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第280話『優勢』

 愛刀を鞘にしまった徳正さんは、素早い手つきで鱗に手を添えると、一気に引っ張る。

ランカーの怪力に黄金の鱗はあっさりと白旗を上げ、剥がれてしまった。

五分も経たずに二枚目の鱗を引き剥がされた神龍(シェンロン)は、悲鳴にも満たない唸り声を上げる。


 痛みに苦しむ神龍(シェンロン)は、お腹に乗る徳正さんを振り払うように、ジタバタと暴れ回った。

剥いだ鱗を小脇に抱える徳正さんは『ここで無理をする必要はない』と判断したのか、素直に地上へ飛び降りる。

血も涙もない鱗剥ぎに、私は『ごめん、神龍(シェンロン)……』と謝るしかなかった。


 効率よく、ダメージを与えることはできるけど、心が痛むな……。だって、あんなの皮膚を引き剥がしているようなものじゃん。まあ、戦法としては悪くないから、何も言わないけど……。


 『同情で勝利は掴めない』と自分に言い聞かせ、私は戦況を見守った。

氷の上で待機する男性陣は飛び乗るタイミングでも窺っているのか、神龍(シェンロン)の動きを観察する。

そして、奴に僅かな隙が生まれると────みんな一斉にジャンプした。

後先考えずに神龍(シェンロン)の背中に乗った彼らは、蝶の羽を毟るように龍の鱗を剥ぎ取っていく。

一方的な蹂躙とも言える攻撃に、神龍(シェンロン)は再び悲鳴を上げた。


『ぐぎゃぁぁぁあああ!!人間の分際で、龍たる私になんてことをぉぉおおおお!?恥を知りなさい!愚かなる人間め!』


 徐々に痛みに慣れてきたのか、神龍(シェンロン)は必死に毒を吐く。

自殺行為とも言える上から目線に、徳正さん達の怒りゲージは確実に溜まって行った。

火に油を注ぎ続ける神龍(シェンロン)に、私は思わず頭を抱える。


 賢そうに振舞っているけど、中身はただの馬鹿じゃない!この状況で、徳正さん達を煽るのは愚策でしかないよ!


 『もっと考えて、行動しよう!?』とツッコミを入れながら、私は一つ息を吐いた。

どんどん禿げていく神龍(シェンロン)の背中を見つめ、呆れ返る。

『それ見たことか』と(かぶり)を振りながら、次の段階に移るべきか思い悩んだ。


「もうそろそろ、禿げた……じゃなくて、鱗の剥がれた部分に攻撃を仕掛けるべきでしょうか?」


 みすぼらしい姿になった神龍(シェンロン)を見つめつつ、私はヴィエラさんとアラクネさんに相談する。

鱗剥ぎはあくまで貫通ダメージを与えるための下準備に過ぎないため、ぶっちゃけ全部剥ぐ必要はなかった。というか、ちょっと可哀想なので、もうそろそろやめてほしい。


「そうね。鱗のない部分も充分確保できたし、いいんじゃないかしら?」


「わ、わわわわわわ、私も良いと思います!」


 首振り人形の如く、コクコクと何度も頷くアラクネさんは、ヴィエラさんの意見に同意する。

私も大体同じような意見なので、『そうですね』と二つ返事で了承した。

そして、男性陣に協力を仰ぐべく、鱗剥ぎに夢中な彼らに手を振る。


「お取り込み中、すみませーん!もうそろそろ、鱗の剥がれた部分に攻撃を仕掛けて頂いても、よろしいでしょうかー!?」


 大声で彼らに呼び掛ける私は、『本格的に攻撃を始めたい』と申し出る。

傍で聞いていた神龍(シェンロン)はギョッとするものの、男性陣は待ってましたと言わんばかりに大きく頷いた。


「もっちろーん!任せといてー!」


『しっかり痛めつけるから、安心してくれ』


「ラーちゃんを馬鹿にした報いは受けさせるよ〜」


「ようやく、攻撃開始か。(たぎ)ってきたな」


 鱗剥ぎは攻撃にカウントしていないのか、リーダーは『やっと攻められる』と大喜びだった。

気合い充分の彼らは、アイテムボックスに仕舞った武器を再び取り出し、それぞれ握り締める。

活き活きとした表情を浮かべながら、彼らは我先にと地面を蹴り上げた。

でも、こちらの話を聞いていた神龍(シェンロン)が大人しく背中に乗せる訳もなく……リーダー以外は上手く躱されてしまう。


「ミミズのくせに避けるなんて、生意気なんだけどー!僕も攻撃したーい!」


『あともう少しだったんだが……残念だ』


「重力操作が地味に痛いね〜。空中で上手く方向転換が出来なかった〜」


 ふわりと地面に着地したシムナさん、ラルカさん、徳正さんの三人はブーブーと文句を垂れる。

不貞腐れる彼らを他所に、唯一飛び乗りに成功したリーダーはおもむろに大剣を振り上げた。

かと思えば、勢いよく剣を振り下ろし、神龍(シェンロン)の皮膚に突き刺す。


『ぐぎゃぁぁぁぁああああ!?神聖な体になんてことをぉぉぉおおお!?』


 絶叫する神龍(シェンロン)は痛みのあまり、のたうち回った。

私達の見立て通り、神龍(シェンロン)の皮膚に攻撃を防ぐ効果はないようで、普通に出血する。

真っ赤な血を飛び散らせながら暴れ回るおかげで、ボスフロアは一部赤く染まった。

『子供には見せられない光景だな』と苦笑いする中、リーダーは何食わぬ顔で地面に降り立つ。


「効果は抜群のようだな。この調子でどんどん攻めて行くぞ」


 徳正さん達に淡々と指示を出すリーダーは、おもむろに返り血を拭った。

『鉄臭いな』とボヤく彼の前で、徳正さん達はグッと足腰に力を入れる。


「りょーかーい。一気に畳み掛けて、倒しちゃおっか〜」


「だねー!さっさと終わらせて、祝杯をあげに行こー!」


『思ったより、早く終わりそうで良かった。また鱗に苦戦するのは嫌だからな』


 思い思いの言葉を並べる彼らは、神龍(シェンロン)の動きを観察しながら、ジャンプした。

痛みのあまり、冷静さを失う奴の背中に飛び乗ると、それぞれ武器を構える。そして────情け容赦なく、攻撃を仕掛けた。

皮膚を刺され、抉られ、切り落とされた神龍(シェンロン)は何度目か分からない悲鳴を上げる。もはや、理性を失いかけているのか、ガンガンと自身の頭を壁に打ち付けた。


「……さすがにちょっと可哀想ですね」


「あら?そう?これくらい、普通だと思うけど。だって、うちの可愛いラミエルちゃんを馬鹿にしたのよ?当然の報いでしょう?」


 思わず同情してしまう私に、ヴィエラさんはケロッとした顔でそう答える。

隣に立つアラクネさんも『そうですよ!』と言わんばかりに、何度も頷いていた。


 怒ってくれるのは嬉しいけど、二人とも本当に容赦ないな……。まあ、私も同じ立場だったら、めちゃくちゃ怒っていただろうけど。


 仲間第一の私は『神経毒で身動きを取れなくして、一方的に殴ってやる』と考えながら、戦況を見守った。まあ、勝敗などもう分かり切っているが……。

現在進行形で、集団リンチを受ける神龍(シェンロン)は、もはや半泣きだった。絶叫と暴走を繰り返し、理性はほとんど残っていない。

『ボスフロアを血の海にでもするつもりか?』という勢いで切りつけられ、大量出血している。


 ご自慢の重力操作はあっさり破られ、頼みの綱である鱗も無力化された。ここまで来れば、私達の勝利は確実だろう。


 ────でも、なんだろう?この不安感は……。

ダンジョンボスとの戦いって、こんなに簡単でいいの?この調子なら、本当に直ぐ終わっちゃうけど……。私達と神龍(シェンロン)の相性が良かっただけ?

そもそも、神龍(シェンロン)の能力って、重力操作だけなの?あまりにもシンプルすぎない?もちろん、主体となる能力はそれだろうけど、他にもっと持ってないの?


 紆余曲折はあったものの、比較的簡単に終わりそうなボス戦に、私は不審感を抱く。本当にこれで終わりなのか?と……。

着実に進んでいく神龍(シェンロン)の討伐に、一抹の不安を抱いていると────奴は突然カッと目を見開いた。


『もうこれ以上、我慢できません!────奥の手(・・・)を使わせて頂きます!』

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