第54話『またいつか』
────それからシムナさん達と合流した私達は、無事ウエストダンジョン外に出ていた。
ダンジョンの出入口前で派遣メンバーと向かい合い、視線を交差する。
私達の役割はあくまで、派遣メンバーを安全な場所……ダンジョンの外に送り届けること。
その後のことは何も指示されていない。つまり、私達の仕事はこれで終わりって訳だ。
本当は街まで送ってあげた方が良いんだろうけど、シムナさんの我慢が限界に差し掛かってるから……これ以上、行動を共にするには危険だ。お互いに。
『ここで別れるべきだろう』と考える中、派遣メンバーの三人はどこか気まずそうに視線を逸らす。
セトだけでなく、神官の女性や剣士の男性まで暗い顔をしているのは少なからず責任を感じているからだろう。
セトの暴挙を止められなかった訳だから。
『それにチームは基本、連帯責任だし』と肩を竦めていると、二人がセトにアイコンタクトを送る。
が、本人は素知らぬ顔でスルー。
『早く謝れ』と促されているのは、分かっている筈なのに。
こちらを一向に見ようとしない琥珀色の瞳を前に、私は苦笑を零した。
「それじゃあ、私達はこれで失礼します。アフターケアがなくて申し訳ありませんが、ここから先は皆さんの力で頑張ってください。では」
派遣メンバーの三人にペコリと頭を下げ、私は身を翻した。
すると、後ろから慌てたような男女の声が聞こえる。
恐らく、最後の最後まで何も言わなかったセトにせめて感謝の言葉を述べるよう説得しているのだろう。
「むぅー!あいつ、結局謝罪はおろか感謝の言葉すら言わなかったじゃん!ムカつくー!」
『せめて、ラミエルを突き飛ばした件については謝罪してほしかったな』
「ね〜。礼儀作法すら守れない雑魚プレイヤーなんて、早く死ねばいいのに〜」
溜まっていた不満が吹き出したのか、徳正さんは笑顔で暴言を吐いた。
その目線の先には、セトの姿が……。
あちらも多分、こちらの様子には気がついていると思うが……何も言わずに背中を向ける。
どうやら、対話する気はないらしい。
セトの頑固さもここまで来ると、一種の病気だな。
PK集団の上位プレイヤー三人に睨まれても、知らんふりを突き通すんだもん。ある意味凄いと思う。
だって、普通の人ならシムナさんに殺されかけた時点で私に平謝りするだろうし。
どうして、セトはこうも悪い方向に突っ走っちゃうのかな……?
ねぇ、セト。もっと柔軟に物事を考えることが出来れば、この世界は以前よりも格段に生きやすくなるよ。
私は懐かしい大きな背中を振り返り、スッと目を細める。
一ヶ月前まで私を守ってくれていた背中は、水平線のように遠く感じた。
腕を伸ばせば、届く距離に居た筈なのに。
セトと前のように話せないのは残念だけど、過去を清算出来ない限り、私達は拒絶し合うべきなんだと思う。
だって────セトはそっちの方が楽でしょ?
『またいつか』なんて言葉使いたくなかったけど、またいつか会うことが出来たなら、その時は少しだけ話をしようか。
だから、その時まで感謝も謝罪もお預けだ。
私は懐かしさを覚える広い背中から視線を逸らし、きちんと前を見据えた。
「行きましょう。長居は無用です」
◆◇◆◇
セト達と別れ、ウエストダンジョンを後にした私達は適当な場所でキャンプを張っていた。
ナイトタイムに差し掛かり真っ暗になった辺りを見回し、各々準備に励む。
「ラーちゃん、トンカチ取って〜」
「分かりました」
「釘あるー?」
「今、持っていきますね」
『果物ナイフ、持ってないか?』
「ありますよ。アイテムボックスから出すので、少し待っててくださいね」
私は道具箱やアイテムボックスを漁りながら、馬車の修理とテスト張り、食事の準備に励む彼らを見つめる。
そして、目当てのものを発見すると三人にそれぞれ手渡した。
他に手伝えることはないかと様子を窺っていると────通知音が脳内に鳴り響く。
何の気なしにゲーム内ディスプレイを呼び起こす私は、通知画面を開いた。
「えっ?これ……」
私は目に飛び込んできた内容に思わず、言葉を失う。
動揺を隠せ切れずにいる私の前で、徳正さん達も作業の手を止め、硬直していた。
多分、彼らも見てしまったのだろう。
────メールの送り主である、ハッカーチーム『箱庭』の名を。




