第288話『ノースダンジョン攻略のクリア報酬』
────ノースダンジョン攻略を終え、“黒曜の洞窟”にトンボ帰りした私達『虐殺の紅月』は、同盟メンバーに温かく迎え入れられた。
これまでと違い、パーティーメンバー全員で会議に出席することになり、いつもの部屋へ通される。
そこには、『蒼天のソレーユ』のギルドマスターであるニールさんや『田中研究所』のギルドマスターである田中さんの姿があった。
が、やはりと言うべきか……『紅蓮の夜叉』のギルドマスターであるヘスティアさんは居ない。
恐らく、まだ部屋に閉じ籠っているのだろう。
私達がここを立ってから、まだ一日も経っていないからね……心の整理をつけるには、まだ時間が必要な筈。
それに一応、ギルドマスター代理としてリアムさんやセトの姿もあるし……不義理を働いた訳では、ないだろう。
『早く立ち直ってくれると、いいのだけど』と心配する中、
「全員、席についてくれ」
と、ニールさんが声を掛けてきた。
その途端、場は一気に静まり返り、みんな椅子に腰を下ろす。
どことなくピリピリとした空気が放たれ、私は背筋を伸ばした。
まあ、ウチのパーティーメンバーは相変わらずだけど……。
『ふわぁ……』と欠伸したり、ネイルを塗り直したりと忙しい彼らに、私はやれやれと頭を振る。
『頼むから、大人しくしていてよ……』と願う中、ニールさんはカチャリと眼鏡を押し上げた。
「それでは、これより同盟会議を始める。司会は私ニールが務める」
そう前置きしてから、ニールさんはふとこちらを見る。
「手始めに、ノースダンジョンの結果報告を聞かせてくれ」
「ああ」
ノースダンジョン攻略チームの代表として返事するリーダーは、一度席を立った。
アイテムボックスでも操作しているのか、空中をタップしながら口を開く。
「まず、ノースダンジョン攻略は無事成功した。損害もほぼ0に近い。見ての通りウチのメンバーはピンピンしているし、貰ったアイテムだってほとんど消費していない」
余裕で攻略出来た事実を答えるリーダーに、周囲の人々は『おぉ……』と控えめに声を上げる。
イーストダンジョン攻略やサウスダンジョン攻略を通して、我々の実力は知れ渡っているため、もはや驚きを感じないのだろう。
『うん、そうなると思っていた』と言わんばかりの反応を前に、リーダーは二つのアイテムを取り出した。
「で、ノースダンジョン攻略のクリア報酬についてだが────守護符だった」
取り出したアイテムのうち一つを摘み上げ、リーダーはヒラヒラと揺らす。
一見ただの紙にしか見えないソレを前に、同盟メンバーは小首を傾げた。
「結界符みたいなもんか?」
まじまじと守護符を見つめ、田中さんは『ロボットじゃないのかよ』と悪態をつく。
アスタルテさんの強い要望によりアイテム製造班のリーダーに就任はしたものの、相変わらずロボット以外に興味は湧かないらしい。
『ちょっと、お兄ちゃん……!』と咎めるアラクネさんに軽く睨まれ、田中さんは両手を挙げる。
『わりぃわりぃ』と謝りつつ、リーダーを見つめた。
『で、実際どうなんだ?』とでも言うように。
「確かに効果は結界符に近いな。結界符の強化版と言えば、分かるか?」
アイテムの説明文も読んでいるのか、リーダーは何もないところに視線を向ける。
「詳しい効果内容としては、こうだ────どんな攻撃も一度だけ、防ぎ切る。使用方法は結界符と同じく、破ること。効果範囲は対象者を中心に、半径四十センチ」
「つまり、お一人様用ってことか」
「誰に持たせるかによって、大分変わってくるな」
田中さんとニールさんは神妙な面持ちで、リーダーの持つ守護符を見つめた。
『使い所を間違えないようにしないとな』と思案する彼らの前で、リアムさんがふと口を開く。
「それはそれとして────そっちのブレスレットは一体、何なんだい?」
『そっちもノースダンジョン攻略のクリア報酬?』と尋ね、リアムさんはパチパチと瞬きを繰り返した。
不思議そうに……そして、どこかワクワクした様子で返答を待つ彼に、リーダーは
「こっちは────全ダンジョン攻略クエストのクリア報酬だ」
と、答える。
至って、平然と……ごく当たり前のように。
いや、あの……それを早く言ってよ!?
ビックリしすぎて、心臓飛び出るかと思った!
『だから、アイテムを二つも出したのか!』と納得しつつ、私は周囲を見回す。
すると、氷のように固まっているニールさんや『はっ……?』と声を漏らす田中さんが視界に入った。
『嗚呼……やっぱり、そういう反応になるよね』と共感を示す中、同盟メンバーは一様に溜め息を零す。
もはや、マイペースの化身とも言える『虐殺の紅月』に何を言っても無駄だと思っているのか、それとも単純に呆れているのか……皆、何も言わない。
いや、うん……気持ちは分かるよ。でもね、リーダーはまだマシな方なの。
一応、ウチのパーティーでは常識人の部類に入る……筈。多分。恐らく。
「悪い。先に言った方が良かったか?」
周囲の反応を見て思うところがあったのか、リーダーは一応謝罪する。
が、いつものポーカーフェイスのため特に申し訳なさは感じない。
『そんなに重要なことか?』と驚いているであろうリーダーに対し、ニールさんは
「いや……気にするな。『手始めにノースダンジョン攻略の結果報告を』と言ったのは、こっちだから」
と、口にした。
全ダンジョン攻略クエストについては一切言及してなかったため、こうなるのも仕方ないと割り切ったようだ。
実に大人な対応である。
「とりあえず、そのブレスレットが何なのか教えて貰ってもいいか?」
「ああ」
コクンと頷いたリーダーは、テーブルの上に置いてあったブレスレットを一度手に取る。
パールとダイヤモンドを組み合わせたかのようなソレは、光に反射して煌めいた。
「これはさっきも言った通り、全ダンジョン攻略クエストのクリア報酬だ。アイテム名は────勇者の資格」
「「「!?」」」
ここに来て出てきた勇者の単語に、同盟メンバーは大きく目を見開いた。
もちろん、我々『虐殺の紅月』も。
もしかして、そのアイテムの効果って……。
一縷の望みを見出し、私は期待の籠った目でブレスレットを見つめた。
『お願い、そうであって!』と願う中、リーダーはアイテムの説明を始める。
「これはその名の通り、勇者に関係するアイテムだ。勇者以外のプレイヤーに対する救済措置とでも言おうか……とにかく────勇者になれるアイテムなんだ」
「なれる、というのは具合的にどういう意味だ?」
『勇者に転職出来るのか?』と問い掛けてくるニールさんに、リーダーは首を横に振った。
「凄く簡単に効果を説明すると、これを身につけることによって────勇者しか使えない聖剣エクスカリバーを使えるようになるんだ」
本日より、更新を再開いたします。
(ずっとお休みしていて、すみませんでした)
特にアクシデントがなければ、“最終話まで”毎日更新を行う予定です。
ラミエル達の最後を一緒に見届けて頂けますと幸いです。
何卒よろしくお願いいたします。




