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第41話『信念とプライド』

 それから、私達はダンジョン内にモンスターホールを開けまくり、第九階層まで辿り着くことが出来た。

だが、問題はここからである。

『紅蓮の夜叉』のギルドメンバーを救うためには、どうしても第十階層のフロアボスを倒さなければならない。

フロアボスとは、本来大規模な討伐パーティーを組んで倒すもの。

たった四人で立ち向かう相手ではないのだ────通常であれば。

何事にも例外というものが、存在する。そう、まさに私達のような……。


「ねぇー!ラルカ、まだー?」


『悪いが、まだだ。この床、結構硬くてな』


「まあ、この下がボスフロアなんだから仕方ないよ〜。気長に待とう〜?」


「えーーーーー!!僕、魔物(モンスター)狩りもう飽きたんだけどー!」


『すまんが、もう少し辛抱してくれ』


 何をやっているんだ、この人達は……。


 『はぁ……』と深い溜め息を零す私の前で、彼らはモンスターホール作りに励んでいた。

どうやら、彼らの中に『階段で行く』という選択肢はないらしい。


「あの……普通に階段で行きません?」


 水を差すようで申し訳ないが、時間や労力を考えるとそっちの方が断然いい。

『実に効率的だ』と考えるものの……彼らは揃いも揃って、首を横に振った。

それもかなりの勢いで……ブォンブォンと風を切る音が、聞こえるくらいには。


 そこまで全力拒否する!?


「ラーちゃん……男には命にかえても、成し遂げなきゃいけないことがあるんだ」


 えっ?この穴掘り作業が?


「一度やるって決めたからには、最後までやり遂げないとね。だって、男だもん」


 その心意気は素晴らしいけど、貴方さっきまで『魔物(モンスター)狩り、もう飽きたー』とか言ってなかった?

どちらかと言えば、私の仲間だと思うんだけど……。


『このモンスターホールは、必ず完成させる。だから、ラミエルには僕達の勇姿を最後まで見届けて欲しい』


 いや、あの……ごめんなさい、これのどこが『勇姿』なのか分からないんだけど。

ただの穴掘り作業だよね?


 呆れ返る私の前で、男性陣は意味不明なキメ顔を披露している。

徳正さんに関しては、ポーズまで完璧にキメていた。


 この人達は一体、何をやっているんだろう?

あと、キメ顔痛い。見ているこっちまで、恥ずかしくなる。


「……とりあえず、鏡見て出直して来てください」


 真顔で辛辣な言葉を述べると、この場は一瞬にして静まり返る。

時が止まった錯覚さえ覚えるほどに。


 あれ?どうしたんだろう?皆、固まってるけど……。


 コテンと首を傾げる私の前で────ラルカさんと徳正さんはガクッと膝を折った。


「ら、ラーちゃんが毒を吐いた……」


『僕の顔って、そんなに気持ち悪いのか……?』


「あははははっ!!君、最っ高!!ボスが認めるだけある!!くくくっ!!くははははっ!!」


 ズーンと暗いオーラを放ち、見るからに落ち込んでいるラルカさんと徳正さんに対し、シムナさんはまさかの爆笑。


 今のどこに笑う要素が、あったんだろう?

いや、その前にラルカさんと徳正さんを立ち直らせないと!さすがにさっきのは言い過ぎた!


「あ、あの!徳正さん、ラルカさ……」


「ラルカ!こうなったら、何がなんでもモンスターホールを完成させるよ!汚名返上しなきゃ!」


『だな。このままじゃ終われない』


 こちらが慰める前に勝手に立ち直った(自己回復した)二人は、スクッと立ち上がった。

その瞳には、強い信念と覚悟が宿っている。


 いや、あの……だから、無理してモンスターホールを作らなくても階段が……。


「よっし!シムナは俺っち達の警護をよろしく〜。俺っちとラルカの二人がかりで、穴を掘るから〜」


「はーい」


『力を合わせて、頑張ろう』


 気合い十分なラルカさんに、シムナさんは適当に相槌を打った。

かと思えば、アイテムボックスから銀の斧を取り出し、ケルベロスを薙ぎ払う。

面倒臭そうにしているが、一応やる気はあるらしい。

これはもう『階段に行きましょう』とか言える雰囲気じゃなかった。


 はぁ……仕方ない。モンスターホールが完成するのを、気長に待とう。


 彼らの信念とプライドに根負けする形で、私はモンスターホール作成を容認した。


 見たところ、ラルカさんの大鎌も徳正さんの愛刀も刃先は地面に入っているみたいだし、案外すんなり穴が開くかもしれない。


「まあ、それでも大分時間が掛かりそうですが……」


 モンスターホール作りに励む彼らを見つめ、私は呆れにも似た苦笑を浮かべる。


 まあ、何とかなるでしょう。今までだって、ずっとそうだったし。


 楽観主義の徳正さんに感化されつつある私は、鞘から短剣を引き抜いた。


「シムナさん、微力ながら私も助太刀します」


「あ、ほんとー?助かるー!」


 斧を片手でブンブン振り回すシムナさんは、快く増援を受け入れてくれた。

ケルベロスの三つの頭を一振りで全て切り落とした彼の前で、私は少し驚く。


 『必要ない』って突っぱねられるかと思ったけど、大丈夫だったみたい。


 ホッと息を吐き出す私は、目の前に現れたケルベロスへ回し蹴りをお見舞いする。

現実世界の大型犬と大差ないサイズのケルベロスを見つめ、スッと目を細めた。


 さすがに私の攻撃力じゃ、一発で仕留めるのは無理か。

ケルベロスは中層魔物(モンスター)だもんね。

ゴブリンやオークのようにいかなくて、当然だ。


 私はアイテムボックスから毒針を取り出すと、ケルベロス目掛けて投げつけた。

薄暗い洞窟内では針が見えづらいのか、ケルベロスは避けきれずに毒針を足に受ける。


 今回使用した毒針は、特別仕様だ。

何故なら、これは────アラクネさんの調合した猛毒だから。

即効性が強く、体内に摂取した生物はまず助からない。なんでも、生物を内側から溶かす毒で内蔵や骨も一瞬でダメになるらしい。

だから、『ご使用の際は十分注意してください』とアラクネさんに何度も言われていた。


 一応、解毒剤や状態回復魔法をかければ助かるみたいだけど、本当にすぐ手当てしなきゃいけないので大変だった。

場合によっては、間に合わないこともあるらしい。

なので、この毒の扱いには相当気を使わなければならなかった。


 私は全身ドロドロに溶けたケルベロスを観察し、頬を引き攣らせる。

『うわぁ……グロい』とたじろぐ中、ケルベロスは白い光に包まれて消えた。


「おー!なかなかやるねー!」


「アラクネさんが作ってくれた毒のおかげですよ」


「あっ!やっぱり、それアラクネが作ったやつなんだ?」


「はい。攻撃力の低い私でも戦えるよう、と気を使ってくれたんです」


「なるほどねー」


 シムナさんは納得したように頷くと、また一匹また一匹と近くの魔物(モンスター)を確実に仕留めていく。野生の動物のように荒々しい動きだが、何故だか目を惹かれた。


 本当、不思議な人だな。

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