第244話『ファフニールの討伐方法』
「ファフニールの右目も潰す必要がありますね」
独り言のようにボソッとそう呟けば、徳正さんとリアムさんがゆるりと口角を上げる。
観戦ばかりで飽きてきたのか、彼らはお菓子を強請る子供のように私をじっと見つめた。
ファフニールの様子を見る限り、バハムートのような勘の鋭さはないと思う。もし、あるなら左目を失った状態でも正確に攻撃を繰り出せただろうから。
つまり、視力さえ奪えば、ファフニールは周りの状況を把握出来ない。当てずっぽう同然の攻撃しか出来なくなるのだ。
そうなれば、簡単にセトの聖魔法を当てることが出来るし、討伐もより楽になる。
幸い、こっちには馬鹿げた遠隔操作能力を持つリアムさんと投擲能力に優れた徳正さんが居る。
おまけにファフニールは私達に気を配る余裕がないみたいだし、成功率はかなり高かった。
「リアムさん、徳正さん。二人にお願いがあります────遠距離攻撃でファフニールの右目を潰してください」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる私に、白髪アシメの美男子と黒衣の忍びは満面の笑みで応じる。
「「ラーちゃんのお願いとあらば、喜んで」」
演技がかった動作で恭しく頭を垂れるリアムさんと徳正さんに、私は満足げに頷いた。
弓や手裏剣を準備する彼らを他所に、蚊帳の外へ弾き出されたニールさんは肩を竦める。
疎外感を感じているみたいだが、さすがに遠距離攻撃部隊に加わる度胸は無いのか、不満を漏らすことはなかった。
スキルの効果を維持するため、|MPを補給する《マジックポーションを飲む》ニールさんから目を離し、前を見据える。
ファフニールの顔の位置がちょっと悪いな……右目を狙うのはちょっと難しいかも。でも、ガッツリこっちを向かれると、逆に動きづらくなるし……最悪の場合、こっちの動きを察知されるかもしれない。それは普通に困る。
左目を奪った時と同じように奇襲攻撃を仕掛けたい私は『どうしたものか』と頭を悩ませた。
セトの聖魔法に気を取られているファフニールは紺髪の美丈夫から決して目を離そうとしない。
そのせいか、ここからではファフニールの後頭部しか見えなかった。
「セト達とタイミングを合わせて動けば、何とかなる……かな?ニールさんのスキルもあるし……でも、ファフニールに気づかれたら……」
ブツブツと何かの呪文みたいに独り言を零す私は顎に手を当てて考え込む。
『どうにかして、奴の視野を狭めることは出来ないか』と思い悩んでいれば────不意にポンポンッと肩を叩かれた。
「ラミエル、ファフニールの冷静さを奪う方法なら────あそこにあるぞ」
そう言って、青髪の美丈夫はファフニールの足元を指さした。
そこには、奴の尻尾や前足に攻撃されているリーダーとレオンさんの姿がある。
ファフニールの攻撃を回避しつつ、隙を見て反撃する二人はまだ余裕がありそうだった。
「なるほど。痛みでファフニールの冷静さを奪うって訳ですか」
「ああ、そうだ。あの二人は魔力を温存するため、まだ狂戦士化やスキルを使っていないようだし、強烈な一撃をお見舞いするよう頼めばいいんじゃないか?痛みに弱いファフニールのことだから、きっと直ぐに冷静さを奪う筈だ」
「それは一理ありますね。早速実行してみましょう」
『やってみる価値はある』と判断し、私はリーダー達に向かって、大きく手を振る。
ファフニールの左目が見えないのをいいことに、ピョンピョンと飛び跳ねて彼らの気を引いた。
奴の前足をジャンプして避けた銀髪の美丈夫と茶髪の美丈夫はチラリとこちらに目を向ける。
大柄な二人の男性を前に、私は口パクとジェスチャーを使って、強烈な一撃をお見舞いするよう指示した。
ニールさんのスキルのおかげか、彼らの理解力は高く、すんなり指示が伝わる。
グッと親指を突き立てるリーダーとレオンさんを前に、ホッと息を吐き出した。
意思疎通が出来なかったら、どうしようかと思ったけど、問題なかったみたい。まあ、出来なくてもチャットや通話をすればいい話なんだけどね。
「セトとラルカさんはまあ……知らなくても大丈夫ですよね。ただ、場所を移動してもらうだけですし」
「よく分かんないけど、ラーちゃんがそれでいいならいいんじゃな〜い?」
私の絶対的味方である徳正さんは手裏剣を構えながら、いい加減な返答をする。
その隣で弓を構えるリアムさんも『僕は何でも構わないよ☆』と頷いていた。
この中で唯一、作戦内容を完璧に把握しているニールさんは微妙な表情を浮かべているが……。
いや、だってさ?ファフニールの意識が二人に向いている状況で意思疎通するのは難しいじゃん?下手したら、作戦がバレるかもしれないし……それはさすがに困る。
『いいのか?それで』と視線だけで問い掛けてくるニールさんに、コクリと頷き、私はリーダー達に合図を送った。
すると────圧倒的戦闘力を誇る狂戦士の二人がピタリと動きを止め、剣を構える。
それに呼応するかのように、遠距離攻撃部隊であるリアムさんと徳正さんも集中力を高めた。
さあ────作戦開始だ。
「狂戦士化5%……|《狂乱剣舞》!」
狂戦士化+スキルという最強コンボを使い、レオンさんは勇ましく斬り掛かった。
先陣を切った茶髪の美丈夫は薙ぎ払うように剣を横に滑らせ、ファフニールの横腹を更に深く……内蔵の奥まで切り裂く。
ブシャッと赤黒い血飛沫が上がる中、畳み掛けるようにリーダーが歩み出た。
「狂戦士化20%」
レオンさんと入れ替わるように前へ出たリーダーは背筋が凍るほどのオーラを解き放つ。
狂戦士特有の禍々しいオーラに、思わず息が詰まった。
本能的な恐怖に苛まれる中、銀髪の美丈夫はグッと剣の柄を握りしめ、大きく振り被る。
そして────情け容赦なく、大剣を振り下ろした。豆腐でも切るかのようにスルリと刃が入り、皮膚や内蔵を縦に切り裂く。
これで終わりかと思いきや……リーダーは無情にも、差し込んだ剣を限界まで奥に押し込んだ。
『ぐぎゃぁぁぁああああ!!?』
悲鳴と呼ぶにはあまりにも汚い声が響き渡り、思わず耳を塞いだ。
レオンさんとリーダーの連続攻撃に、ファフニールは前足や尻尾をバタつかせる。
癇癪を起こした子供のように暴れ回る奴を尻目に、リーダーはスッとオーラを収めた。
「ラミエル」
────あとは頼んだぞ。
そんな声が聞こえた気がした。ただ名前を呼ばれただけなのに、不思議とリーダーの気持ちが伝わってくる。
『これもニールさんのスキルの効果かな?』なんて思いながら、私はしっかり頷いた。
「────セトとラルカさんはこちらへ来てください!大至急です!」
ファフニールの耳にも入るよう、わざと大声でそう指示を出せば────彼らは一瞬の躊躇いもなく、駆け出した。
『何で?』『どうして?』という言葉を呑み込み、ただただ私の指示に従う彼らに迷いはない。
対する青緑色のドラゴンは畳み掛けられるかもしれない恐怖に見舞われ、身を竦めた。
歯を食いしばって横腹の痛みを堪え、セトの動きを必死に目で追う。
────それこそが私達の狙いだとも知らずに……。
ファフニールの視野は狭まり、完全にセトのことしか見えていない。千載一遇のチャンスだ!
「────ラルカさん、軽くジャンプしてください!」
そう叫べば、私達の頭上を飛び越えるようにクマの着ぐるみがピョーンッと跳ねる。
その腕にはしっかり餌……じゃなくて、紺髪の美丈夫がぶら下がっていた。
セトのことしか見えていないファフニールは下で何が起きているのかも知らず、私達に右目を曝け出す。
狙うなら、今しかない……!!
「────やっちゃってください!二人とも!」




