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第5話『ゲームクリアの定義』

 あのメールには、『ゲームをクリアしたら、現実世界へ帰れる』と言った趣旨の説明が施されていた。

すんなり頭に入ってくる文章だが、大抵の人はここで一つ疑問を覚える。

ゲームクリアとは何なのか、と。

FRO内にある全てのクエストをクリアしたら、ゲームクリアなのか。

それとも────プレイヤー間で囁かれる“FRO内二大クエスト”をクリアしたら、ゲームクリアと見なされるのか。


 二大クエストとは、FRO最難関と呼ばれる二つのクエストのことを指す。

そのクエストとは────魔王討伐と全ダンジョン攻略である。

魔王討伐は名前の通り魔王を倒すクエストで、全ダンジョン攻略は東西南北一つずつあるダンジョンの最下層まで辿り着くというもの。

各ダンジョンにはそれぞれ個性豊かなモンスターが居り、奴らを倒すことでアイテムを得られる。

なので、みんな攻略のためにダンジョンに潜るというより、素材集めのために潜っている感じだった。

もちろん、ダンジョン攻略を目的としたパーティーやギルドも存在するが、十階層ごとに現れるフロアボスに敗れていた。


 確か公式の情報だと、東西南北全てのダンジョンはそれぞれ五十階層あり、最下層に辿り着くとダンジョンボスと戦える仕組みになっているらしい。

で、そのダンジョンボスを倒すと莫大な経験値とレアアイテムを貰える仕様になってるという訳。

具体的な経験値の量やレアアイテムの内容は伏せられているけど、相当凄いものに違いない。


 そして、現時点での攻略の進み具合だけど……イーストダンジョンが三十六階。ウェストダンジョンが三十階。サウスダンジョンが三十一階。ノースダンジョンが二十九階である。

つまり、まだどのダンジョンも攻略出来ていない状態。


 私は魔王討伐とPKに時間を費やしたため、ダンジョンの深層に潜ったことはないけど、話を聞く限りかなり大変な状況らしい。

ネット掲示板の書き込みによれば、とにかく物資が足りない・回復系の人材が足りない・最初は百人居た攻略メンバーが深層に辿り着く頃には半分以下になっている・ほとんど休憩ないから辛い・途中抜け厳禁・丸一日は確実に潰れるetc……。

今あげたコメントはほんの一部に過ぎず、他にもたくさんのコメントが寄せられていた。


 『過酷さだけでいえば、魔王討伐クエストより上かも』と思いつつ、私は前を歩く徳正さんに声を掛ける。


「そうですね……二大クエストクリア、もしくは全クエストクリアと言ったところでしょうか?」


 個人的には、前者であってほしいけどね……。

単純に仕事量が少ないからというのもあるけど、『全クエストクリア』の中に隠れクエストも含まれていたら、地獄だから。

存在すら知らないものをノーヒントで探し出し、クリアするのはなかなか骨が折れる。


「うんうん〜なるほどね〜。俺っちも同じ考えかな〜」


 ニコリと陽気に笑う徳正さんは体ごとこちらを振り返り、そのまま歩き続ける。

全く緊張感のない彼に、私は一つ息を吐いた。


「ちゃんと前を見てください。転びますよ?」


「大丈夫、大丈夫〜。それに転んだとしても、俺っちにはラーちゃんが居るから〜。すぐに治してくれるでしょ〜?」


「はぁ……まあ、確かに治しますけど怪我しないのが一番ですから」


「ハハッ!ラーちゃんは心配性だなぁ〜」


 カラカラ笑いながらも、徳正さんはきちんと前を見て歩き出した。

一応、こちらの言い分を聞いてくれたらしい。

『なんだかんだ素直なんだよな、この人』と思っていると、徳正さんはハッと息を呑む。


「────ラーちゃん、敵襲!」


 先頭を歩いていた徳正さんはピタッと動きを止め、空を見上げる。

と同時に────複数の矢が、私達の元へ降り注いだ。そう、まるで雨のように。


 ど、どこから……!?いや、それよりも矢が……!!


 軽く見積っても三十はあるだろう弓矢を前に、私は慌てて護身用の短剣を取り出す。


 防ぎ切れなくても急所さえ外すことが出来れば、あとは幾らでも対応可能……!


「弓矢は俺っちがどうにかするから、ラーちゃんは敵をお願い!」


「分かりました!数人は落とします!」


 腰に下げていたウェストポーチからある武器を取り出し、私はもう一方の手でソレを構えた。


 弓矢を気にしなくて済むなら、ある程度自由に動ける!


 私達を取り囲むようにザザッ!と揺れる草むらを目で追いながら、神経を研ぎ澄ます。


 ────来る!


 そう確信した瞬間、複数の敵が飛び出してきた。

と同時に、弓矢が徳正さんの射程圏内に入る。


「ラーちゃん、頼むよ〜!」


「頼まれました!」


 鉄を弾く音や弓矢を叩き切る音を聞きながら、私は冷静に敵を見据えた。

飛び出してきたのは三人。その後ろにサポーター要員として二人。

あとは弓矢を射た弓使いが、数人遠くに居ることだろう。


 弓使いと後衛の二人は恐らく、徳正さんがやってくれるから……私は前衛の三人を片付ければ、いい!


「おらぁぁぁああ!!」


 戦闘用の大きな斧を大きく振りかぶる大男は、私────ではなく、徳正さんを狙う。

どうやら、回復師(ヒーラー)なんて眼中にないらしい。


「貴方の相手は私です……よっ、と!」


 私は左手に持っていた武器────毒針を一本大男に投げつけた。

ダーツの矢のようにヒュンッと音を立てて飛んでいくソレは狙い通り、男の首筋に突き刺さる。


「うっ……」


 頸動脈を狙ったのが良かったのか、毒の即効性が光ったのか……大男は大きく斧を振りかぶった状態で、後ろに倒れた。

これにより怖気付いたのか、残り二人の前衛はその場で足を止める。

威勢よく飛び出してきた、さっきまでの面影はもうなかった。


 なるほど。前衛の三人のうち一番強かったのが、この大男だった訳ね。

そりゃあ、自分より強い仲間があっさり殺られれば怖くもなるか。

ただでさえ、今のFROはデスゲームと化した地獄そのものなんだから。

まあ、襲ってきた時点で情けをかける気はないけど。


 『容赦はしない』と気を引き締め、左手に持つ残りの毒針を前衛二人に投げつけた。


「うっ!」


「ぐっ!」


 暗闇で小さな針は見えづらいのか、前衛二人は避けることも防ぐことも出来ず毒の餌食となる。


 前衛はこれでおしまい。あとは後衛の二人と弓使い数人だけだけど……。


「────あっ、ラーちゃんお疲れ〜」


 陽気な声に誘われるまま後ろを振り返ると、血だらけの男を五人ほど引き摺って歩く徳正さんの姿があった。

恐らく、後衛二人と遠くで待機していた弓使い三人を狩ってきたのだろう……持ち前のスピードと圧倒的力で。

『いつの間に……』と目を剥く私の前で、徳正さんはヘラリと笑う。


「ラーちゃん、ちなみに殺してないよね〜?」


「それはこっちのセリフです」


「ハハッ!何の毒使ったの〜?」


「神経毒ですよ。即死の方は使ってません」


 ヒラヒラと両手を振って答えると、徳正さんは『さすが、ラーちゃん〜』と口笛を吹く。

その無駄に上手い口笛を聞き流しながら、私は短剣を鞘に収めた。


 さて、と────片付けたは良いけど、彼らをどうしようかな?

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