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第39話『ウエストダンジョン』

「とりあえず、先を急ぎましょう」


 そう言って、私はウエストダンジョンの出入口を見上げた。

洞窟のような見た目のソレは薄暗く、ポタポタと水の落ちる音も聞こえる。

鼻腔を擽る土の匂いに目を細め、私は腰に手を当てた。


 ダンジョンなんて、久しぶりだなぁ……。

『サムヒーロー』に居た時はカインのワガママで一緒に来ていたけど、最近はずっと徳正さんとPKしてたから。


魔物(モンスター)爆発が起きた後だから、上層は魔物(モンスター)で溢れ返ってると思ってたけど、意外と少ないね〜」


『まあ、通常時より多いのは変わらんがな』


「狩る必要はありそうですね」


「はぁー!面倒くさーい!」


 シムナさんは洞窟の中を覗き込むなり、クッと眉間に皺を寄せる。

この表情だけ見れば、彼が“狂笑の悪魔”と思う人は居ないだろう。


 シムナさんが興味あるのはPKだけだもんね。

コンピューター……それも雑魚魔物(モンスター)相手にやる気になる訳ない。

さっきみたいに魔物(モンスター)が大量発生すれば、話は別だけど……ここに居るのはせいぜい、三十体程度かな?

これなら、直ぐに倒せそう。


「とりあえず、上層魔物(モンスター)の数を減らしながら進みましょうか」


「りょーかーい。んじゃ、俺っちが先頭行くね〜。シムナとラルカは、ラーちゃんの後ろをお願い〜」


『承知した』


「言われなくても、分かってるよー」


 攻撃特化の彼らは、私を前後に挟んで歩き出した。

見慣れた黒い背中を前に、私も歩を進める。


 なんか、私……姫プレイ(姫プ)されてるみたいだ。

ちょっと照臭いけど、素直に嬉しい。

『サムヒーロー』では私の傍に大盾使いのセトが居るだけで、いつも最後尾を歩かされていたから……。

こうやって、パーティー全体で守ってもらうことなんてなかった。


 別にそれを不満に思ったことはないけど、少しだけ寂しかったのを覚えている。

だって、最後尾だとよく見えるんだもの……笑いながらお喋りしている皆の姿が。

クエストが失敗続きでも、カインが暴君でも仲間は仲間。帰りはさておき、行きは皆イキイキしていた。

だから、話の輪に入れないことが少しだけ……本当に少しだけ寂しかったんだ。


 ────って、落ち込んでいる場合じゃない!!

今は目の前のことに集中しないと!!まだ上層とは言え、油断は出来ない!


 ペチンッ!と両頬を叩き、私は気合いを入れ直した。

すると、徳正さんが弾かれたようにこちらを振り返る。


「……ラーちゃん今すごい音鳴ったけど、大丈夫?」


「はい!大丈夫です!」


「そ、そう〜?」


「はい!気合いを入れ直していただけなので!」


「き、気合い〜?ラーちゃんって、そんな熱血系の子だったっけ〜?」


「熱血系かどうかは知りませんけど、私はいつもこんな感じですよ?」


 キョトンとした表現を浮かべる私に対し、徳正さんは訝しむような視線を向ける。

その表情はチベットスナギツネによく似ていた。


「そんなことよりさー、早く魔物(モンスター)を倒しちゃおうよー。僕、さっさと休みたいんだけどー」


「あっ、そうですね。では、早速第一階層の魔物(モンスター)を片付けてしまいましょう。全部は倒さなくて、大丈夫ですよ。どうせ、直ぐに再生してしまいますから」


「はーい」


『承知した』


「りょーかーい!」


 私の指示にコクリと頷くと、ラルカさんとシムナさんは散開した。

徳正さんは私の護衛のため、ここに残る。


 気遣ってくれるのは嬉しいけど、徳正さんも自由に動いてもらって構わないのに。

本当に過保護だな。


 私は布で覆われた徳正さんの横顔を一瞥し、鞘から短剣を引き抜く。

薄暗い洞窟内で、それはキラリと光った。


 ラルカさんとシムナさんがもうほとんど倒しちゃってるし、私の出番はないかな?

なら、わざわざ短剣を構える必要なかったかも。


 圧倒的力で敵を捩じ伏せていく二人の姿に、私は苦笑を漏らす。


「本当に凄まじい強さですね」


「だね〜。ま、俺っちも負けてないけど〜」


「はいはい。徳正さんの強さはある程度、分かっているつもりですよ」


 『凄い凄い』と囃し立て、私は小さく肩を竦める。

────と、ここでシムナさんが声を上げた。


「あーーーーー!!疲れたぁ!!」


『シムナの場合、『疲れた』のではなく『飽きた』んだろう?』


「あっ、バレたー?」


『バレるも何も、最初から隠す気などないだろ』


「ははっ!ラルカは相変わらず、鋭いね」


『シムナが分かりやすいだけだ』


 意外と仲のいい二人は軽口を叩きながら、こっちに戻ってきた。

どうやら、粗方狩り終えたらしい。


 まだ十分も経ってないのに……早すぎる。それに仕事も正確だ。

見渡す限り、もう魔物(モンスター)は居ない。まあ、直ぐに復活するだろうけど……でも、彼らは想像以上の成果を上げてくれた。


 『二十体くらい狩ってくれれば、充分だったのに』と思いつつ、私は短剣を鞘に収める。

ちらほら復活し始めた魔物(モンスター)を一瞥し、彼らに目を向けた。


「お二人共お疲れ様です。次の階層に行きましょう」

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