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第60話『白虎の街』

「何?これ……」


 変わり果てた姿の白虎の街を前に、私はただ呆然とした。

だって、建物のほとんどが崩壊・破損し、見るも無惨な状態になっていたから。


 ようやく到着したかと思えば、これか……思ったより、酷いな。


 『まだイベント開始から一時間も経っていないのに……』と嘆き、私は眉を顰める。

でも、問題は瓦礫よりも────魔法を使えるゴーレム(マジックゴーレム)による、魔法攻撃の二次被害。

街中はまさに地獄絵図と化していた。

炎、氷、雷の被害を受ける白虎の街に、私は頭を悩ませる。


 ここから目視出来るゴーレムは、ファイアゴーレムとノーマルゴーレムの二体。

土塊(つちくれ)で出来たノーマルゴーレムはさておき、炎に包まれたファイアゴーレムは物理攻撃じゃ倒せないかもしれない。

普通なら、近づくことすら困難だろうし……。

はぁ……仕方ない。本当はこんな初っ端から使いたくなかったんだけど、徳正さんの影魔法を使うことにしよう。


 『出し惜しみしている場合ではない』と判断し、後ろに控えているメンバーを振り返る。


「徳正さんとシムナさんで、ゴーレムの討伐をお願いします。私とラルカさんは、街に閉じ込められたプレイヤーの保護と避難誘導を行います」


「え、え〜?何でラルカ〜?俺っちとラーちゃんで1セットでしょ〜?」


「何故、私と徳正さんで1セットなのか分かりませんが、この役割分担にはきちんと理由があります。体を炎で覆われたファイアゴーレムに物理攻撃を仕掛ける事が出来るのか分からないので、奥の手である徳正さんの影魔法が必要なんですよ。だから、討伐組に入ってもらわないと困るんです」


 ちなみにラルカさんを護衛に指定したのは、シムナさんがきちんと私の指示に従ってくれるかどうか分からないから。

それにセトの件でストレスを溜めているだろうから、ゴーレム討伐で発散して貰おうと思ったのだ。


「なるほどね〜。確かに俺っちが討伐組に加わらなきゃ、ちょっと危ないかも〜。納得したよ〜」


 徳正さんはさっきまでの焦りが嘘のように、ニコニコと笑っている。

妙に上機嫌な彼を前に、私は首を傾げた。

『今のどこに喜ぶ要素が……?』と疑問に思うものの、建物の崩壊する音を聞き、慌てて思考を切り替える。


 今はとにかく、目の前のことに集中しなきゃ!


「わざわざ言わなくても分かると思いますが、単独行動は絶対に禁止ですからね。特にシムナさん!徳正さんと行動を共にしてくださいよ?」


「えー!?僕、一人が良いんだけどー!もしくはラミエルと二人っきりー!こんなむさ苦しいオジサンと一緒なんて、絶対イヤー!」


「シムナ〜、誰がむさ苦しいオジサンだって〜?」


「徳正のことだよー?自分がむさ苦しいオジサンだって、自覚なかったのー?」


「……ちょっと、こっち来ようか〜?あっ!ラーちゃんとラルカはもう先に行ってて良いよ〜。俺っち達も話が終わり次第、出発するから〜」


 海みたいに広い心を持つ徳正さんでも、『むさ苦しいオジサン』呼びは許せないらしい。

さっきとはまた別の意味でニコニコと笑いながら、シムナさんの肩を掴んでどこかに行ってしまった。


 お、お気を付けて〜……。


 二人の後ろ姿を一瞥し、私はクマの着ぐるみと向き直る。

と同時に、目を見開いた。

だって、またコスチュームチェンジしていたから。

『今度は消防服を着るクマの着ぐるみか』なんて思いながら、一つ息を吐いた。


 なんか、消防のマスコットキャラにありそうなデザインだな……まあ、大鎌の存在感がデカすぎて違和感しかないけど。


 『子供が見たら泣きそう……』と肩を竦め、私は街中に視線を移す。


「さて、早速行きましょうか」


『ああ。徳正がシムナに何をするのか気になるが、今は与えられた仕事に集中するとしよう』


「そ、そうですね……」


 コクリと頷いて同意すると、ラルカさんは直ぐさま炎の壁に向き合った。

かと思えば、背中に背負っている大鎌デスサイズに手を掛ける。

そして、炎の壁目掛けて一振りした。

すると、凄まじい風が巻き起こり、瞬く間に炎の壁を打ち消す。

ついでに、瓦礫の山も真っ二つになった。

これなら、怪我人や非戦闘要員でも楽々街を行き来出来る。

『避難誘導の際はこの道を通るよう言えばいい』と考え、私はスッと目を細めた。


「消火、ありがとうございます。それでは、先に進みましょう」


『ああ、そうだな』


 ラルカさんはホワイトボードを脇に抱えると、勢いよく走り出した。私もそれに続く。

街の様子をじっくり観察しながら前へ進み、生存者を探した。


 瓦礫の下敷きになった人や建物の陰で倒れている人が、居るかもしれない!

見落としのないようにしなきゃ!


 デスサイズで道を切り開くラルカさんを横目に、私は右へ左へ視線をさまよわせる。

────と、ここで人間の手らしきものを発見した。


「ラルカさん!前方の瓦礫の山に、プレイヤーが居るかもしれません!手だけ、そこから飛び出てるんです!」


『……本当だな。直ぐに瓦礫をどかそう』


 ラルカさんは一気にスピードを上げると、問題の瓦礫の山に駆け寄った。

ピクリとも動かない手を着ぐるみ越しに触りながら、こちらを振り返る。


『手の感触と体温から、人間のものである可能性が高い。人形とかではなさそうだ。でも、助けようにも瓦礫が多すぎる上、この人間がどういう体勢を取っているのか分からない。下手に動かせないんだ。だから────こいつを完全回復させてくれ。そしたら、こいつの体を瓦礫の山から一気に引っこ抜く』


「それはまた……なんというか、大雑把な計画ですね……」


『大雑把なのは、自覚している。でも、一番これが手っ取り早い。慎重に瓦礫の山を退かしている時間はないんだ。こいつにばかり時間を割いてやる余裕もない。それはラミエルだって、分かっている筈だ』


 確かにそう……ラルカさんの言う通り。

残酷なようだけど、助けるのに時間が掛かる人を一人助けるより、軽傷で手間の掛からない人達(・・)を助けた方が良い。

だから、手間は最小限にしないといけない。


 『この人の防御力とHPの最大量に賭けるしかないな』と思いつつ、私は瓦礫の前で膝を折った。

ピクリとも動かないその手を包み込み、一つ深呼吸する。


 神様……もし私の声を聞いているのなら、どうかお願いです。この人を助けてください。


「《パーフェクトヒール》」

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