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第65話『治療対象』

「そういえば、シムナさんはどうしたんです?」


「シムナなら、サンダーゴーレムの相手してるよ〜?ほら、あそこ〜」


 そう言って、徳正さんは街の東方面を指さした。

促されるままそちらへ視線を向けると、ビリビリとした静電気を身に纏う巨大ゴーレムを発見する。

不自然に発光していることを除けば、見た目は普通のゴーレムと変わらなかっ。


 あれがサンダーゴーレム……ラルカさんに落雷魔法を落とした犯人。

いや、正確にはラルカさん自ら当たりに行ったんだけど。


 『これぞ、当たり屋』などとボヤきながら、私は避雷針をブンブン振り回すラルカさんへ視線を向ける。

と同時に、ハッとした。

自分の役割を思い出して。


 こうしている場合じゃない!


「ラルカさん、早くプレイヤーの避難誘導と救出を行いましょう」


『ハッ……!!すっかり忘れていた』


「恥ずかしながら、私もです……とりあえず中央広場付近に取り残されたプレイヤーに、西口へ向かうよう指示を出してください。怪我をしているプレイヤーについては、動けるならそのままで。動けないほどの重傷を負ったプレイヤーのみ、私が治療します」


『承知した』


 ラルカさんは直ぐさま首を縦に振ると、避雷針片手に駆け出した。

その背中は直ぐに小さくなる。


 いや、あの……せめて、避雷針は仕舞ったらどう?

街中に取り残されたプレイヤー達に警戒されると思うけど。


「ラーちゃん、俺っちも手伝うよ〜」


「それは有り難い申し出ですが、ゴーレムの討伐は……」


「今、シムナが相手してるサンダーゴーレムで最後だから大丈夫だよ〜。直ぐにシムナも合流出来るだろうし〜」


 えっ!?この短時間で街中に居たゴーレムを全部倒したの!?

正確な数は分からないけど、少なくとも四体は居たよね!?


 『徳正さんもシムナさんも凄すぎ……!』と驚愕し、私は目眩を覚えた。

が、直ぐに正常へ戻る。


「分かりました。では、お手伝いをお願いします。先程ラルカさんにも言いましたが、怪我人であっても動けるなら避難誘導を優先してください。治療は動けないほど、重傷を負ったプレイヤーのみにします」


 今回は怪我人の治療よりも、避難誘導を優先したい。

ゴーレムの討伐が終わっても街中は瓦礫で埋もれていて、危険だから。

それに何より────怪我人全員を治療して回れるほど、私達は暇じゃない。

私達の目的はあくまでゴーレムの討伐。

別に他のプレイヤーの命を軽く見ている訳じゃないが、優先順位はあくまで二番目。

だって、動ける程度の怪我ならライフポーションで事足りるだろうから。


 いちいち治癒魔法を掛けていたら、私の魔力(MP)が尽きてしまう。

マジックポーションを使えば魔力(MP)は回復出来るものの、それにだって限界はある。

というのも、マジックポーションには限界量が存在するため。

これは個人差のあるもので人によって違うが、大体みんな一日三・四本が限界。

それ以上飲むと、吐き気や倦怠感を覚えるようになる。

そして、コレの厄介なところはライフポーションや治癒魔法で治せないこと。

最低でも、数時間この症状に苦しむことになる。

場合によっては寝込むこともあるため、絶対に無理出来なかった。


 私は回復の要であり、命を守る最後の砦。

重傷患者が現れた時、マジックポーションの過剰摂取により寝込んでいます、では困る。


 まあ、本当は重傷・軽傷関係なく皆を癒したいんだけどね……。

でも、今の私の力では不可能。


 己の力不足に歯痒さを覚えながら、私は隣に立つ黒衣の忍びを見上げる。

すると、徳正さんは困ったように笑った。


「ラーちゃんはいつも、最善の選択をしてるよ。頑張っているのも分かってる。だから、そんな顔しないで。ねっ?」


 ポンポンと私の頭を撫で、徳正さんは子供を諭すような口調で話し掛けてきた。

慈愛に満ちたセレンディバイトの瞳を前に、私は少しだけ救われたような気分になる。


「徳正さんって、私のことを慰めるのがお上手ですよね」


「ふふっ。そう〜?」


「はい、憎たらしいほどに」


「えへへ〜。ラーちゃんに褒められちゃった〜!俺っち、今日はいい夢見れそう〜」


「まず、寝る時間があるかどうか分かりませんよ。ゴーレムの討伐に伴い、睡眠時間を削る可能性がありますから」


「えっ!?嘘っ!?せっかく、いい夢見れると思ったのに〜」


 徳正さんはいじけたように口先を尖らせるものの、文句を言うことはなかった。

そういう聞き分けのいいところは、実に彼らしい。

『たまに凄く頑固になるけど』と肩を竦める中、ラルカさんが戻ってくる。

怪我人と避雷針を手にした状態で。


 あの、ラルカさん……本当にそろそろ、避雷針を仕舞いましょ?

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