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第69話『襲撃者と三馬鹿』

 後ろに倒れる敵プレイヤーを咄嗟に支えた徳正さんは、日本刀を素早く鞘に納めた。


「とりあえず気絶したみたいだけど、これどうする〜?置いていく〜?」


「置いていく一択でしょー。連れて行っても、意味ないしー。その辺に放置しておけば、良くなーい?」


『僕もシムナと同意見だ』


 確かにそれが一番かも。下手に連れ回すより、ゴーレムの居ない場所へ置いていった方が安全だし。

とりあえず、怪我だけ治してここを去ろう。


 私は徳正さんの手によって、地面に寝かせられた敵プレイヤーへ手をかざす。


「《パーフェクトヒール》」


 最上級の治癒魔法を施すと、フワッと柔らかい光が彼の体を包み込んだ。

陽だまりみたいに暖かいソレは、彼の傷を癒していく。

間もなくして発汗や吐血は収まり、呼吸も安定してきた。

とりあえず、これで死ぬ心配はないだろう。

敵の容態を確認し、私はラルカさんの腕をやんわり振りほどいた。


 早く、次の街に行かないと……!街巡りが終わったら、目撃者の少ない郊外にも足を運ばないといけないし!


「皆さん、疲れているところ申し訳ありませんが、次の街に移動しま……」


「────アヤっ!?」


 『移動しましょう』と続ける筈だった言葉は、やけに耳に残るバリトンボイスに遮られた。


 あ、あや?それって、誰!?まさか、私のことじゃないよね!、


 混乱しつつも声の主を探すと────敵プレイヤーが目に入る。


「アヤ!アヤだよな!?俺っ!俺だよ!レオン!一ヶ月前まで、付き合っていただろ!?」


「は、はい!?付き合っていた!?私と貴方が、ですか!?」


「そうだ!もう忘れたのか!?」


 私と視線が交わるなり、ガバッと勢いよく起き上がった敵プレイヤー────改め、レオンさんは距離を詰めてきた。

そのレモンイエローの瞳からは、焦りがヒシヒシと伝わってくる。


 ちょ、ちょっと待って!?私、貴方と初対面なんだけど!?

ていうか、今から一ヶ月前って……『虐殺の紅月』に加入したばかりの頃じゃない!

確実に人違いだって!


 『色恋にうつつを抜かせるほど暇じゃない!』と考える中、徳正さん達はショックを受けたような表情を浮かべた。


「えっ!?ラーちゃん、俺っちというものがありながら浮気!?しかも、こんな弱い男と!?」


「ラミエル!悪いことは言わないから、僕にしておきなよ!僕の方が強いし、優しいし、格好いいよ!?」


『二人とも、落ち着け。この男の口振りだと、恐らく今は付き合っていない。元恋人同士ってところだろう。今、僕らのすべきことは復縁を邪魔することだけだ』


「らみえる……?アヤ、名前を変えたのか?」


「……」


 徳正さん達のせいで誤解を解くタイミングを見失った私は、嘆息する。

『なんだ?この茶番は……』と思いながら。


「ラーちゃん、こいつにズバッと言ってやって〜!ラーちゃんの彼氏は、俺っちだって〜!」


「徳正、馬鹿じゃないのー?ラミエルの今の彼氏(今彼)は、僕なんだけどー?」


『二人とも、落ち着け。現実を見ろ。ラミエルの彼氏は僕だ。ラミエルとは、もうハグもした仲だからな』


「アヤ……お前、俺と別れてから男癖悪くなったか?つーか、男の趣味変わったな……?」


「ねぇ〜、ずっと気になってたんだけど、その『あや』ってラーちゃんの本名〜?」


「あっ!それ、僕もずっと気になってたー!」


『待て、二人とも。そこは突っ込まないお約束だぞ。ネット仲間に本名を尋ねるのは、タブーだ。ここは適当に流すべきだろう』


「アヤは本名じゃねぇーよ?前、俺と付き合っていた時のネット名だ。今はラミエルに改名したらしいけどな」


 ギャーギャーと言い合いを繰り広げるいつもの三人とレオンさんに、私は頭を抱える。

『いい加減にしてくれ……』と辟易しつつ、事態の収拾のため口を開いた。


「私はレオンさんの言う『あや』さんじゃ、ありません。アカウント登録時からずっと、ラミエルです。恐らく、レオンさんは人違いをなさっているかと」


「「『「えっ……?」』」」


 別人だと断言した私に、レオンさんを含める四人が動揺を示した。


 はっ……?徳正さん達も、私を『あや』だと思い込んでいたの?

別人だと分かった上で、茶番を繰り広げていた訳ではなく?

もしかして皆さん、私の思っている以上に馬鹿だったりする?


 『人違いだと気づくタイミングは沢山あっただろうに』と呆れ返り、お馬鹿な三人組(三馬鹿)を一瞥した。


「私は『虐殺の紅月』に所属する、回復師(ヒーラー)のラミエルです。とりあえず、手短に説明しますね?こちらも時間がないので……先程も申し上げた通り、私は貴方の言う『あや』さんではありません。そして────」


 ゲーム内ディスプレイに表示された時刻を気にしつつ、私は誤解を解くためひたすら弁解した。

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