表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

244/315

第243話『反撃開始』

「あとは頼んだよ、セト」


 ラルカさんに担がれて、宙に舞い上がるセトは砂埃に紛れ、ファフニールの左側を陣取る。

左目を失ったファフニールにとって、そこは最も感知しづらい場所だった。

痛いところをとことん突いて行くラルカさんのスタイルに、『いいぞ、もっとやれ』と勝気に微笑む。

誰もが期待に胸を膨らませる中、セトはガラハドの盾に白い光を宿した。


「神の祝福に感謝し、恩に報いよ────《プリフィケーション》」


 騒音が激しい室内にセトの声が響き、盾に宿った純白の光がファフニール目掛けて放たれる。

セトの詠唱を聞いていなかったのか、ファフニールは聖魔法の攻撃に全く気づかず────まともに食らってしまった。

奴の横腹辺りに直撃した純白の光はパッと弾けるように消え────青緑色の鱗を溶かす。

まるで飴のようにドロリと溶けた鱗は黒くなり、床に落ちた。

想像以上の効力に目を剥く中、『ぐぎゃあああ!!』とファフニールの絶叫が轟く。左目に続いて、横腹の鱗や皮膚も溶かされたため、奴はもう涙目だった。


 今の攻撃でファフニールに聖魔法が有効だと証明された。ついでに奴が闇属性の魔物(モンスター)だってことも……そうじゃなきゃ、ここまで効力は発揮しない。

でも、残念なことにセトの全力でもファフニールを一撃で倒すことは出来ないようだ。まあ、鱗を溶かせるなら幾らでも使いようはあるけど。

────勝ち筋はもう見えた。


「セトはそのまま聖魔法の攻撃を続けて。魔力(MP)が許す限り、打ち続けてちょうだい。ラルカさんは引き続きセトの護衛をお願いします。他の人達は彼らのサポートをしつつ────鱗の溶けた部分に攻撃を仕掛けてください。恐らく、普通にダメージが入る筈です」


 スッと目を細める私は曝け出されたファフニールの肌を見て、ニヤリと笑う。

喜びを隠し切れない私は『ふふふっ』と怪しげな笑い声を漏らした。


「ちょうど左目が潰れているので、ファフニールの左側に回ることをオススメします。それから────少しでも連携力を上げるために例のスキルを使って頂けると助かります、ニールさん」


 そう言って、リーダーの脇に担がれている青髪の美丈夫に目を向ければ、彼はコクリと頷いた。

痛みにのたうち回るファフニールを前に、誰もが戦闘態勢に入る。

今までずっと様子見と防戦を強いられた獣達は爛々と目を光らせた。


「ニールさんのスキル発動が開始の合図です。それでは、お願いします」


「分かった」


 カチャリと眼鏡を押し上げたニールさんは『ふぅ……』と一つ息を吐き、瑠璃色の瞳に闘志を宿す。


「必ず勝って、仲間の元へ帰るぞ。スキル発動────一心共鳴 魂のレクイエム!」


 半ば叫ぶようにニールさんがスキル名を口にすれば、もう何度目か分からない違和感が胸に広がり、私達の心を通わせた。

見えない糸を介して、お互いの意思を汲み取る私達は各々好きなように動き出す。

勝利の切り札であるセトは詠唱準備に入り、高火力を誇るレオンさんは長剣片手に駆け出した。

ファフニールの様子を見守る徳正さんは妖刀マサムネを手に持ち、私の前に立つ。

両脇にニールさんとリアムさんを担ぐリーダーは私の傍に彼らを置くと、背中に背負う大剣を引き抜いた。


「ラミエル」


「分かってます。彼らのことはお任せください」


 ニールさんのスキルのおかげで言葉がなくてもリーダーの考えをある程度読めるようになった私はニッコリ笑う。


 リーダーはニールさんとリアムさんを私に預けに来たのだ。狂戦士(バーサーカー)のトップランカーとして、前線に出るために。

もう様子見の必要がなくなった以上、リーダーをニールさん達の護衛に使うのは愚策でしかないから。


 狂戦士(バーサーカー)化すれば、多分リーダーの攻撃力はこの場の誰よりも高い。そんな人をタンク代わりにするのは勿体なかった。

ちょっと……いや、かなり徳正さんの負担が大きくなるけど、今のファフニールなら問題ないでしょう。


「では、行ってくる」


「はい、お気をつけて」


 銀髪の美丈夫は私の言葉にコクリと頷くと、レオンさんの後を追うように走り出した。

強風を巻き起こすほどの脚力とスピードに苦笑しつつ、リーダーの後ろ姿を見送る。

あっという間にレオンさんに追いつき……瞬きの間に追い越した彼はファフニールに思い切り斬り掛かった。

セトの聖魔法で鱗が溶け、剥き出しにされた皮膚にリーダーの一太刀が浴びせられる。


『ぐぁぁぁあああ!!?今度は何じゃ!?一体何が……!!』


 リーダーの斬撃により、ファフニールの皮膚は切り裂かれ、ブシャッと赤黒い血が吹き出した。

傷口は深く、内臓にも届いているようで少しだけ……本当に少しだけ奴の体内が見える。

グロテスクな光景が広がる中、ファフニールの血を大量に浴びた銀髪の美丈夫は涼しい顔で髪を掻き上げた。


狂戦士(バーサーカー)化もスキルも使わずにあれか……無名の攻撃力は桁外れだな」


「僕らの出る幕はないかもしれないね☆」


「まあ、主君は俺っち達を唯一負かせるプレイヤーだからね〜。トカゲくらい、余裕で退治出来ると思うよ〜」


 ニールさん、リアムさん、徳正さんの三人は感心したようにそう呟き、リーダーの戦いを見守った。

想像以上の大ダメージにビビったファフニールが尻尾と前足で応戦するが……左目が見えないのでちょいちょい攻撃にズレが生じる。

そのため、リーダーはほとんど動かずに攻撃を躱すことが出来た。

────と、ここでようやくレオンさんが現場に到着する。


「クソ雑魚バーサーカー姫、随分と遅かったね〜」


「先に出発したのはレオンさんの方なのにね☆」


「無名が相手じゃ仕方ないだろ。あいつは化け物の中の化け物なんだから」


 辛辣なコメントを述べる彼らに苦笑しつつ、私は前衛メンバーの動向を見守る。

危なっかしい動作でファフニールの尻尾や前足を避けるレオンさんはトテトテと傷口に近づいた。

そのまま長剣で斬り付けるのかと思いきや───徳正さんから貰ったクナイで攻撃を仕掛ける。

暗器を二本手に持つ茶髪の美丈夫は大きく開いた傷口にクナイをめり込ませた。

これにより、ファフニールは再び絶叫!まさに鬼の所業である。


「うわぁ〜……さすがに俺っちでもあそこまでしないよ〜」


「傷口に塩ならぬ、クナイだな」


「それ、ちょっと意味違いません?」


「はっはっはっ!レオンさんもついにずる賢い戦い方を覚えたってことだね!」


 これって、ずる賢い戦い方……なのかな?ちょっと違う気がするけど……まあ、いいか。


 腰に手を当てて高笑いするリアムさんを一瞥し、私はチラリとセト達に目を向ける。

もう聖魔法の準備は整っているようだが、ファフニールの警戒が解けないため、撃つのを躊躇っているようだ。


 リーダー達の攻撃に反撃はしているものの、セト達の監視は続けているみたい。

今までの流れ……というか、戦いでセトから目を離すのは不味いと判断したんだろう。だから、どんなに痛くても感情が昂ってもセトへの警戒を最優先に考えている。


 今、聖魔法を撃っても避けられる可能性が高い……いっそ、セトを囮に使って高火力で押し切る手もあるけど、溶けた場所はほんの一部だしなぁ。出来ないことはないけど、あまり現実的じゃない。せめて、もう三箇所……いや、二箇所は鱗を溶かして欲しい。

そのためには────。


「ファフニールの右目も潰す必要がありますね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ