表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/315

第61話『救出』

「《パーフェクトヒール》」


 最上級の治癒魔法を施すと、瓦礫の山から飛び出した手は擦り傷一つなく完治した。

幻だったかのように……一瞬で。

まあ、また直ぐに瓦礫の重さや尖った部分で怪我をしているだろうが。

『こればっかりはどうようもない』と思いつつ、私はその場から立ち上がった。

と同時に、ラルカさんの方を振り返る。

すると、クマの着ぐるみは『後は任せろ』とでも言うように瓦礫の前へ出た。


 ここから先は瓦礫の下敷きになったプレイヤーの耐久力とスピードの勝負だ。

現在進行形で、回復したHPを削られている状況のため。


 『ラルカさんの腕の見せどころだね』と考える中、彼は瓦礫の前で片膝をつく。

そして、プレイヤーの手を強く掴んだ。

かと思えば、体を後ろに反らす。

己の体重を利用したソレは、まるで綱引きのようだった。


 やっぱり、ラルカさんを連れてきて正解だった。

シムナさんだったら、後先考えず力任せに引っ張っていただろうから。

────まあ、残念ながらそれだけの力では助け出せなかったみたいだけど……。


 微動だにしないプレイヤーと瓦礫の山を前に、ラルカさんはゆっくりと立ち上がる。

どうやら、作戦を変更するつもりのようだ。

『今度は力任せに引っ張ることになるだろうな』と考える中、彼は少し屈んだ状態でプレイヤー手を掴む。

その様子を一瞥し、私はアイテムボックスから結界符を取り出した。

プレイヤーを引き抜いた際、瓦礫の山が崩れるかもしれないから。

『そうなったら絶対、生き埋めになる』と判断し身構えていると、ラルカさんは────プレイヤーの手を一気に引っ張った。

かと思えば、プレイヤーの体が勢いよく飛び出してきて……宙を舞う。

それを見たラルカさんは慌てて手を引っ張り、プレイヤーの体を抱き止めた。


 ナイスキャッチ!ラルカさん!


 と歓喜するものの、私は瓦礫の存在を思い出し、慌ててそちらに目を向けた。

が────瓦礫の山に、特に変化はない。多少崩れたかな?程度。

『結界符の出番はないみたい』と安堵しつつ、私はラルカさんの方へ向き直った。

と同時に、口を開く。


「《パーフェクトヒール》」


 血だらけの状態で荒々しい呼吸を繰り返す怪我人に、私は治癒魔法を施した。

すると、瞬く間に傷は消えていき、乱れた呼吸も正常に戻る。


 これでもう大丈夫。あとは目を覚ましてくれれば、完璧なんだけど……。


 スヤスヤと気持ち良さそうに眠るプレイヤーを見遣り、私は苦笑する。

だって、一向に起きる気配がないから。

さすがに置いていく訳にはいかないため、私は渋々同行を決意した。


「まあ、途中で会ったプレイヤーに預ければ良いか」


 怪我を治すお礼として、このプレイヤーを街の外まで連れて行ってほしいとか何とか言えば、大丈夫だろう。

大抵のプレイヤーは『ついでだし』と快く引き受けてくれる筈。


「ラルカさん、この人が起きるか、この人を預けられるプレイヤーに出会えるまでそのまま抱っこして貰って良いですか?」


 そう提案すると、ラルカさんは間髪入れずに頷いた。

かと思えば、眠ったままの男性プレイヤーを抱き直し、普通の抱っこからお姫様抱っこに切り替える。

いそいそと体勢を整える彼の横で、私は真っ直ぐ前を見据えた。


「立ち止まっている暇はありません。先に進みましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ