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第258話『第六階層』

 それから、一気に上層を駆け抜けた私達は中層の始まりである第六階層まで来ていた。

薄暗い洞窟内で、私達は獣の姿をした魔物(モンスター)と向き合う。

我々『虐殺の紅月』の前に立ちはだかるのは─────九尾(きゅうび)と呼ばれる狐だった。

九本あるフサフサの尻尾を揺らす九尾は成人男性ほどの大きさで、ほっそりしている。おまけに奴は二足歩行だった。


 ノースダンジョンは別名アジアダンジョンと呼ばれており、日本のあやかしやアジア諸国の神獣を参考にした魔物(モンスター)が多いのが特徴だ。


「皆さん、気をつけてください!九尾は強烈な火炎魔法と変身スキルを使ってきます!サウスダンジョンで戦ったルナールと違い、我々の姿に化けることも出来るので注意してください!」


 お色気お姉さん以外にも化けられると語り、私はアイテムボックスから純白の杖を取り出した。

非戦闘要員の私やアラクネさんを囲むように陣形を整える戦闘メンバーは剣先を九尾に向ける。


「雑魚っぽいし、このまま殺っちゃう〜?」


「えー!それじゃあ、直ぐに終わっちゃうじゃーん!詰まんなーい!」


『せめて、奴らの持つ変身スキルくらいは見てみたいな』


 実に能天気と言うべきか、うちの三馬鹿は娯楽ついでに九尾の実力を推し測ろうとしていた。

彼らが本気を出せば一時間と待たずに片が付くのに、だ。

『舐めプもいいところだ』と半ば呆れていれば、正面に佇む九尾たちが突然────ポンッと白い煙に包まれる。

アニメでよくありそうな演出に『まさか……』と危機感を覚える中、煙が晴れた。


 え、待って……?あれって、もしかして……。


「────あははははははっ!!ウケるんだけどーー!何でよりによって、それなのー!?」


『化ける相手を間違えたな、九尾共よ』


「さすがに同じ顔がこんなにあると、鬱陶しいわね」


「で、でも!か、かかかかかか、完成度は高いですね!」


「ああ、本当にそっくりだな」


 各々好きな感想を述べる彼らは大爆笑するシムナさんを除いて、頬を引き攣らせている。

私達の視線の先には変身スキルを使って、プレイヤーに化けた九尾が居た。そして、その化けたプレイヤーというのが────徳正さんだったのだ。


「はぁ〜!?何これ〜!?全っ然、俺っちに似てないんだけど〜!馬鹿にしてる〜!?」


 屈辱のあまり声を荒らげる徳正さんはかなりご立腹の様子だった。

今すぐにでも九尾(偽物)に斬りかかりそうな彼を前に、シムナさんは更に爆笑する。

バシバシと床を叩いて蹲る彼は『マジでお腹痛いんだけどー!』と叫んだ。


 それにしても、本当に凄いな。服装まで徳正さんにそっくりだ。これじゃあ、見分けがつかない。今は場所を移動していないから、本物と偽物の区別がつくけど、ごちゃ混ぜになったら困るかも……冗談抜きでどれが本物の徳正さんなのか分からなくなる。


 『最悪、同士討ちも有り得るんじゃ……』と危機感を抱く中、九尾たちは一斉に襲い掛かって来た。

対象者の持ち物も再現出来るのか、妖刀マサムネを持って切り込んでくる────が、しかし……そんな事で怖気付く我々ではなかった。


「ひゃっほーい!徳正狩りだー!」


 嬉々として大量生産された偽物の徳正さんに殴り掛かるシムナさんはご機嫌だった。

斧で切り刻むより、素手でボコボコにしていく方が楽しいのか、武器は一切持っていない。

返り血を浴びて笑うシムナさんは狂気に満ち溢れていた。


『まあ、似ているのは見た目だけで、中身はただの雑魚だがな。正直ガッカリだ』


「確かにちょっと弱すぎるねー!でも、徳正をボコれる機会なんてほとんどないじゃーん!それにこれだけ似ていれば、間違って本物を殴っても文句は言われないでしょー?」


『なるほど』


「いや、『なるほど』じゃないから!!ていうか、そんなに俺っちのことをボコりたかったの!?ちょっと酷過ぎない!?」


 ラルカさんとシムナさんの狂気的な会話に、本物の徳正さんは思わずツッコミを入れる。

私の傍にピッタリ張り付く彼は接近してくる偽物を徹底的に排除しているため、本物で間違いなかった。


 これなら、偽物とごちゃ混ぜになることはなさそう。


「ていうか、皆もっと俺っちを心配してよ!?相手は本物かもしれないのに容赦なさ過ぎない!?一瞬の躊躇いもなく、攻撃するじゃん!!」


 襲い掛かってくる偽物を淡々と処理していくパーティーメンバーに、徳正さんは『俺っちの扱いが酷すぎる!』と嘆く。

俺達の友情と絆はどこに行ったのかと騒ぐ彼を前に、リーダーは溜め息を零した。


「本物の徳正なら、まず俺達の攻撃なんて簡単に避けられるだろ。仮に当たったとしても、死ぬことはない。皆、お前の実力を信じているから遠慮なく偽物を攻撃しているだけだ」


「主君……」


 信頼が成せる技だと知り、徳正さんはちょっと感動している。

『チョロいわね、あの子』とヴィエラさんがボソッと呟く中、二人のプレイヤーが密かに動き始めた。

それぞれ武器を手に持つ彼らは突風と共に徳正さんの背後に移動する。


「あーれー?こんなところにも偽物が居るー!」


『おっと、それは排除しないといけないな』


 思い切り武器を振り上げるシムナさんとラルカさんはこれみよがしに『わざとじゃないよ』アピールをする。

あからさまな二人の態度に若干引いていると、振り上げられた斧と鎌が勢いよく振り下ろされた。

と同時に突風が吹き荒れ────さっきまでそこに居た筈の徳正さんが二人の背後に回っている。


「だ〜れ〜が〜!偽物だって〜?絶対に本物だって分かってて襲って来たよね〜?」


 ガシッと二人の肩を掴む徳正さんは額に青筋を浮かべ、威圧感を放つ。

『久々のマジギレでは?』と他人事のように考える中、ヴィエラさんが残り一体の九尾を氷漬けにした。


「全く、あの三人は相変わらず騒がしいね。せっかく、九尾の討伐が終わったのにこれじゃあ先へ進めないわ」


 そう言って、肩を竦める彼女は彼らの喧嘩を止める気はないようで、自身の髪を指に巻き付ける。

『早く終わんないかしら?』と零す彼女の前で、三馬鹿はバチバチと火花を飛ばし合った。


「だーかーらー!わざとじゃないんだってー!そんなに怒る必要ないじゃーん!」


「脳天目掛けて、斧を振り下ろしてきた奴が何言ってんの〜?怒るに決まってるじゃん!」


『まあ、落ち着け。人間、誰しも失敗はある』


「いやいや!他人事のように言っているけど、ラルカも俺っちの肩を切り落とそうとしたじゃん!シムナと同罪だからね!?」


 『殺す気満々だったの知っているよ!?』と叫ぶ徳正さんに、シムナさんとラルカさんはフイッと視線を逸らした。

真相解明を避ける彼らの態度に、徳正さんは目くじらを立てる。

────水掛け論に近いこのやり取りは結局、三十分ほど続いた。


 今回の件に関しては完全にとばっちりだから、徳正さんが不憫だな……と思ったのはここだけの話である。

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