第38話『モンスターホール』
「魔物爆発を防ぐため、各ダンジョンに向かわせていた『紅蓮の夜叉』のギルドメンバーがウエストダンジョンのモンスターホールに落ちて、第十二階層まで落ちたそうです。上層に上がろうにも、第十階層に居る階層主が強すぎて身動きを取れない状態とのこと。リーダーから、そのプレイヤー達を保護するよう指示が出されています」
リーダーから送られてきたメッセージ内容を要約して説明すると、徳正さんとシムナさんはあからさまに顔を顰めた。
その顔には、ハッキリと『面倒くせぇ……』と書いてある。
ラルカさんに関しては、ホワイトボードに『チッ!』と舌打ちを書いていた。
舌打ちくらい、普通にすれば良いのに……わざわざ、ホワイトボードに書き込む意味ある?
「モンスターホールに落ちるとか、ダサすぎー!不注意が過ぎるんじゃないのー?」
「仮にも『紅蓮の夜叉』のギルドメンバーなんだから、もっとしっかりしてほしいもんだね〜」
『いや、その前にボスフロアにモンスターホールがあることにツッコミを入れるべきだろう』
ラルカさんの的確な指摘に、徳正さんとシムナさんは『あっ……』と声を漏らす。
そう、問題は『紅蓮の夜叉』のギルドメンバーの事じゃないんだ。
ウエストダンジョンのボスフロアに、モンスターホールがあること。
────モンスターホールとは、ダンジョンの床や天井にある大きな穴のことだ。
そのほとんどはプレイヤーによって掘られたもので、形や大きさはバラバラ。
そして穴を開ける理由についてだが、これは単純に時間短縮のため。
通常ダンジョンは下の階に降りる際、階段を使う。
だが、階段は各階層の一番奥に位置するため、そこに行くまでに結構時間が掛かってしまうのだ。
そこであるプレイヤー達が、『床や天井に穴を掘れば良いのでは?』と考えた。
その発想は見事上手くいき、移動時間の短縮に成功。
後にそれは『モンスターホール』と呼ばれるようになった。
で、話はここからだ。
運営は床や天井に穴を開けて移動する考えを聞くなり、直ぐさまアップデートを始めた。
アプデ内容は上層から下層にかけての壁の補強と、ボスフロアの強化。
恐らく、誤って下へ落ちてしまったら大変だと判断したのだろう。
特にボスフロアは一度入ったら、死ぬかボスを倒すかしないと出られないため。
────ただ、運営は絶対に壊せないよう設定はしなかった。
なので、過去に一度あるギルドがボスフロアにモンスターホールを開けたことがあるらしい。
正確な時間は分からないけど、五時間はずっと作業していたとのこと。
しかも、出来上がったモンスターホールは三日で消えてしまったんだとか……。
他のモンスターホールは、まだもう少し持つのに。
まあ、それはさておき……ボスフロアにモンスターホールを掘ったのは、どこの誰!?
とち狂っているの!?
「ねぇ、ウエストダンジョンの第十階層のボスって“渦神カリュブディス”だっけ〜?」
『恐らく』
「あー……なら、多分ボスフロアにモンスターホールを作ったのヴィエラお姉様だわ〜。あの人、ゲーム世界に閉じ込められる直前に各ダンジョンの第十階層に居るフロアボスを倒して、回っていたみたいだから〜」
「おおー!すごーい!でも、何でわざわざー?」
「あーちゃんに頼まれたみたい〜。ドロップアイテムを研究素材に使いたいからって、可愛くお強請りされたらしいよ〜」
『相変わらず、アラクネは研究熱心だな』
いやいやいやいや!!感心するところじゃないって!!そこは驚くところだよ!?
『てか、犯人ウチのメンバーだったのか……』と項垂れ、私は額を押さえる。
でも、妙に納得した。
職業別ランキング第一位のヴィエラさんなら確かにやれそうだな、と。
「はぁ……凄い凄いとは思ってましたけど、まさかここまでとは……」
「ヴィエラお姉様は、主君の右腕だからね〜。これくらい出来なきゃ、ダメだよ〜」
「『これくらい』って……」
私みたいな一般市民には、全然『これくらい』に見えないんだけど……。
『虐殺の紅月』の基準はどうなってるんだ……。
『はぁ……』と深い溜め息を零し、私は小さく頭を振る。
まあ、何はともあれ謎は解けた。
フロアボス不在のため、幸い彼らに怪我はなかったみたいだし……よしとしよう。
「とりあえず、ウエストダンジョンに向かいますよ。彼らの救助に向かいましょう」
「えー!面倒くさーい!」
「確かに面倒臭いけど、見殺しには出来ないでしょ〜」
『お頭の命令を無視する訳には、いかないからな』
「それに皆さんの実力なら、直ぐに終わりますよ」
「むぅー!分かったよー!やれば良いんでしょー!」
リーダーの名前を出されると弱いのか、シムナさんは仕方なく歩を進める。
少し不満そうであるものの、これ以上文句を言うつもりはないらしい。
シムナさんって子供っぽくてワガママだけど、きちんと説明すれば分かってくれるから、意外と扱いやすい。噂で聞いていたイメージとは、全然違うな。
『普通に会話出来るじゃん』と思いつつ、私は真っ直ぐ前を見据える。
「とりあえず、先を急ぎましょう」




