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第311話『来年の抱負』

「で、ラルカはどうなの?」


 『もうこの際、ハッキリさせといたら?』と言い、ヴィエラさんはクスリと笑みを漏らす。

完全にこの状況を楽しんでいる彼女の傍で、おっとりイケメンは小さく肩を竦めた。


「僕はラミエルが幸せなら、それでいい」


「あら、随分と消極的……というか、女々しいわね」


「しょうがないだろ。僕もラミエルのことは好きだが、徳正やシムナに比べるとやはり劣る。二人ほどの愛情を注げる自信がないんだ」


「なるほど……確かにあの二人がライバルかと思うと、尻込みしちゃうわよね」


 『特にラルカは感情の起伏が穏やかだし』と零し、ヴィエラさんはそっと眉尻を下げる。

ちょっと同情的な態度を取る彼女に、ラルカさんは

 

「ああ、だから────僕は一生片想いでいい」


 と、言い切った。それも、シレッと。

『いや、お前も失恋せんのかい!』という周囲の視線を他所に、ラルカさんはこちらを見つめる。


「でも、もしその二人が嫌になったり、僕を好きになったりしたら言ってくれ。即刻、攫いに行く」


「いや、そうはならないから大丈夫!」


「そうそう!間に合っているから!」


 『大人しく片想いに徹しておけ!』と主張する結月さんとシムナさんに、ラルカさんはフッと笑みを漏らす。


「なら、せいぜいラミエルに愛想を尽かされないよう頑張るんだな」


 挑発とも宣戦布告とも捉えられるセリフを口にし、ラルカさんは立ち上がった。

かと思えば、空になったグラスを持ってカウンターへ行く。

恐らく、新しい飲み物(おかわり)を取りに行ったのだろう。

『生追加で』と注文する彼を他所に、結月さんとシムナさんは大きく息を吐き出す。


「あ〜〜〜!もう!隙あらば攫っていく系が、何気に一番タチ悪いんだよ〜!」


「てか、ラルカって本気でラミエルのこと好きだったのー!?てっきり、冗談半分で言っているのかと思ったー!」


「あら、あの子最初からわりと本気(ガチ)だったわよ。冗談っぽく振る舞っていたのは、単なる照れ隠し」


 ここに来て衝撃のカミングアウトを遂げるヴィエラさんに、周囲の人々は『嘘ー!?』と驚愕。

そして、当事者達を置き去りにして恋愛トークを繰り広げた。

が、直ぐに飽きたのかFROの思い出話へシフトチェンジしていく。

もう一年経過しているからか、みんな心の整理は出来ているようで終始楽しそうだった。

さすがにレオンさん達の話になった時は、ちょっと暗い雰囲気だったが。

でも、笑顔を崩すことはなかった。


 そうこうしている間にFROの話題も尽き、今度は────


「私、ヘスティアは来年から大学生だー!ちなみにスポーツ推薦!どうだ、凄いだろう!」


 ────新年の抱負について、話すように。

と言っても基本挙手制だし、強制ではないので言いたくない人は言わなくていい。

さすがにネットの友人(ネッ友)にリアルのことをペチャクチャ喋る訳には、いかないだろうから。

リーダーとか、特に。


「はいはーい!俺、セトは来年から社会人でーす!本当はFROに閉じ込められた時点で大学四年生だったんだけど、現実世界(リアル)に戻ってきた頃にはもう狙っていた企業の面接終わっててさ!だから、敢えて留年してこの一年就職に備えてきたって訳!ちなみに第一希望のところに受かりましたー!」


 『いえーい!』と言って、金髪の男性はジョッキを持ち上げる。

もうすっかり酔ってしまっているのか、顔も首も真っ赤だった。


 あのチャラ男……じゃなくて金髪、セトだったんだ。

ずっと誰かと思っていたよ。


「では、私も……」


 そう言って、席を立ったのは青髪の男性。

格好よくジャケットを着こなし、大人っぽい雰囲気を放つ彼はカチャリと眼鏡を押し上げた。


「『蒼天のソレーユ』のギルドマスター、ニールだ。私は来年から、海外へ行くことになった。あまり詳しくは言えないが、所属している楽団の都合とだけ。まあ、所謂栄転だから共に喜んでくれると助かる」


 『飛ばされたとかではない』と補足するニールさんに、私達は拍手を送る。

だって、海外デビューなんて並大抵の人じゃ出来ないから。

『世界を跨いで活躍する音楽家か』と感心する中、今度はリーダーが席を立った。


「無名だ。俺は来年から、家業の手伝いに専念する。今年はなんだかんだ忙しくて、疎かにしてしまったからな。親に『そろそろ隠居したい』とも言われているし、近いうち社長になるかもしれん」


 いいお酒を飲んで気分が良いのか、リーダーは珍しく自分のことを話してくれた。

それが嬉しくて、私達『虐殺の紅月』のメンバーは夢中で手を叩く。

『本当に社長へ就任したら、お祝いしたいな』なんて思いながら。


「んじゃ、次俺っちね〜!多分、言わなくても分かっていると思うけど、徳正で〜す!来年は新アプリを開発して、ぼろ儲けして、ラーちゃんと旅行に行きま〜す!行き先は秘密〜!てか、まだ決まってな〜い!」


 『旅行を思いついたのさっきだし!』と言い、結月さんはヘラりと笑う。

周囲から『ずるいぞー!』『イチャイチャしやがってー!』という野次を飛ばされても、どこ吹く風だ。

そのメンタルは、ちょっと羨ましい。


「じゃあ、次は私ヴィエラね。私は来年から、新規ブランドを立ち上げる予定。これでも、一応名の知れたデザイナーだから期待してて。絶対、軌道に乗せてみせるから」


 『腕の見せどころね』と自信ありげに微笑むヴィエラさんに、私達は感嘆の声を漏らす。

何となくファッション関係の仕事についているのは知っていた……というか予想していたが、新規ブランドを立ち上げるほどの有名人だとは思わなかった。

『ウチのパーティーメンバーって、実は大物揃い!?』と瞠目する中、ラルカさんが立ち上がる。


「ラルカだ。僕は来年から、就職活動だな。まだ内定なんかは貰っていないが、大学からの推薦を勝ち取って就職する予定。ちなみに希望業種は製菓関係とだけ、言っておく」


 パティシエなどを目指しているのか、ラルカさんは『クマさんのケーキを作りたい』と呟いた。

今も変わらぬクマさん愛に、誰もが苦笑を浮かべるものの、素直に『頑張れ』と応援する。

────と、ここでアラクネさんと田中さんが席を立った。


「え、ええええええ、えっと!あ、アラクネです!私は来年から大学に通います!」


「聞いて驚け、俺の母校だ!」


「せ、専攻は生物で……!」


「これも俺と同じだ!」


「け、けけけけけけ、研究とかいっぱいする予定でしゅ!」


「俺の所属する研究機関とも、結託しながらな!」


 アラクネさんのフォローのつもりか……それとも単に自慢したいだけか、田中さんはちょいちょい合いの手を入れてきた。

かと思えば、『あっ、俺は来年から母校近くへ転勤』とだけ言って席へ戻る。

無論、アラクネさんを連れて。


 この人、本当にブレないな……。

いくつになっても、シスコンを拗らせてそう……。


 『アラクネさんが恋人を作ったら、どうするんだろう?』と考える中、今度はシムナさんが手を上げる。


「次は僕ー!シムナねー!来年は一先ず、受験かなー!」


 数ヶ月後の試験を見据えているのか、シムナさんはやる気満々といった様子。


「一応、難関大学を受ける予定だよー!徳正を追い抜かすには、やっぱ学歴で差をつけるしかないからねー!ま、とりあえず面接練習でもするよー!」


 『学力より、そっちの方が心配だしー!』と言い、シムナさんは手を下ろす。

と同時に、あちこちから声援が送られてきた。

『今のお前なら、いける!』と。

そのおかげですっかり上機嫌になっているシムナさんを一瞥し、私は席を立つ。

緊張のあまり高まる鼓動を宥めつつ、大きく深呼吸した。


「えっと……ラミエルです。私は来年から、就職活動ですかね。とりあえず大学の制度で取れる資格は粗方取ったので、それを活かしていい企業に入れればと思います」


 当たり障りのないことを話す私は、『なんだか、面白味がなくてすみません』と謝る。

でも、周囲の人々は『ラミエルらしくていいよ』と温かい言葉を掛けてくれた。

────その後も来年の抱負の発表は続き、気づけば夜の十時過ぎ。

学生も居るため、忘年会はここでお開きに。

『バイバイ』と手を振って別れ、各々駅やタクシーに向かっていった。

人混みへ消える仲間達の後ろ姿を前に、私と結月さんは顔を見合わせる。


「んじゃ、俺達も帰ろっか」


「はい」


 『運転よろしくお願いします』と頭を下げ、私は結月さんの愛車へ乗り込んだ。

そして、いつものように自宅まで送ってもらい、私はお礼を言って下車しようとする。

────が、扉のロックはされたまま。

『あれ?忘れたのかな?』と思い、後ろを振り返ると、不安げな表情を浮かべる結月さんが……。


「あの、さ……ちょっとだけ、家にお邪魔してもいい?も、もちろん変なことはしないから!ただ、その……話がしたくて……」


 普段は絶対にしないであろう徳正さんのお願いに、私は目を剥いた。

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