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第304話『リアムさんの正体』

◇◆◇◆


 なん、だろう……?光が……。


 瞼越しに受ける刺激を前に、私はそろそろと目を開ける。

でも、まだ視界がぼんやりしていて……周囲の状況を理解出来なかった。

ただ、目の前に誰か……複数の人影があるのは何となく分かる。

『誰だろう?』と内心首を傾げていると、不意に────


「ラミエル」


 ────と、私を呼ぶ声がした。

聞き覚えのあるソレにハッとし、私は慌てて意識を覚醒させる。

そして、


「────リアムさん!」


 と、声の主の名を呼んだ。

カッと目を見開く私の前で、シルクハットを被る青年は頬を緩める。


「ははっ。思ったより元気そうだね。安心したよ」


「あ、安心って……!死んだ私と同じ空間に居るということことは、リアムさんも死んでしまったんですよね!?」


 『それなら、一大事じゃない!』と騒ぎ、私は目を白黒させた。

何もない真っ白な空間を見回し、『ここがあの世!?』と困惑する。

すっかりパニックになる私を前に、リアムさんは一瞬キョトンとした表情を浮かべた。

かと思えば、


「あぁ、そういえばラミエルは何も知らないんだったね」


 と呟き、ニッコリ微笑む。

私を安心させるかのようにそっと肩を叩き、『落ち着いて』と促してきた。


「大丈夫だよ、君も僕も……そして、無名達もちゃんと生きている」


「えっ?」


「あのね、実は────」


 リアムさんは復活してからの出来事を事細かに説明してくれた。

ついでにここが何処なのか、も。


 サーバーとシステムの間って、こんな感じなんだ……なんか、不思議。


 『見渡す限り、何もなさそうだけど』と思いつつ、私は前を向く。


「えっと……とりあえず、事情は大体理解しました。説明、ありがとうございます。あと、助けて頂いたことも……」


 『あの時、魔王を食い止めてくれたのも皆さんですよね』と言い、私はリアムさんと彼の仲間にお礼を言った。

が、何故か複雑な表情をされてしまう。

まるで、『自分達は感謝されていい立場じゃない』とでも言うように……。


「ラミエル、君をここに呼んだのは僕達のことを話しておきたかったからなんだ」


「リアムさん達のこと、ですか……?」


「ああ」


 どこか悲しげな表情を浮かべ、リアムさんは『後で話すと言っただろう?』と述べる。

いつになく弱々しい態度を取る彼は、そっとシルクハットを脱いだ。

かと思えば、深々と頭を下げる。他の者達も同様に。


「すまない、ラミエル────君に辛い思いをさせ、大切な友人達を奪ったのは……その元凶は僕達なんだ」


「そ、れはどういう……?」


 若干頬を引き攣らせ、私は自分の中にある疑念を振り払った。

『そうじゃない』と信じたくて……理解を拒んだんだ。

でも、リアムさんは情け容赦なく現実を突きつけてくる。


「改めて、自己紹介するよ。僕は────ハッカーチーム『箱庭』のリーダー、リアム」


「俺は副リーダーのユヅル」


「私はシュナ」


「ナルミ」


 全員すごく辛そうだけど、一切言い淀むことなく名乗った。

『この責任から逃れることは出来ない』と、覚悟を決めている様子で。

どことなく凛とした雰囲気を放つ彼らに、私はもう何も言えなかった。


 やっぱり……そうだったか。

何となく、そんな気はしていた。

最初は『ゲーム関係者の人かな?』なんて思ったけど……それじゃあ、システムやサーバーをいじれることに説明がつかない。

だって、それらは『箱庭』に支配されている筈だから。


 『それでも、ゲーム関係者である可能性に懸けたかったけど……』と、私は肩を落とす。

不思議と怒りや憎しみは、湧いてこなかった。

ただただ失望感が大きいだけ。

胸にポッカリ穴が空いたような心境へ陥りながら、私はゆっくりと顔を上げる。


「いくつか……質問してもいいですか?」


「ああ、もちろん」


 『何でも聞いておくれ』と快く申し出るリアムさんに、私はそっと眉尻を下げた。

その強がりが……空元気が痛々しすぎて。

でも、この場を逃せばもう二度と聞けないと思い、質問を口にする。


「どうして、こんなことを?」


「『こんなこと』というのは、FROでデスゲームを行ったことかい?」


「それもありますが、途中で私達を助けるように動いた理由も全部知りたいです」


「全部、か。君は意外と欲張りだね。でも、嫌いじゃないよ、そういうの」


 『むしろ、大好きさ☆』と語り、リアムさんはシルクハットを再び被った。

自分の表情を隠すかのように深く……。


「じゃあ、順を追って話していこうか」


 そう言って、リアムさんはこちらに背を向けた。

と同時に、後ろで手を組む。


「まずね、僕達はつい最近まで────死がそれほど恐ろしくて、嫌なことだとは思ってなかったんだ」


「!?」


 まさかの事実に目を剥く私は、『そんなことって、有り得るの!?』と驚愕した。

だって、普通はわざわざ説明されなくても何となく分かることだから。

死はとても不幸なことだって。

『時と場合によっては救いになることもあるけど……』と悶々とする中、リアムさんは言葉を続ける。


「これは前にも言ったけど、僕達は『死ぬと、天使になって神様の元へ還るんだ』と信じてきた。周りの大人達にずっとそう言われてきたからね」


 なるほど。宗教的な考えは、そこから来たのか。


 ノースダンジョンの出発前に言われたことを思い出し、私は一人納得する。

────と、ここでリアムさんは後ろに回した手を強く握り締めた。


「まあ、今考えてみるとこれは大人達なりの配慮であり、愛情だったのかな?さすがに────難病持ちの子供達へ『死は怖いこと』なんて、言えなかっただろうし」


「!?」


 『難病』という単語に反応し、ハッと息を呑む私は思わず身を乗り出した。


「ご病気、なんですか……?」


「あぁ、僕達全員ね。今の医療技術では、成人まで生きられないらしいよ」


「『らしいよ』って……」


 あまりにも軽すぎる調子に、私はクシャリと顔を歪めた。

すると、リアムさんは慌ててこちらを振り返り、困ったように笑う。


「すまないね。こんな表情(かお)をさせるつもりはなかったんだけど……昔から、どうも病気の実感が湧かなくてね。一日の大半をここで過ごしているせいかな?」


「えっ?ずっと、ここに?」


「ああ。なんでも、病気や治療による苦痛を減らすためわざと現実世界(リアル)から意識を切り離しているらしいよ。だから、お医者様や親と会うのも基本ここ」


 『彼らの本当の顔なんて、数回しか見てない』と語るリアムさんに、私は目を見開く。

『そんな生活を送っていたのか』と衝撃を受け、困惑した。

でも、妙に納得している自分が居て……。


 リアムさんのアンバランスさは、そこから来ているのか……。

確かに仮想世界(ゲーム)の価値観と大人達の優しい嘘を鵜呑みにすれば、死を……命を軽んじるのも仕方ない気がする。

もちろん、彼らのやったことは許されないし、間違っているけど……でも、一から十まで『お前達のせいだ!』と責めるのは乱暴すぎる。

だからと言って、病気のための措置や大人達の考えが間違っていたとも言えないけど……。


 だって、『死は恐ろしくて嫌なことだ』と教えてしまったら……リアムさん達は毎日、怯えて暮らすことになっていただろうから。

『成人するまで生きられない』と言われた子供達に、残酷な現実を突きつけるのが果たして正しいことなのか……私には分からない。


「皆さんの死に対する認識は、よく分かりました。それで、デスゲームに踏み切った理由は?」


 『ただの暇潰しなんかじゃありませんよね?』と問う私に、リアムさんはスッと目を細める。


「────最後の思い出作りがしたかったから」

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