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第47話『第十二階層』

 そして、私達はモンスターホールから第十二階層に降り立ち、キョロキョロと周囲を見回す。

事前に貰った情報によれば、『紅蓮の夜叉』のギルドメンバーはこの階層に居る筈だから。

待機地点を第十一階層にしなかったのは、恐らくピュートーンの毒を警戒してのことだろう。

彼らの職業や物資状況は分からないが、解毒に必要な魔法やアイテムを持ってなかった場合、毒は致命傷になるから。

『とにかく、早く合流しないと』と考える中、シムナさんが声を張り上げる。


「『紅蓮の夜叉』のギルドメンバーさーん?居ないのー?僕、早く休みたいから早く出てきてよー」


『もう少しマシな声掛けは、ないのか?』


「それな〜。完全に自分の欲望丸出しだよね〜」


 まあ、物騒な単語をぶち込んでいないだけまだマシかな。

シムナさんなら、普通に『早くしないと、殺すよー?』とか言いそうだから。


「それにしても、第十二階層はやけに魔物(モンスター)が少ないですね」


「言われてみれば、そうだね〜。これだけ騒いでいれば、一気に十体くらい寄ってきそうなのに〜」


『第十二階層に降りてから、まだ三体くらいしか見掛けてないな』


「その三体とも、雑魚だったけどねー」


 いや、雑魚って……確かに第十二階層の魔物(モンスター)────シパクトリの能力は地味だけども。


 風に音を乗せて超音波を発するだけという能力内容に、私は苦笑を浮かべる。

ワニとヒキガエルの特徴を持ったその魔物(モンスター)を思い浮かべ、小さく肩を竦めた。


 しかも、シパクトリが直接攻撃を仕掛けてくるのは身の危険を感じた時だけなんだよね。

でも、その段階へ移行する前に仕留めてしまうため、ぶっちゃけ楽勝。

シムナさんが退屈に思うのも、しょうがなかった。

まあ、それはさておき……


魔物(モンスター)との遭遇率が、あまりにも低すぎます。上層と違って個体数に制限があるとはいえ、これはさすがに……」


「ラーちゃん、こうは考えられない〜?第十二階層に待機している『紅蓮の夜叉』のギルドメンバーが、定期的に魔物(モンスター)を狩ってるから全然遭遇しない〜、みたいな?」


『その線は充分、有り得る。自分達の安全を確保するためにはどうしても、魔物(モンスター)と戦わなくてはならないからな』


「まあ、一応辻褄は合うよねー」


「確かに……」


「ま、あくまで可能性の話だけどね〜」


 そう言って、徳正さんはヒラヒラと手を振る。

それが『この話題は終了』の合図だった。

ゆったりとした歩調で前へ進む黒い背中を前に、私は『今はとにかく、合流を急がないといけないもんね』と考える。

どんなに優れたプレイヤーでも、ダンジョンに一週間も閉じ込められれば心身ともに疲れるだろうから。

『私なんて、たったの数時間でヘトヘトだし……』と苦笑する中、ふと


「きゃぁぁぁあああ!!」


 という女性の悲鳴が、聞こえた。

言うまでもなく切羽詰まった状況であることは、明らかで……私達は一斉に走り出した。


「悲鳴は奥の方から、聞こえました!距離はそこまで離れていません!」


「状況から見て、あの女が派遣メンバーの一人であることは間違いないねー」


『とにかく、急ごう』


「だね〜。ラーちゃん、ちょっと失礼するよ〜」


「えっ?何を……ひゃわっ!?」


 前を走っていた徳正さんが突然スピードを落としたかと思えば、ひょいっと私を小脇に担いだ。


「とにかく、急ぐよ〜」


 徳正さんは誰に言うでもなくそう呟くと、グンッとスピードを上げた。

それに応じて、後ろを走っているラルカさんとシムナさんも足を早める。

ちなみに私はと言うと……容赦なく顔面を殴りつけてくる猛風に、四苦八苦していた。


 と、徳正さん早すぎ……!!あと少し目を瞑るのが遅かったら、ドライアイになるところだったよ!

まあ、今回は大目に見るけど!


「あっ!見えてきたよー!」


「お〜?やってるね〜」


 ヒューと無駄に上手い口笛を吹いた徳正さんは、不意に足を止める。

その瞬間、ピタリと急に風が止んだ。

『着いた……のかな?』と首を傾げつつ、私は恐る恐る目を開ける。

すると、そこには────シパクトリの集団に囲まれる、三人のプレイヤーの姿が……!


「一人負傷していますね……」


「だね〜。とりあえず、魔物(モンスター)を片付けようか〜」


「えー!僕、もう雑魚狩りには飽きたよー!」


『文句を言うな。早く休みたいなら、尚更な』


「むぅー!」


 シムナさんは不満げに口先を尖らせるものの、ラルカさんの言葉に納得はしてるみたいで仕方なく斧を持つ。

『やればいいんでしょー』と零す彼の前で、私は派遣メンバーを確認した。


 負傷した仲間を庇うように、他二人が前に立っている……きっと凄く怖いだろうに逃げ出さないなんて、仲間思いなんだな。


「シムナさんとラルカさんはシパクトリの討伐を。私は負傷者の手当てに当たります。徳正さんは私と派遣メンバーの護衛をお願いします」


 徳正さんの小脇に抱えられたまま指示を飛ばすと、私はセレンディバイトの瞳をチラリと見た。

その瞬間、徳正さんは軽く地面を蹴ってシパクトリの群れを飛び越える。

その先には、『紅蓮の夜叉』から派遣された三人のプレイヤーが居た。


 パーティー編成は大盾使いが一人と剣士が一人、それから神官が一人と言ったところだろうか?

長期戦には向かないけど、基本に忠実でいいと思う。

ただ、大盾使いが重傷を負っちゃったのは痛かったね。彼は防衛の要だから。

まあ、他の二人も結構ボロボロだけど。


 『急いで駆けつけて正解だったな』と考える中、派遣メンバーはこちらを見て驚く。


「あ、貴方達は一体……?」


 先程悲鳴を上げた本人と思しき神官が、恐る恐る尋ねてきた。

不安と懇願を孕んだ眼差しを前に、私はそっと身を屈める。

その後ろで、徳正さんはチャキッと暗器を構えた。


「私達は『紅蓮の夜叉』のギルドマスターである、ヘスティアさんに依頼を受けて来ました。もう大丈夫です。私達が責任を持って、貴方達を保護し地上まで送り届けます。なので、まずは皆さんの怪我を見せてください。私は回復師(ヒーラー)のラミエルです」


 出来るだけ優しく……驚かさないように気をつけながら話し掛けると、目に見えて彼らは安堵していた。

『やっと助けが来たのか』と歓喜しながら。

でも────ただ一人だけ、私の名を聞いて体を(こわ)ばらせた者が居る。

それは大盾使いの男だった。


 どうしたんだろう?体をビクつかせて……。

もしかして、私達が『虐殺の紅月』のメンバーだってバレたのかな?

不安にさせないために、敢えて言わなかったんだけど……。


 『ここは正直に明かすべき?』と悩み、私はそっと眉尻を下げた。

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