表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/315

第29話『戦闘開始』

「────断る!返してほしければ、力づくで奪いに来い!」


 声高々にそう言ってのけると、スネークは私達を挑発するようにニヤリと口角を上げた。


 あれま……徳正さんの要求を断っちゃったか。

出来れば、穏便に済ませたかったんだけど……仕方ないな。


「ふふっ。そう来なくっちゃね〜。久々に大暴れしちゃおっか〜!」


『そうだな。殲滅させてもらおう』


「言っておきますけど、PKはダメですからね!あくまで、No.6さんの奪還が目的なんですから!」


「分かってるよ〜。あっ、ラーちゃんは俺っちの傍から極力離れないでね〜。フォロー出来る位置に居て〜」


『ラミエルのことは頼んだ。僕は前線に出る』


 徳正さんとラルカさんはそれぞれ武器を手に持つと、地下に居る敵を見下ろした。


 私の役割は徳正さんと共に、ラルカさんのやり損ねた残党を殲滅すること。


 瞬時にそう理解した私はゆっくりと立ち上がり、足の踏み場もないほど人の密集した地下空間に苦笑を漏らす。

どうやら、私達が会話を交わしている間にスネークが仲間を呼び寄せたらしい。


「あれじゃ、動きづらいでしょ〜」


「戦闘配置に問題ありですね」


『何でもいい。とりあえず、僕は先に行かせてもらう』


「ほーい。気をつけてね〜」


「ご武運を」


 ホワイトボードをアイテムボックスに収納したラルカさんは、私達の言葉に軽く頷き────地下に降り立った。

ハシゴを使わなかったのは、隙を見せないためだろう。

『降り方にもよるけど、背中がガラ空きになるもんね』と考える中、ラルカさんは敵の顔面を踏みつける。

と同時に、ジャンプして鎌を振るった。

たった一振りで竜巻すら起こすソレは、目前の敵を一気に蹴散らす。

直接鎌で攻撃しないのは、己のATKの高さを自覚しているからだろう。


「それにしても……爽快ですね、これ」


「ね〜。どんどん敵が片付いて行くから、見てて気持ちいい〜」


 敵の顔や肩を踏みつけ、ジャンプする度に大鎌を振るうラルカさんの姿に、私達は目を細める。

『もう敵の七割を片付けちゃったよ』と感心する私達を前に、スネークは呆然とした表情を浮かべていた。

まさか、こんなに強いとは思わなかったらしい。


 ラルカさんが実際に戦っているところは初めて見たけど、凄い……。

敵の不意打ちにも焦らず対処してるし、人数の多さにビビる様子もない。

息をするかのように簡単そうに敵を蹴散らす姿は、まさに死神……。


「ラルカ〜、後は俺っち達がやるから先行っていいよ〜。No.6のことは、よろしくね〜ん」


 出入口付近に集まった敵の約八割を倒したラルカさんに、徳正さんは声をかけた。

『行け行け!ゴーゴー!』と言わんばかりに手を振り、送り出す彼に、ラルカさんはコクリと頷く。

そして周囲の敵を一旦薙ぎ倒すと、残党をそのままに前へ進んだ。

間もなくして、ラルカさんの背中は見えなくなる。

『本当に早いな〜』と苦笑していると、徳正さんが私を小脇に抱えた。


「えっ?あの……?」


「んじゃ、俺っち達も下に降りますか〜」


「いや、あの……私、自分で降りれ……ぅお!?」


 私の反対意見をスルーし、徳正さんは何の合図もなく地下に降り立つ。

私を小脇に抱えたまま……。

幸い、下に敵という名のクッションがあったため、振動はあまり伝わって来なかったが、肝を冷やしたのは言うまでもない。

せめて、合図くらいはほしかった。


「……徳正さんは後で説教です」


「えっ!?嘘っ!?」


「本当です。というか、もうそろそろ降ろしてください」


 当然かのように私を小脇に抱えたまま歩いているけど、結構これ辛いんだからね!

それにこの状態じゃ、お互いに戦いにくいじゃない!


「んも〜!分かったよ、降ろすって〜。あーあ、これなら合法的にラーちゃんに(さわ)れると思っ……いたっ!?」


 心底嫌そうに……本当に仕方なさそうに私を降ろしたかと思えば……!それ、ただのセクハラじゃん!


 徳正さんの横腹を思い切り肘で突いた私は、ギロリと睨みつける。


「次、セクハラしたら毒針で刺します」


「す、すみませんでした……」


 分かれば、よろしい!


 アイテムボックスから取り出した毒針を一旦下ろし、私は『ふんっ!』と鼻を鳴らした。


「……俺様はなんつーものを見せられてんだ?夫婦漫才なら、他所でやっ……」


「夫婦じゃありません!お見苦しい姿を見せたことは謝りますが、決して……決して!私と徳正さんは、夫婦なんかじゃありません!」


「ラーちゃん……そこまで全力で否定しなくても……」


 夫婦というキーワードを全力で否定する私に、徳正さんはグスンと鼻を鳴らす。

また、セレンディバイトの瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。


 えっ?ちょっ……!?ガチ泣き!?ま、待って……!そんな泣くなんて思わな……


「────チッ!今なら行けると思ったんだけどなぁ」


「甘く見ないでほしいね〜。ていうか、ラーちゃんを背後から襲うとか覚悟出来てんの〜?」


 すぐ後ろでキンッという金属音がしたかと思うと、私は徳正さんに抱き寄せられていた。

訳が分からず後ろを振り向けば、スネークのナイフを暗器で受け止める徳正さんの腕が目に入る。


 な、にが……?


 辛うじて守ってくれたことは分かるものの、イマイチ状況を掴めずにいた。

目を白黒させる私の前で、徳正さんは至って簡単そうにスネークのナイフを暗器で押しのける。

と同時に、片手で私を抱き上げ、素早く距離を取った。


 スネークも高レベルプレイヤーの筈なのに、徳正さんは私を庇いながらきちんと戦えている。

前々から強い強いとは思ってたけど、まさかここまでとは……さすが、ランカー。


 職業別ランキング第一位の徳正さんは、FRO発売開始からずっと一位を守っている。

未だ嘗て、彼を抜かせた者は一人も居ない。

改めて、自分の傍に居る彼は凄い人物なのだと再認識した。


「さてさて〜、うちの可愛いラーちゃんを襲おうとした落とし前────つけてもらおうか〜?」


 私を抱っこしたまま暗器を構える徳正さんは、セレンディバイトの瞳に明らかな殺意を滲ませた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ