第55話『波乱を呼ぶメール』
『FRO内に居るプレイヤーの皆々様、お久しぶりです!ハッカーチーム『箱庭』です!
FRO内での生活はどうでしょうか?
もう二週間近く経ちますが、死者はなんと!たったの百二十八人!
私達の予想に反して、随分と少ない人数でした!おめでとうございます!
さて、余談はこのくらいにして本題に入りましょうか。
結論から言います。
我々『箱庭』は────ゲーム内イベント開催をここに宣言します!
ルールは簡単!各地に現れた巨大ゴーレムを全て討伐するだけ!
日時は今日の朝四時から、三日間!ゴーレムの数は三千体です。
三日以内にゴーレムを全て倒すことが出来たら、皆さんにゲームクリアに関する重要な情報をご提供致します!
ゲームクリアを本気で望むなら、今回のイベントはまたとないチャンスですよ!
と、ここでイベントの注意事項を幾つかご説明致しますね。
注意事項一つ目、このイベントはプレイヤー全員強制参加です。
自分は関係ないと思っていた、そこの君!君も強制参加ですからね!
注意事項二つ目、巨大ゴーレムは街中にも現れます。
まあ、要するに逃げ場はないってことですね!
注意事項三つ目、イベント中は街中にのみ適応されていたダメージ無効システムが停止されます。
街中でも死ぬ可能性は充分あるので、お気をつけください!
注意事項は以上となります。
ではでは、FRO内に居るプレイヤーの皆々様!
我々『箱庭』が用意したイベントをたっぷり楽しんでくださいね!
皆さんの頑張りを期待しています』
運営……いや、ハッカーチーム『箱庭』から送られてきた文章がこれだ。
前回同様、かなりふざけた文章をしている。
私はゲーム内ディスプレイに表示された文章を何度も読み返しながら、キュッと唇を噛み締めた。
通知欄に『運営』の二文字が現れた時、ちょっとだけ……本当にちょっとだけ期待した。
もしかしたら、本物の運営や警察の誰かが『箱庭』のセキリュティを掻い潜ってゲーム内に閉じ込められた私達を助けに来たんじゃないかって……。
FROの厳重なセキリュティを突破した奴らが、そう簡単に侵入を許す筈ないのに。
クシャリと顔を歪める私は、ズルズルとその場に座り込んだ。
このイベントの目的は恐らく、ゲームクリアへの道のりを少しでも近づけること。
ゴーレムの強さはまだ不明だが、極端に強いってことはないと思う。これはあくまでゲームだから。
ただ────全員強制参加に追い込む理由については、疑問しかない。
だって、こんなルールを付け足さなくても景品が『ゲームクリアに関する重要な情報』なら、攻略組がこぞって参加するもの。まず、参加者0なんて有り得ない。
もしや……ゲームクリアに向けて動こうとしないプレイヤーを良く思っていないのか?
それで、こんな無茶苦茶なルールを?
だとしたら、『箱庭』の考えは幼稚としか思えない……。
『精神年齢、低すぎでしょ』と悪態をつき、私は大きく息を吐いた。
「今回のイベント、どのくらい死者が出るんでしょうね……」
全く逃げ場のないイベント内容を思い返し、私はそっと眉尻を下げる。
今回警戒すべきは、ゴーレムだけじゃない。
プレイヤー間のトラブルで、死んでしまう人も居るだろうから。
極限状態に陥った人間は、どうなるか分からないもの。
そう考えると、このイベントかなり厄介だな……。
今日の朝四時から開始されるイベントを思い、私は眉を顰めた。
だって、私達に残された時間は僅か一時間半だから。仲間と合流出来るだけの時間はない。
虐殺の紅月の場合全員ではないが、ある程度固まって動いているため、心配はなさそうだが。
リーダーだけ単独行動をしているけど、同盟会議が終了してからそれほど経っていないし、ヘスティアさんや他の同盟メンバーと合流することが出来るよね。
だから、私達『虐殺の紅月』のメンバーはとりあえず大丈夫。
でも、他のプレイヤーもそうとは限らない。
初心者やソロプレイヤーなんて、絶望的だろう。
ゴーレムの強さや状況にもよるが、大半のプレイヤーが見知らぬ誰かとチームを組まなければならない。
そこに『協力』という言葉はあっても、『連携』という言葉はなかった。
『かなり厳しい戦いになる筈』と思案する私の前で、徳正さんはそっと目を伏せる。
「……死者0人は正直、無理だと思う」
「そう、ですよね……」
「うん。残念だけど、これが現実」
そう────これが現実。
FROに閉じ込められた私達にとって、この世界で起きたこと全てがリアルなんだ。
死と隣り合わせの状況を憂い、絶望していると────不意に通知音が脳内に鳴り響く。
何だろう……?誰かチャットでも飛ばしてきたのかな?
コテンと首を傾げながら通知画面を開くと、そこには────我らがリーダー No.1からチャットが届いていた。
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No.1:ゴーレムを狩り尽くせ
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たった一言。たった一行。たった一文。
でも────私達にはそれだけで十分だった。
リーダーの命令とあらば、任務遂行のため持てる力を全て使い果たす。それが私達『虐殺の紅月』だから。
今回のイベントはゲームクリアに繋がる重要なイベントだ。絶対に失敗は許されない。
私はさっきまでのマイナス思考を振り払うようにフルフルと頭を振り、立ち上がった。
服についた土を振り払い、三人の男達を見下ろす。
私と同様、リーダーからのメッセージを眺めていた彼らはニヤリと口元を歪め、不敵に笑っていた。
自信もやる気も大丈夫そうね。
「ゴーレム討伐のことについて、意見交換を行いましょう。ナイトタイムが終わる前に、ある程度作戦を練りたいですし」
そう声を掛けると、彼らは間髪入れずに頷いた。
────ゴーレム討伐イベント開始まで、あと一時間。




