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第30話『殺気と苛立ち』

 徳正さんがここまで殺意を露わにするのは……二回目だ。

以前、キレた原因も私を殺されかけたことで……徳正さんがギリギリのところで、庇ってくれたんだよね。

お腹から血を流しながらも敵の首を跳ね飛ばしたあの光景は、今でもハッキリ覚えている。


「女の子を背後から……それも心臓目掛けてナイフを突き出すとか、何考えてんの〜?どんだけクズなんだよ〜」


「ハッ!女であろうと、敵に変わりはない。容赦なんて、する訳ないだろ」


「それがリアルの死に繋がっていたとしても?」


「当然だ」


 リアルの死に直結していたとしても……スネークは躊躇せず、私を殺そうとしたんだ。

PK集団に属する私が言うのもあれだけど……この人は人の心を持っているんだろうか?

殺しをゲームや遊びと勘違いしていないか?

正直、スネークのことが全く分からない。


「御託はいい!死ぬ奴の言葉なんて、聞く価値ねぇーからな!」


「ははっ!まあ、返り討ちに遭わないよう、せいぜい頑張って〜」


「チッ!舐めやがって!お前ら、行くぞ!」


 まだ動けるメンバーにそう声をかけ、スネークは今一度ナイフを構え直す。

チロリと覗く舌先は長く……ペロリとナイフを舐め上げた。


 自分一人では徳正さんを倒せないと判断し、仲間の助太刀を求めたか……。

その考えは間違っていないけど、連携のない集団戦闘に……数の有利などないと思うよ?


 私は毒針を指の間に挟み、自分達を取り囲む『サーペント』のメンバーに集中した。

徳正さんがスネークとの戦闘に集中出来るよう、一人でも多く下っ端連中を片付けようと思って。

この場にピリピリとした空気が流れる中、先に動いたのは────他の誰でもない徳正さんだった。


「隙ありすぎだよ〜ん」


「チッ!」


 徳正さんは私を片手で抱っこしたまま、スネークの背後を取っていた。

本当に驚くほど一瞬で……意図も簡単に。

焦ってナイフを振り回すスネークを嘲笑いながらステップを踏み、全ての攻撃を避けた。

もちろん、私への配慮だって忘れていない。


「チッ!お前らも攻撃しろ!数はこっちが勝ってんだ!」


「「は、はい!」」


 ラルカさんが粗方倒したとはいえ、まだ二十〜三十人ほど敵は残っている。

これだけ居れば、プレイヤー二人を袋叩きにするくらい容易い……が、今回は相手が悪かった。

“影の疾走者”と呼ばれる彼を前に、数の有利など取るに足りない。


 それにまだ徳正さんには、奥の手がある。

まあ、それを使うことはなさそうだけど。


「ラーちゃん、雑魚はお願い出来る?俺っちはちょっと……お山の大将を気取っている蛇と遊びたいからさ〜」


「この人数なら、全然相手に出来ます!大丈夫です!」


「た〜のもしぃ〜!さっすが、ラーちゃん!じゃ、雑魚はよろしく〜」


「はいっ!」


 茶化すようにカラカラ笑う徳正さんはスネークの斬撃をヒラリ、またヒラリと回避する。

蝶が舞うように、優雅に。

そうすることで、スネークを煽っているのだ。


 本当、徳正さんは趣味が悪いですね。


 意地の悪〜い顔をする徳正さんを一瞥し、私は指の間に挟んだ毒針を投げつけた。

すると、近くに居た敵の首筋、腕、太ももに突き刺さる。

回復師(ヒーラー)の攻撃なので痛くはないだろうが、アラクネさんの開発した神経毒により、彼らは体の自由を奪われた。


「くっ……!」


「ぅあ……!」


「っ……!」


 次々と倒れていく敵は、ピクピクと体を痙攣させている。

前のものより即効性が強いのか、敵は一瞬で戦闘不能になった。

『おお、これは凄い』と感心しながら次の毒針を取り出し、私は周囲の敵に目を向ける。


「お、おい……なんか、あの女やばくないか?」


「あいつが投げた何かが直撃した途端、あの三人倒れたぞ……?」


「“叛逆の堕天使”って、ただの回復師(ヒーラー)じゃなかったのかよ!?」


 針を投げつけられたことに気づいていないのか、敵達はすっかり怯えてしまった。

化け物でも見るかのような目でこちらを見つめ、竦み上がる。

そんな彼らに、私は追加の毒針を投げつけた。


「こっちはそろそろ終わりそうなので、徳正さんもいい加減決着をつけてください」


 バタバタと倒れていく敵達を見下ろし、私は『いつまでお遊びを続けるつもりだ?』と注意する。

だって、スネークを倒すチャンスはたくさんあったから。

それなのに敢えて焦らし、敵のプライドをズタボロにしていたのだ。

PK出来ない代わりの制裁として。

『本当に意地悪な人だ』と思いつつ、私は最後の敵を倒す。

────と、ここで急に景色が変わった。


「いやぁ、ごめんね〜?うちのお姫様の雑魚処理が終わったみたいだから、お遊びはここまでなんだ〜。また機会があったら、遊ぼうね〜?」


「かはっ……!」


 一瞬でスネークの背後に回り込んだ徳正さんは、スネークの横腹に暗器を突き刺した────それも二本。


 最近はずっと峰打ちとか手刀とかだったのに、わざわざ切りつけたってことは恐らく……スネークが私を殺そうとしたこと、結構根に持ってるんだなぁ。

まあ、死なないようきちんと手加減はしてるみたいだけど。

でも、瀕死状態に追いやったのは間違いない。


 血反吐を吐いて倒れたスネークを見やり、私は一つ息を吐く。

怒ってくれるのは嬉しいが、あまりにも過激すぎて。

『もうちょっとお手柔らかに出来ないものか』と思案する中、徳正さんは静まり返った廊下を走り出した。

無論、私を抱っこしたまま。


「んじゃ、ラーちゃん急ぐよ〜!ラルカのことだから大丈夫だと思うけど、早めに合流しなきゃね〜!」


「あ、はい!」


 反射的に首を縦に振った私は、徳正さんの体にしっかりしがみついた。


 あの……ところで、私はいつまで抱っこされていればいいの?

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