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第298話『シムナさんの得意分野』

「で、でででででででで、出来ました!!!」


 それぞれ一本ずつ鎖を繋げた金と銀の斧を掲げ、アラクネさんは満足そうに微笑んだ。

達成感に見舞われているのか、いつもよりテンションが高い。


「ど、どうぞ!」


「ありがとー!」


 差し出された金と銀の斧を受け取り、シムナさんはピョンピョン飛び跳ねた。

『これで僕も戦えるー!』といきり立ち、魔王へ視線を向ける。

すっかり好戦的な雰囲気を漂わせる彼の前で、魔王は失った右手に眉を顰めた。


「……なかなか、やるようだな」


「いや、手首を斬り落としたのは自分自身じゃーん!何言ってんのー?記憶喪失ー?もしかして、もうボケちゃったー?」


 ブンブンと二つの斧を縦に振り回しながら、シムナさんは『おじいちゃんじゃーん』と叫ぶ。

相変わらず煽り性能の高い彼に対し、魔王はピクッと眉を動かした。

が、ダンジョンボスや四天王のように怒り狂うことはない。

ただ、やはりムカつくようで……少しばかり不機嫌になっていた。


 魔王にも一応感情って、あるんだ……。


 と変なところで感心する私を他所に、シムナさんはかなり勢いのついた斧を投げる。

ヒュンッと風を切って前に進んでいくソレらを鎖で操り、軌道を修正した。

さすがは狙撃手(スナイパー)とでも言うべきか、調整が上手い。

『おお……!』と感嘆の声を漏らす私の横で、シムナさんは得意げに笑った。

かと思えば、


「出し惜しみはナシって、話だったよねー?じゃあ────スキル|《未来眼》発動!」


 限界突破(オーバーライン)で得たスキルを使い、更なる無双を始める。

『いや、今のままでも充分ですけど!?』と叫びそうになる私を他所に、彼は左目をキラリと光らせた。

あまりにも贅沢すぎる使い方に唖然とする中、シムナさんは右へ左へ鎖を動かす。

それに合わせて金と銀の斧は揺れ、微かに方向を変えた。

と同時に、黒い羽根が元いた場所へ突き刺さる。


「!?」


 それで斧を防御する筈だった魔王は、『話が違う!』と言わんばかりにポーカーフェイスを崩した。

動揺を露わにしながら玉座から立ち上がり、攻撃を回避しようとする。

だが、しかし……


「もう遅いよー!」


 シムナさんの方が一枚上手だったようで、魔王の腹を貫いた。

しかも、二回。

『うわぁ……あれは痛そう』と頬を引き攣らせる中、魔王は見事吐血する。


「やったー!成功ー!」


 両手を上げて大喜びするシムナさんは、ピョンピョンと飛び跳ねる。

と同時に、魔王は直ぐさま斧を引き抜いた。

どうやら、ジャンプの振動が鎖を伝って斧に来ていたようで地味に痛かったらしい。

『クソッ……』と呟き、玉座へ戻ろうとする彼を前に、私達は顔を見合わせた。


「もしかして、シムナさんの『未来眼』って……魔王と相性いいんでしょうか?」


「それはあるかもね〜」


『なら、どんどん活用していこう』


「痛いところはとことん突け、って言うしな」


「これなら、思ったより楽に討伐出来るかもしれないわね」


「ま、まままままま、魔王にギャフンと言わせる日も近いですね!」


 誰もがシムナさんに期待と尊敬の眼差しを向け、『よくやった!』と褒め称える。

そのおかげか、シムナさんはすっかりご機嫌だ。


「魔王なんて、僕の敵じゃないよー!」


 『単騎決戦でも行けるかもー!』なんて言い出すシムナさんに、私達はクスクスと笑みを漏らす。


 さっきまで『長期戦になるかも……』と少し不安になっていたけど、その心配はなさそう。


「んじゃ、ニ撃目いっくよー!」


 金と銀の斧を引っ張って回収し、シムナさんは再びブンブンと振り回し始める。

それを合図に、私達も攻撃やサポートに戻った。


「シムナさん、今度はリーダーの攻撃を魔王に当てられるよう調整して頂けませんか?」


「えー!それじゃあ、僕の見せ場はー?」


 出鼻をくじかれたような心境なのか、シムナさんは不満げに口先を尖らせた。

せっかく上機嫌だったのに、あっという間に拗ねてしまう。

『裏方なんて、嫌だ!』と文句を言う彼に、徳正さんとラルカさんは肩を竦めた。


「も〜!シムナってば、文句言わないの〜!」


『聖剣エクスカリバーは属性関係なくダメージを与えられるんだから、シムナが普通に攻撃するよりずっと効果的だ。ここは一つ大人になって、理解を示せ』


「それに他人の攻撃をサポートって、かなり難しいんだよ〜?誰にでも出来ることじゃないんだって〜!」


『完璧にやり遂げたら、きっと皆褒めてくれる』


 シムナさんにしか出来ないということを前面に出し、二人は説得を重ねた。

すると、シムナさんは僅かに態度を軟化させる。


「しょうがないなー。そこまで言うなら、やってあげるー」


 まだちょっと拗ねているものの、シムナさんはようやく首を縦に振ってくれた。

『魔王戦だから、特別に』と言い、彼は前を向いた。

と同時に、魔王の放った黒い羽根を軽く蹴り飛ばす。

パァンと音を立てて弾け飛んだソレを前に、


「不意討ちを狙うなら、もう少し思考を凝らしてよー」


 と、苦言を呈した。

相変わらず余裕綽々な彼に対し、魔王はチッ!と舌打ちした。

腹に空いた穴を押さえつつ、玉座にふんぞり返る彼は『さすがにあの程度じゃ、無理か』と呟く。


 魔王も大分、焦ってきているみたい。

HPもかなり削れてきたし、ここら辺で大ダメージを与えたいところ……。


「リーダー、狂戦士(バーサーカー)化とスキルを」


「分かった」


 ちょうど同じことを考えていたのか、リーダーはすんなり了承した。


狂戦士(バーサーカー)化、20%……|《狂剣乱舞》」


 絶対に命中すると信じてかなり奮発するリーダーは、『準備万端だ』とでも言うように小さく頷く。

それを見て、徳正さんとラルカさんは影さんとクマのぬいぐるみを露払い役として動かした。

向かってくる黒い羽根を取り込み、薙ぎ倒す彼らの前で、シムナさんとリーダーは武器を投げる。

真っ直ぐ魔王に突進していく聖剣エクスカリバーに反して、金と銀の斧は何度も軌道を変えていった。

まるで、魔王を翻弄するかのように。


「同じ手に引っ掛かる訳なかろう」


 そう言って、魔王は黒い羽根を消し────短剣を手に持った。

恐らく、また攻撃の方向を変えるつもりなのだろう。

でも────


「それはこっちのセリフだよ〜」


 ────徳正さんのクナイによって、短剣を取り落とす。

魔王は『あっ……』と声を漏らし、慌てて身を屈めた。

────が、聖剣と斧の接近を察知し、一旦短剣の回収は諦める。

『とりあえず、聖剣だけは避けよう』と身を捩り、軌道から逃れた。

意地でも玉座から降りたくないのか、座ったままの体勢である。


「うわー!何その格好ー!超無様ー!ウケるー!てかさー!」


 グイッと金の斧を引っ張り、シムナさんは無邪気に笑う。


「────僕が回避を許すと思うー?」

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