は真っ直ぐに空色の瞳を見つめ返す。


「────助けるために来た、に決まってます」


 迷わず断言すると、金髪碧眼の美女はゆるりと口角を上げた。

女神と比喩すべき美しい笑みを振り撒きながら、赤い唇を開く。


「なら、問題ないですね。是非、私達の治療をお願いします。私は弓使い(アーチャー)のデーリアです。ラミエルさん、徳正さん、よろしくお願いします」


 ここでようやく自分の名を名乗った金髪碧眼の美女────改め、デーリアさんはその場で優雅にお辞儀した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ