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第246話『完璧な連携』

 セトの聖魔法により、皮膚が露わになったそこは簡単に刃が通り……ブシャッと血が吹き出る。

赤黒い液体は私達のすぐ傍に落ちてきた。


「うわっ!?」


 害がないとはいえ、絵面的に血濡れになるのは避けたい私は体をくねらせ、赤黒い液体を回避する。

青髪の美丈夫も顎を逸らして、何とか血の雨を避けた。

血塗れにならずに済んだ私とニールさんはホッと息を吐き出し、安堵するが────血の持ち主であるファフニールはそうじゃなかったようで……。


『うぁぁぁああああ!?』


 絶叫と共にブレスを中断させ、前足と尻尾を激しく動かした。

奴の口端からポロリと仕舞い切れなかったブレスが零れるが……リーダーは何食わぬ顔で回避する。

下に落ちたブレスの残骸が自身の血と床を変色させる中、ファフニールは突然急降下を始めた。

どうやら、最大飛行時間を過ぎてしまったらしい。


「動くよ〜ん」


 降ってくるファフニールの体を一瞥した徳正さんはいつもの調子で地面を駆け抜けた。

あっという間に奴の真下から抜け出した私達は壁際に控えていたラルカさん達と合流する。

────と、ここで凄まじい落下音と共にファフニールの巨体が床に打ち付けられた。


 あっ!そう言えば、リーダー達はどうなったんだろう?リーダーのことだから、無事だとは思うけど……。


 落下の衝撃で巻き起こった強風を受け止めながら、私は視線を前に向けた。

両腕で顔をガードしつつ、薄く目を開ける。

砂埃のせいで少し見えづらいが……ファフニールの近くに二人の人影を見つけた。


 多分、あれがリーダーとレオンさんね。落下には巻き込まれなかったみたいだし、大丈夫そう。

位置的にまた直ぐに攻撃を仕掛けるんでしょう。首下の傷は致命傷になりやすいから。念入りに攻撃しておいて、損は無い。


「恐らく、もうファフニールに抵抗する力は残っていません。このまま一気に押し切ります。反撃する隙も与えずに倒してください」


 声を張り上げてそう言えば、前衛メンバーが真っ先に動き出した。

レオンさんを床に下ろしたリーダーは軽く地面を蹴り上げ、空中に舞い上がる。そのあとに続くように、狂戦士(バーサーカー)化を保った茶髪の美丈夫もジャンプした。

痛みに悶えるファフニールを尻目に、彼らは情け容赦なく首下の皮膚に斬り掛かる。

わざとなのか、たまたまなのか……彼らの剣は傷口を押し広げるようにのめり込んだ。


『ぐぎゃぁぁぁあああ!?』


 拷問に近い所業に絶叫するファフニールは前足を右へ左へ動かした。

何かを追い払うような動作をするドラゴンだったが、当の本人達は全く意に介さない。

空中で体をくねらせて前足を避けたり、逆に前足を足場代わりにして方向転換する始末……まさに余裕綽々だった。


 華麗に着地する彼らを一瞥し、ふと顔を上げれば────セトとラルカさんの姿が目に入る。

前衛メンバーが攻撃を仕掛けている間に移動した二人はファフニールの頭上に居た。


「神の祝福に感謝し、恩に報いよ────《プリフィケーション》!」


 聞き慣れた声が鼓膜を揺らし、ガラハドの盾から純白の光が解き放たれる。

ファフニールの頭上に降り注ぐそれはまるで後光のようだ。

天井を蹴って方向を変えるラルカさんに『器用だなぁ』と感心していれば、セトの聖魔法がファフニールの脳天に直撃した。

ドロリと溶けた鱗が奴の鼻や頬を伝って、床に落ちる。


『わ、ワシの頭がぁぁぁああ!!』


 致命傷となり得る場所が溶けてしまい、ファフニールは悲鳴を上げた。

そこへ、すかさずレオンさんとリーダーの連撃が入る。禿げた……じゃなくて、鱗の溶けた頭からダラダラと赤黒い血が流れた。


「おっ?ハゲ頭が血だらけになったね〜」


 そう言ってケラケラ笑う徳正さんに、思わず釣られそうになった。

笑いを必死に堪える私の隣で、ニールさんもニヤけそうになる頬を何とか引き締める。

AIだから気遣う必要は無いのだが、さすがにファフニールの目の前で大笑いするのは気が引けた。


「……オホンッ!我々は引き続き後方支援に徹しましょう」


「「「了解|(だよ☆)」」」


 私の指示に即座に頷いた彼らはそれぞれアイテムを手に持ち、裏方に回る。

弓を足場代わりに提供したリアムさんは前衛メンバーの動きをサポートし、剣でリズムを奏でるニールさんはファフニールの聴覚を鈍らせた。

また、徳正さんはなんだかんだ邪魔な尻尾を牽制し、私は仲間の傷を癒す────と言っても、今のところレオンさんしか負傷していないが……。

リーダーやラルカさんはもちろん、我々の手厚いサポートを受けるセトは完全に無傷だ。


 まあ、レオンさんの怪我だってほぼ軽傷だけどね。ファフニールの鱗に手や足を引っ掛けて、ちょっと血が出るくらい。ぶっちゃけ、ポーションで治せる程度の怪我だった。


 この調子なら、直ぐにファフニールを倒せるだろう。

────と楽観視する私だったが、二十分が経過した今でもまだファフニールは倒れない。確実にダメージは入っているけど、まだ火力が足りなかった。


 うちのパーティーメンバーはさておき、他の人達は徐々に息が上がり始めている。集中力も切れ掛かっているし、このまま戦い続けるのは危ないだろう。


 ここ二十分の間にほぼ丸裸にされたファフニールと息切れの激しいセト達を交互に見つめる。

長時間スキルを使用しているニールさんに関しては、少し顔色が悪かった。

もしかしたら、マジックポーションの限界量を超えたのかもしれない。


「このままじゃ、いけませんね……セトとレオンさんは即時離脱!作戦を変更します!」


 パンパンッと手を叩き、そう指示すれば二人はラルカさんに担がれて戻ってきた。

『はぁはぁ』と肩で息をする二人に、もっと早くこうすれば良かったと後悔する。

これ以上、彼らに無理をさせるのは酷だと悟った。


「セト、レオンさん、ニールさん、リアムさんの四人には待機を命じます」


「はっ……!?何でだよ……!?」


 『休め』と告げる私に、今回の戦いで最も活躍したセトが真っ先に噛み付く。

『俺はまだやれる!』と訴えかけて来る紺髪の美丈夫に、私は首を左右に振った。


「最後まで戦い抜きたいセトの気持ちは分かるけど、今回はダメ」


「で、でも……!!」


「そんな状態じゃ、仲間の足を引っ張るだけよ。さっきだって、ミスをしてラルカさんに迷惑を掛けたでしょう?」


「っ……!」


 先程、誤って自分の方に聖魔法を打ってしまったセトは反論出来ずに口を噤んだ。

自分でも、体力や集中力が落ちて来ているのは理解しているのだろう。

悔しそうに俯くセトを前に、私は苦笑を浮かべた。


「セトの頑張りは皆よく分かっている。貴方が居なければ、戦いは困難を極めただろうから。だから、最後まで戦い抜くことに拘らないで。たとえ、途中で離脱したとしてもセトの頑張りや苦労は変わらないから」


 ここで無理をする必要は無い・貴方はよく頑張ったと言い聞かせ、私は彼の頭を撫でた。

『そう言えば、前もこんなことがあったな』と目を細めつつ、セトの返事を待てば彼はこう答える。


「……分かった。大人しく休んでおく。でも、どうやってファフニールを倒すつもりなんだ?あんなに攻撃しても、全然倒れなかったのに……」


 チラリとファフニールに目を向けるセトはまだ攻撃を続けるリーダーに、『タフだな』と呟く。

あれだけ動いたのに息一つ乱さない“死屍累々の王”は無表情のまま、ファフニールに斬り掛かる。

もはや、悲鳴をあげる気力もない青緑色のドラゴンはペタリと床に伏せていた。


 前回のバハムート戦では、氷の最上位魔法で片をつけた。でも、それはヴィエラさんだからこそ出来たこと。我々に同じことは出来ない……。

まさか、ファフニールのHPがこんなに高いと思わなかったけど、あの三人(・・・・)が本気を出せば行ける筈……私の見立てが正しければ、ファフニールのHPは既に四分の一を切っているだろうから。


「ファフニールの討伐は────リーダー、ラルカさん、徳正さんの三人にやって頂きます。彼らが全力で(・・・)切り掛かれば、恐らく直ぐに倒れるでしょう」

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